竜神さまの生贄になるだけの簡単なお仕事

夕鷺かのう/ビーズログ文庫

序章



 ルーチェ・ルリジナは十歳の誕生日、りゅうに食べられて死ぬはずだった。

 

 今でも思い出す。岩にくくりつけられた身体からだらす、波の冷たさ。ふるえる足を𠮟しかりつけ、ルーはせまりくるあおうろこきょだいすいりゅうえた。ぜんと顔を上げたまま

くつもりで。

『そんな幼い身で、はかなく散ることもないだろう』

 

 夜空のごときやみいろの鱗を持つあの美しいりゅうじんが、おのれを助け出す、そのしゅんかんまでは。

 

 ――そして、六年後。

 

 ルーは再び、別の竜神のいけにえになる。

 

 けれど今度は前とはちがう。しにしょうぞくは己の手で身にまとい、自らの意志で竜神のねぐらにおもむく。

 

 そして、こう願ったのだ。


「竜神さま。どうぞ、私をお食べください!」

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