第37話 Web会議(2)

 しかしながら、Web会議システムの導入が難しいかと言われると、答えはノーと言わざるを得ないだろう。Web会議システムは全てアプリケーションで成り立っているからそれをインストールすれば良いだけだし、それらが安定して動作するためには然程高いスペックを必要としない。そりゃあ、高いスペックのマシンであればある程、動作が軽くなるのは当然だし、それについては何も言わなくても良いだろう……。とはいえ、ぼくは導入していないし使ったこともないのだから、それについては知ったかぶりで突き通すしかなかったりする。寧ろ使おうという努力をしている六花の方がぼくより優秀だ。


「ええと、マイクとスピーカーはパソコンに付属している奴で問題ないし……、アプリケーションは入れてあるし……、後はどうすれば良いんだったかな?」


 インストールが済んでいるならば、後は外部さえ良ければ問題ないんじゃないかな。設定が済んでいなかったら、もしかしたら上手く使えないかもしれないし。


「だったら、これで良いかもしれませんね……。じゃあ、起動してっと」


 アプリケーションはSkypeのようだった。Skypeを起動すると、連絡先に登録してある名前をクリックした。ユリコと書かれているその名前を見ると、女性で間違いないのだろう。

 画面が真っ暗になっていたのだけれど、しばらくするとそれが変わった。青い背景に、女性が一人映っている。ボサボサの茶髪にかなり度数が高いように見える眼鏡をかけている。いかにも根暗な感じがする。


「は、はじめまして……。あの、ユリコさんで宜しいでしょうか……?」

『はいはーい。そうですよー。わたしがユリコです』


 間延びしたような声でそう言うと、何かパソコンを操作しているような感じを見せて、話を続けた。


『わたしは都市伝説を専門に扱っているライターなのですけれど……、それにしても良くわたしまで辿り着いたというか……。わたしなんて、ただの下っ端なのに……』

「ロンファイン事件のレポート、見ました。後は……あなたが名前の由来にしているあの都市伝説も」


 都市伝説? 名前の由来になっている都市伝説なんてあったのか?


『あなた、「ツナカユリコ」を知っているんですか……。いやー、そんなマイナーな都市伝説を知っているなんて』


 ああ――ツナカユリコなら聞いたことがある。確かゲームの都市伝説だったよな。その名前をゲームのプレイヤーネームにすると、後ろから視線を感じたり不幸な目に遭ったりするとかいう奴。確かユリコってだけでも駄目だったなんて聞いたことがあるけれど、そうなると全国のユリコさんは本名でプレイ出来ないってことだよな……。

 というか、仮にその都市伝説を信じているとしたら、自分で検証しているということになるのかね。


「わたし、あまりゲームはしないのですけれど……。怖かったですね!」

『いやー、都市伝説って結構色々あるのですよね。ゲームだけだと、「すぐにけせ」「ホラーゲームの赤い女」「心霊写真を題材にしたゲームで起きた怪現象」「謎のメモリーカード」「絶対にプレイしてはいけないスーファミソフト」など……。ほんとうにあるのかどうかが分からないのが、都市伝説の魅力なのですよね……!』


 この人、自分の好きなジャンルだと延々話すタイプの人だな……。

 それにしても、今言っている都市伝説も、インターネットでは良く知られている都市伝説だったような気がする。『すぐにけせ』とか代表格だよな。昔の――二十五年以上前のゲームには約六万五千分の一の確率で、タイトル画面の後に赤い文字で『すぐにけせ』と画面一杯に出て、ブザー音が鳴り響く――という。確かに聞いているだけだと少し怖い気がするけれど、確か開発者がインタビューでデマだって言っていたような……。でも、違うゲームだけれど実際に入れようとして頓挫した、みたいなこともあったらしいから実際に嘘か真か分からなかったりするのだ。


『ゲームの都市伝説だと、後は何があったでしょう……。ああ、例えばアメリカであったと言われる心理学の実験に使われていたらしいアーケードゲームとか。グレードは下がりますが、死亡したヒロインが蘇るとか、超能力者がゲームを訴えた時に実際にスプーンを曲げるように言ったりとか……六万五千回以上ロケットを打ち上げると何かイベントが起こるとか……。後は最近現実になった話だと、ETのゲームを作り過ぎちゃって埋めた話とかですかねー? 確か掘り出したらほんとうにゲームソフトが出てきたとか』


 ああ、それは確かにニュースになっていたような気がするな。ビデオゲームの墓場、だったかな? 一九八〇年代というのは、任天堂がゲームを作る以前に、アメリカでアタリというメーカーがトップシェアを誇っていたらしい。けれどアタリは自分のハード――ゲーム機のことだ――に出すソフトのチェックをしなかった、というか結構甘かったらしい。だからバグ満載で打ち切りみたいな展開のゲームであっても出していたのだとか。つまり、品質が悪い状態で出していたらしいのだ。そんなものが沢山出回っていたら、最初にゲームを購入していたユーザーからは、『あのゲーム機のソフトは外ればかりだ』なんて口コミが出回ってもおかしくない。そうして気づけば大量の在庫を抱えるようになって、『ゲームソフトは粗悪なものだ』というレッテルが貼られてしまって――気づけばゲームソフトが売れなくなってしまった。

 これが俗に言うアタリショックらしい。

 らしい、というのはぼくが生まれる前の話だからであって、経験したことがないからだ。

 ただ、この後任天堂がニンテンドーエンターテインメントシステム――ファミリーコンピュータの海外版――が売れるようになるまでは、ゲーム機にとっては冬の時代となった訳だ。まあ、今はマイクロソフトがXBOXシリーズを販売しているし、アタリもアタリボックスなるゲーム機を販売するようだし、そんな冬の時代は何処へやら、といった感じだ。ただまあ、アタリのアタリボックスは最近出てきた復刻ゲーム機のようにソフトが内蔵されているものであって、純粋な新型ゲーム機ではないらしいけれど。


『いやー、あなたゲーム詳しいですね。もしかしてレトロゲーム機も詳しかったりします?』


 叔父さんがゲーム好きでね。だから知っているんだよ。後は中学時代の友人にドリームキャストが好きな奴が居てね……。当然その頃にはドリームキャストなんてレトロゲーム機に片足突っ込んでいるような代物だった訳だけれど、今思うとセガハード好きだったんだろうな……。叔父さんは、プレイステーション2とかプレイステーション3とかを持っていたような気がする。後はずっとポケモンが好きなんだよな。今でもたまに実家で会うときはポケモンの攻略本や漫画を読んでいたりするよ。ポケモンGOもやっていた気がする。叔父さん、何処にそんなゲームやる時間あるんだろう……。


『叔父さんは……年齢的にはファミコン世代になるのでしょうかね? いやー、今年もファミコンゲームのリメイクとか目白押しですからね。そういえばファミコン探偵倶楽部のリメイクはどうなったんでしょうねー。シュタゲの会社が開発するらしいですけれど、それが良い方向に転べば良いのですが。ただ、一個贅沢を言わせてもらうと、サテラビューで出た三作目も是非リメイクして欲しいですけれど……、それは難しいのでしょうかねー』


 あ、この人単純にゲーマーなだけだ……。ぼくは直ぐにそう理解して、即座に頭を切り替えた。ゲーマーならゲーマーなりの対応の仕方ってものがある。別にゲーマーが嫌いな訳でも軽蔑している訳でもないのだけれど……、ただゲームをやらない人とゲーマーでは話の熱量が当然違う訳であって、それをどう乗り越えるかが結構ネックだったりするのだ。

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