第四章 都市伝説ブロガー

第35話 進展

 学生の休みというのは大抵は土日であるのだけれど、それを覆す休みというのが存在する。

 春休み、夏休み、冬休みの三つである。冬休みはなかなか外に出られなかったけれど――感染症の感染者が増加傾向にあったこともあって、外にすら出られなかった――春休みにもなってくると、ワクチンが開発されつつあるということもあって、結構外出する人も増えていた……。感染症にかかることを恐れていたところで何も解決しない、などと思ったのかもしれないけれど、しかしながらそこで諦めてしまうとさらに感染が拡大してしまうような気がする……。


「うちはUSJに行くんだよな、ジョンはどうする?」


 城崎は久しぶりに我が家にやって来ていた。春休みが始まるのは未だ二週間は先のことだぞ……。というか、その前に進級に必要な試験があるはずだけれど。


「一年は別に留年なんてしねーって。それより、舞ちゃんはどうなんだよ。四月から高校生だろ? 結局何処に行ったんだっけ」


 新宿第一学院大学付属高校という、頭の良い高校だったかな……。正確に言うと、中高一貫校であって、そのまま私立新宿第一学院大学に進学出来るらしい。私立ならお金がかかりそうなものだけれど、我が賢妹はその辺りをあっさりスルー出来る程の学力を持ち合わせていたようで、入学時には特待生として入ることになるらしい。何でも、学費の七割が軽減されるのだとか。公立でひーこらやっているぼくとは大違いだね。


「舞ちゃんは入試も終わったのに、今日も勉強か……。勉強するのは悪いこととは言わないけれど、たまには息抜きした方が良いんじゃねえかな」


 それは同意する。舞は頭が良いし運動も出来る。おまけに性格も良いのだから言うことなし、といったところではあるのだけれど……、最近はあまり外に出ているような気がしない。両親の話では夜に出かけるそうだけれど、それって大丈夫? 非行に走っていたりしない?


「舞ちゃんを信頼している、ってことだろ。にしても羨ましいねえ……。あの学校、何でも世界一の天才を輩出するために作られた学校らしいぜ。昔フジテレビがあっただろ? あそこにあるマンションを改造して、今や地上に学校施設、地下に研究施設を兼ね備えているとかどうとか……。財力を使って、優秀な人材を沢山集めているって話らしいけれど、何処までほんとうなんだろうな?」


 どうだろうね。確か総理大臣が、この国のITに力を注ぐとか十年遅い発言をしていたような気がするけれど、あの学校を作れるようになったところを見ると、未だ未だ国は企業に負けているような気がする。いや、正確には企業ではなくて財閥に近いのか? あの学校って、日本有数の企業が集まって作ったから、実質財閥復活なんて話題になっていたような。


「それにしても舞ちゃんも四月から高校生だもんなー……。舞ちゃんは高校で何やるんだ? 兄妹でそういう話とかするの?」


 そりゃあ……するに決まっているよ。とはいえ、話をするのは一日三回の食事のうち夕飯ぐらいか。それも家族全員が集まっている訳だから、父親と母親も話をしているのだけれど。その中にぼくが何とか入って話をしているのだ。話題に事欠かない我が家の食事はさぞ楽しいものだろう――と思うなかれ。実際はそんなことなんてない。常に父親が話の主導権を握っている。父親は色々な現場を巡って、今は神奈川の海岸沿いの現場で仕事をしているのだけれど、東京を離れたくないからと言って今でも朝六時には家を出る毎日だ。……別に単身赴任をしても良いだろうに、家族と離れるのが寂しいのかもしれない。


「そういや、CDって買うか? ジョン」


 藪から棒に何を言い出すかと思えば……、でも、CDは最近めっきり買わなくなってしまったような気がする。何せサブスクが流行ってしまっていたからだ。月額料金を払えば音楽が聴き放題。しかも価格はせいぜいシングル一枚分ぐらい。だったら、そっちを利用した方が良いって訳だ。しかしながら、だからといってCDの価値が完全に消失したかと言われるとそうでもなくて、その価値は緩やかに低下しているものの未だにキープ出来ていると思う……。今はインターネットで流行している歌手も非常に多い。シングルもアルバムも出していないのに、テレビには引っ張りだこなんて良くあるケースだし。最近は音楽レーベルが所属しているアーティストに一発取りでパフォーマンスをしてもらう動画だって投稿しているぐらいだしな。再生数凄いらしいし。


「……ああ、確かにインターネット発のアーティストは増えてきているよな。CMでも使われているし、映画の主題歌にも使われているし、最近だと……何だっけ、SNSミステリーっていう企画にも使われていたよな、ほらこれ」


 城崎はスマートフォンを使ってあるページをぼくに見せてきた……。そして、それこそが六花の調査していたロンファインを軸に進んでいるSNSミステリーと題する企画のページだった。


「SNSとミステリーって、今までありそうでなかった組み合わせだったりするよな……」


 そうかな? 現実の謎解きというのは、昔からあったような気がするし……。それこそ、リアル脱出ゲームTVとかあったよな。あれは最初の話では謎の結果によってストーリーが変わることなんてなかったけれど、最終話は謎を解いた人数に応じてストーリーを変えるなんて言っていたな……。結局、謎を解けた人間は結構な人数居たので、トゥルーエンドに導けたらしい。あれ、確か最終話でサプライズプレゼントということで車のプレゼントなかったっけ……。


「え、そんなことあったのか……。でも、このミステリー企画もなかなか強者が多いよな。だってツイッターで聞いた話だと、三十分ぐらいで謎が解けてしまったり、動画に隠したQRコードを見つけてしまったり、スーパーコンピューターを使って解析している人も居るんだろ? 謎解きに全力投球し過ぎだろ」


 そりゃあ、謎解きって自分の実力を見せつけることが出来るコンテンツとしては最高だからな……。それにSNSだと皆で協力して遊べるしな。そういうところも良かったりするんじゃないかな。ぼくはあまり参加しようとは思わないけれど。


「へえ、どうして?」


 そりゃあ、謎解きが苦手だからだよ。ぼくはストーリーを追いかけるだけで充分かな。取り敢えずぼくが遊ぶのは、なるべく頭を使わないものが良い訳で――。

 ――と、そんなことを考えていたら、スマートフォンに何か通知が入った。見てみるとメッセージが送られてきたようで、送り主は六花だった。そして、そこにはこう書かれている。


『大変お世話になっております。三橋六花です。最近少し寒さが和らいできていますが、お体の様子は大丈夫でしょうか。覚えておりますでしょうか? ロン』


 ……六花はどうやらスマートフォンをあまり使い慣れていないらしい。何故なら、スマートフォンのメッセージは七十文字が上限であるからだ。

 今度会った時、メールアドレスかLINEを教えてあげないといけないな……、ぼくはそう思ってメッセージに返信するのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る