第30話 ゲーム小咄

 結局、財布に入っていた野口英世先生に動員していただくことになった……。立花はお金を持っているからそのまま購入することが出来たのだけれど、致命的な問題があって、タッチパネルの操作が出来ないということだった。物理的にという訳ではなく、思考がそこまで至っていないというのが本音だ。馬鹿にしているようかもしれないが、実際そうなのだから致し方ない……。


「地下鉄というのは入り組んでいますし、車窓も見ることが出来ないので、ないない尽くしではありますけれど……、道路を交差しないから踏切がないという利点はあるのかもしれませんね」


 基本的に地下鉄は道路の真下を通っているはずだ。何故なら、道路は公道であり、それは即ち国などの自治体の資産だからだ。それ以外の私道や私有地に地下鉄を通さないのは、基本的にその私有地の所有者に許可を貰わないといけないから。ところが公道なら自治体に許可を貰えば良いだけだし、そもそも自治体から命じられて地下鉄を掘っているんだから許可が下りない訳がない。よって、公道の地下を掘り進めていくのがベストなやり方という訳。勿論、例外はあるだろうが。

 日比谷線は、上野駅から南下していく。築地辺りで方角を西に変えると、そのまま終点の中目黒駅まで行く形だ。そういえば、こないだ出来た新駅はどうなったんだっけか。虎ノ門ヒルズ駅は、虎ノ門駅と連絡出来るからまあまあ便利ではあるのかな? そもそも、虎ノ門ヒルズへの連絡手段のために設置したのだろうけれど……。


「東京はどうしてそうも横文字の建物が多いのでしょうか。スカイツリーに六本木ヒルズ。表参道ヒルズに虎ノ門ヒルズ、ややこしいったらありゃしませんよ……。日本なんだから日本語で建物を名付ければ良いと思いますけれど」


 六花はそう苦言を呈すけれど、それは国際社会で生きていく上では致し方ないことだとは思う……。何せ国際的な公用語は英語と言われている訳だし、英語を使う人間と日本語を使う人間ではその数はあまりにも違う。日本語は日本人ぐらいしか使わないからな。幾ら日本が世界第三位の経済大国――そろそろ四位になりそうではあるけれど――だからと言って言語もそれなりの地位を保っているとは言い難い。

 そもそも、日本語は外国人にとっては難しい言語であることは良く知られている。ひらがなにカタカナ、アルファベットに漢字まである。アルファベットはローマ字と同じだからあんまり関係ないかもしれないけれど、漢字に至っては音読みと訓読みがあるし、それらがそれぞれ一種類ずつかと思いきや、複数の読み方があるというのだから、日本語を勉強する外国人には悩みの種になるだろう。ええと、何だっけ。一日と朝日と日光と水曜日と三日と日輪はそれぞれ違った読み方だったっけな。日本人でも困惑する機会があるというのだから、外国人だって悩むのは当然。寧ろぼく達が日常生活でこのように日本語を使いこなしているのは、外国人からしてみれば難しい話であったりする訳だ。


「ヒルズって丘って意味ですよね……。となるとサイレントヒルは静岡なんでしょうか?」


 それはどうだろうな……。確かに直訳したらサイレントヒルは静かな丘になるから、そのまま静岡ってなるのだろうけれど、それが良い翻訳かと言われると疑問符が浮かび上がる。そういえば、ポケットモンスター金銀のプロトタイプはワカバタウンがサイレントヒルズって呼ばれていたし、地方のモデルも中部地方と関西地方じゃなくて日本全国だった――なんて話を効いたことがある。確か、プロトタイプのロムが出回ったとか何とかで解析されたらしいけれど、しかしながら、何処からそのロムを入手したのだろうね? 機密保持的に不味いんじゃないだろうか。まあ、今よりかはそういう物がルーズだったのかもしれないけれど。


「そう考えると四十七都道府県を英訳するのも面白いよな……、何だっけ? 何処かの都道府県が英訳すると一番カッコいいとかあったような……。宮城とかあの辺りかな?」


 気になることは直ぐスマートフォンで調べる。現代人のメリットでもありデメリットでもある……。何せ現代人は漢字が書けないらしい。読むことは申し分ないそうだが、書くことは出来ないのだ。何故なら、昔みたいに手書き主体ならともかくパソコンやスマートフォンで文字を打ち込んでスペースキーなどで変換すれば、勝手に適切な漢字に変換してくれるからだ。たまにIMEが暴走することもあるようだけれど、それでも漢字は分かっているから何とかなる。問題は、手元にパソコンやスマートフォンがなくて、手書きで文章を書く場合だ。分からない漢字が出て来たら、書くことが出来ない。知識を外部に委託したから、自分の知識が増えてこない。何でもかんでもデジタルに頼るのは良くないってことだな。

 話を戻して、英訳した都道府県の話になるけれど、検索してヒットしたニュースサイトの記事を見てみると、一位は新潟県らしい。英訳するとエターナルフォースブリザードだとか。何だそのぼくが考えた最強の呪文的な奴は。……よくよく調べてみると、新潟の直訳はニューラグーンだそうだ。それなら納得出来る。因みにサイレントヒルこと静岡は二位。しかし、ゲームでもサイレントヒルってあるけれど、静岡になることはわかっていたのか偶然だったのか……。偶然だったら凄い一致ではあるよな。


「ゲームのことはちんぷんかんぷんなのですけれど……、今はどういうゲームが流行っているのでしょう?」


 今の流行り――とは言っても、ぼくもあまりゲームをやらない。一人で遊ぶことはあるけれど、いつも遊ぶゲームは決まってしまっているのだ。

 つい先日に発売されたプレイステーションとXBOXの最新機は、品薄でローンチ――発売日のことだ――を迎えたらしい。発売同日というのは、ハードを買っても申し分ないと言われるようなキラータイトルを配置するのが良くあるパターンらしいのだけれど、両ハードそれは出来なかったらしい。どちらかというとゲーマー向け……、ゲームを良く遊ぶ人向けのゲームしか用意出来てなくて、言ってしまえば元々出来ているパイの分しか用意していないってことになるのだ。

 寧ろこの日本で好調なのは、発売五年目を迎えたニンテンドースイッチだろう……。ローンチにオープンワールド――任天堂はオープンエアーと称して差別化を図っていた――のゼルダを出してから、一気に風向きが変わった。というのも、任天堂が出していた据置機WiiUがあまりにも不調だったのだ。スプラトゥーンなどの新規タイトルは生み出せたが、ハードの売上から見たら大失敗。そんな中で出してきたニンテンドースイッチは成功するかどうか疑問を浮かべる人が多かった。

 しかし、蓋を開けてみればこれが大成功し……、ハード一年目にゼルダの伝説、マリオカート、スプラトゥーンといった有力ソフトを惜しげもなく繰り出し、二年目にはポケットモンスターなどの携帯機で活躍してきたシリーズも投入してきたのだ。結果、国内では敵なしといえるぐらい売れてしまっていて……、昨年に至っては感染症による緊急事態宣言や外出自粛により巣篭もり需要が爆発的に増加して、携帯機にも据置機にもなるニンテンドースイッチが品薄になるぐらいだった。発売四年目だったのに、メチャクチャ売れたらしい。無人島生活や狩猟生活、はたまた日本一周など、実際の日常では出来ないことが好まれた。シリーズ最高売上を樹立したり三十五年ぶりにソフト最高売上を更新したり……、何となく話題に事欠かない業界であることは間違いない。


「わたしのゲームってDSで止まっておりまして……。だから、全然分からないのですよね。今もゼルダやマリオやドラクエは人気なのでしょうか?」

「人気も何も維持しまくりだよ。ゼルダは遅れに遅れた最新作がゲームオブザイヤー総なめにしたり、マリオはマリオカートが爆売れして、今度USJにマリオのアトラクションが出来るし、ドラクエは最新作が全部のハードマルチ展開になったりボイスがついたりしたし、確か淡路島にドラクエを再現した施設が出来るんだったっけ?」


 ただ、大阪の近くにあるUSJと鉄道が通っていない淡路島ではアクセスの良さがまるっきり違うような気がする。ドラクエといえばドラクエモンスターズの新作は影も形もないし、発売から四年は過ぎつつあるのにナンバリング最新作の情報も出て来ていない……。ロト三部作を今の技術できちんとリメイクすれば売れそうではあるけれど、何故それをしないのだろうか……。

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