第31話 茅場町駅(1)

『間もなく、茅場町です。東西線はお乗り換え下さい』


 ゲーム談義に花を咲かせているのも良いけれど、今は本題を片付けなくてはならないだろう。茅場町駅に着いたらやることは何だったっけ?


「忘れないで下さい。茅場町駅に着いたら……、盛り塩を探すんです。インターネットの情報が確かなら、鉄格子の下にあると」


 しかし地下鉄の駅に鉄格子なんてあるものかね? まあ、日比谷線も東西線も最近出来た路線ではないから、幾らか昔の施設も残っているのだろうけれど……、もし鉄格子なんてあったらもっと前に話題になっているような?


「だから、検証では鉄格子は見つかりませんでした。……未だ鬼門が具現化する前ですから、当然でしょう。何せそれはあくまでインターネットのアンダーグラウンドにしか流布されなかった話に過ぎないのですから」


 じゃあ、何故今それが具現化しようとしているんだ? 何がトリガーになったのだろうか。


「答えは簡単です。注目を浴び過ぎたからですよ。今回の『鬼門』を取り上げたのは、誰でしたっけ?」


 ええと、確かそれは都市伝説を調べているVTuberだったよな……。ちなみにVTuberというのは、バーチャルユーチューバーのことを言うらしい。最近――と言ってもここ数年ぐらいだけれど、出てきては色々なことをやっている。大抵VTuberは女性であることが多いが、男性も多い。割合は多分女性の方が多いんだろうな……、女性専門のグループだってあるらしいし。ぼくは詳しいことは分からないけれど、城崎が良く見ているそうなので、ぼくも話に混ざることがある。何でもVTuberは年齢不詳だけれど、話している話題は明らかにぼく達よりも上のことが多いらしい。十七歳設定なのにセガサターンのゲームをプレイする配信もやっているそうだ。セガサターンって、リアルに遊んでいた世代だとしたら……三十代前半ぐらい? 確かついこないだセガサターンミニが出るとか出ないとか言われていたような気がする……。ああいうミニシリーズって懐古層には人気らしいけれど、新規開拓も出来ているらしい。五年前にファミコンミニなるものが発売されたときは結構売れたんだとか。ファミコンのゲームって昔懐かしい感じがあって楽しいよな。ぼくもたまにはスイッチオンラインのファミコンゲームでも遊んでみるか……。


「いや……、それはともかく。そのVTuberが取り上げたことで……、鬼門はメジャーになってしまいました。要するに、今までは沈殿物として澱んでいただけに過ぎないのに、あるVTuberが取り上げたことで、色んな人の目に触れることになってしまった……ということです。人が触れるということは、それを調べる人も出てくるということですから……、結果としてそれを知る人が増えてくる。それは即ち、その都市伝説を現実の物に昇華させるには充分過ぎるのですよ」


 現実の物にする――簡単に言ってのけるけれど、しかしながらそのプロセスは色々と難しそうだ。仮にそのVTuberが言ったから取り上げられたとして、必ず現地に向かう人は居てもおかしくない。その人達は見つけなかったのか? 鬼門を。


「さあ? 見つけなかったんじゃないですか。だって見つけていたら……、今頃大騒ぎでしょう。あのインターネットの書き込みでは、時系列がおかしいからとなっていて眉唾物らしいですけれど……、実際の記録のように鬼門を開けたことで死に至る人が出てきても、何らおかしくありません」


 さらりと言いのけたけれど、それを何とかするのが六花の仕事じゃないのか――とぼくは思った。六花が持っているその日本刀は、確か何でも切れるんだろう。豆腐は切れないかもしれないけれど。


「豆腐は切れますよ。あれはあくまでも切れない物を一つ追加するとしたら何がある、みたいな感じで追加されたんじゃないですか? 何度か壊れていますよね、有名なところだとルパンVS複製人間とか?」


 ああ、あれは名作だよな……。一作目の映画だったと思うけれど、あれは凄いと思うよ。最終シーンで壁が開いたかと思ったら巨大な脳が出てきた時は圧巻したものな。そんなこと考えられねえよ! って。そういえばルパンの映画ってそれとカリオストロの城ぐらいしかあまりテレビで放映されないイメージがあるけれど、どうしてなのかねえ? 視聴率の問題という現実的なところなのかな……。だとしたら、最近テレビスペシャルを放映しないのも納得ではあるけれど。そういえば昔、押井守がルパン三世の映画を作ろうとしたんだっけ? ほんとうかどうか分からないけれど、オチはルパンなぞ居なかった、みたいな感じで。それってまるでこの間やったドラクエの映画みたいだな……。


「え、ドラクエって映画やっていたんですか」


 現実を見ろよ、サムライ。ドラクエの映画は二年ぐらい前にやったじゃないか。


「映画をあまり見ないもので……。でも、最近の映画ってどういう映画があるのでしょう? 何だか大正時代の映画が流行っているなんて聞いたことがありますけれど……」


 確かに大正時代だろうけれど、大正時代に鬼が居たらそれはそれで怖いな……。最近やっている映画は確かエヴァとかかな。後は江戸時代のサムライの映画もあるぞ。宇宙人とか宇宙船とか出てくるしアニメはパロディ満載で良く怒られているようだけれど。魔法少女ネタをやったら本気で怒られたらしいけれどな。それを受け継いだらメチャクチャ売れた作品もあったらしいし、やっぱりパロディネタは受け入れられるものなのかね。因みにエヴァは八年ぶりの続編で完結編とか言っていたけれど、やっぱりエヴァらしい内容だったよ……、って叔父さんが言っていたような気がする。叔父さんはエヴァのテレビ版をリアルタイムで見ていたからな。テレビ版はもう二十五年以上前なんだっけ?


「千と千尋の神隠しはどうなったんでしょうか?」


 千と千尋の神隠しなら、十八年ぶりに最高売り上げをその映画に更新させられたよ。ただ、昨年の感染症の影響で映画館に人が来なくなったから、リバイバル上映をしたら八億円も稼いだようで、ついこないだそれを換算していたっけ……。インターネットではタイミング悪すぎなんて言われていたような気がする。だってあと数億円で更新、っていったところで八億追加された訳だしな。そりゃあ、タイミング悪すぎだよな。


「いやいや……、そうじゃなくてジブリは未だ映画を作っているんですよね?」

「こないだテレビアニメ作っていたよ。しかも3Dで。ジブリって手書きだから良かったようなところあるのに、それを消しちゃったらどうなるのかね……。録画したけれど、全然見ていないや。後で見ておかないと」

「ジブリが劇場アニメを作っていないのは、結構な衝撃ですね……。金曜ロードショーでやっていますか? 未だ」


 やっているよ。こないだもナウシカとラピュタと猫の恩返しを三週連続でやっていたっけな。正月にナウシカ歌舞伎をやったばかりなのに、アニメ版を見せられてもね……。しかも歌舞伎は漫画版を忠実に再現しているんだったかな。漫画版はアニメ版の途中しか終わっていない展開からさらに続いているんだったよな。SFチックな展開があってなかなか面白くて、続きのアニメ化を望む声も多いなんて聞いたよ。でもテレビアニメじゃ難しいだろうしやるとしたら劇場版で何部作、とかになるのかな……。

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