第28話 口は災いの元

「オノデンボウヤは置いておくとして……、これからが本題ですよ。東京の鬼門を開けるためにはどうすれば良いのか? ということについて。……そういえば、ジョンさん、ツイッターは見られますか?」


 ツイッターと言えばあの呟きをネットの海に放流出来るあのサービスのことか……。インターネットに色々意見を述べられるのは大変面白いことではあるけれど、それをいざやってみるのは難しいところがあるよな。何せインターネットは一度出してしまえばそれが一生残ってしまう。ネット魚拓だったかな? そういうネーミングだったと思うけれど、それが言われているのはそういう所以からだって話。だからインターネットではあまり言葉を発しない方が良いんだよな。それを延々色々なインターネットでプライベートをばらまいていると、そこから紐付けられて本人を特定出来てしまうことだって有り得るんだから。


「ツイッターのことを言うのではなくて……、良いですか? これからわたしが言うアカウントにアクセスしてください。アカウントを持っていなくてもツイッターはアクセス出来るはずですから――」


 そんなことを言われなくても分かるよ。ツイッターは全世界で何億人も使っているんだから。ぼくはアカウントを持っていないから、別に呟いたりお気に入りに入れたりリツイートしたりはしないけれど……。でも、ツイッターをやり続けると色々問題になるんだったっけ? それともあれは、単純にツイッターをやらなくても駄目な人だっただけだったりするのかな……。多分ぼくがツイッターを始めたら上限の百四十文字ギリギリまで呟き続けるだろうし、相性は悪いと思うね。

 言われた通り、ツイッターのIDを検索欄に入れる。すると、お望みのアカウントが出てきた。アイコンを見ると、女子高生が描かれている。描かれている、というのは写真がアイコンになっているのではなくて3Dモデルで描かれているように見えたからだ。イラストではなくて、けれど人間でもない……。不気味の谷ってこのことを言うんだったかな。いずれにせよ、こういう存在というのは少々不気味ではある。


「いや、不気味とかそういう話ではなくて……。見覚えはありませんか? 彼女の顔に」


 顔? 言われてみたら、この顔は見たことがあるような気がする……。もしかして、さっきの動画に出てきたのか?


「出てこなかったらここで取り上げたりしませんよ……。彼女は一応架空のキャラクターです。けれど、この世界に居るように振る舞っています。花園神社での参拝だってそう、この鬼門を探ることだってそう。全ては彼女達がまるでこの世界に存在しているのだと追い込ませるためです。そしてそれは……『あやかし』の出現理由に該当します」


 出現理由さえ該当してしまえば『あやかし』に変化を遂げてしまうのだから、案外シンプルなんだなと思った。ただ、シンプルではあるけれどそれを単純に乗り越えられるかどうかと言われると――少々疑問は残る。


「……で、この彼女のアカウントがどうしたって?」

「最新のツイートを読んでください。であれば、分かります」


 最新のツイート、ね……。それを見れば良いんだよな? ええと、どれどれ。昨日皆さんから聞いたサイトを見ました、だって。これってどういう意味なんだ?


「その『サイト』ですが……、イザナギオカルト研究所というサイトですね。一応、彼女達も架空の存在ですからそのサイトも架空なものであるんですけれど……、サイトは存在しているんですよね。あくまで『彼女達の世界で作られた』という体で」


 現実に存在しなかったサイトをわざわざ作るというところにリアリティがあるのかもしれないが、そこが問題ではないのだろう。


「ええ、そこは大した問題ではありません……。問題となっているのは、わざわざ作られたサイトによってそのサイトが現実に存在してしまっている。とどのつまり、ロンファインも鬼門も、存在するに値する証拠が出来上がってしまっているんですよ」


 ロンファインは確か架空の都市伝説だったと記憶しているのだけれど、そういった取り組みによって、現実に存在してしまっているということか? 降霊術みたいなものなのかな。あれも肉体という器があるからこそ成り立っているようなものだと思うし。


「近しいのは確かですね……。ロンファインはその活動が始まるまでは影も形もありませんでした。彼女達が――正確には彼女達を作り上げたクリエイターが――作り出したまやかしなのですから。そして、それから彼女達はその都市伝説を追いかけるようになります。幾つかのサイトはクリエイターが仕掛けたものではありますけれど、それが益々その都市伝説を現実に再現させるためには充分過ぎる理由になっていったのです。そして……、それがもう直ぐ実現してしまう。実現してしまったらそれを解決しなければ、都市伝説はどんどん人を食っていきます。精力を糧にしていますからね、その辺りは当然といえば当然ですが」


 うーん、でもそれってどうなのかな。つまり都市伝説だろうが何だろうが、口は災いの元ってことだよな。何も言わなければ解決した話なんだろうけれど、そうするとフィクションが成り立たなくなってしまうしな……。やっぱり、割り切るしかないのかな。


「彼らがそういうことを考えて生きていたら、世の中はもっと下らないものになっていたと思いますよ。だって、予測も出来なければ自立することも出来ません。ただ上から言われたことを忠実にこなしていくだけになります。……それって、ロボットと変わらないような気がするのですよね」


 人間から感情を排除したら、多分それはロボットと同じになると思う……。人工知能だって限界はある。人間の考え方や価値観を完璧にインプット出来たとしても、それを再現することは不可能に近いだろう。というか、割に合わない。それだけお金をかけても、出来ることが人間と同じでは困るのだ。ロボットを開発するのは、人間が少なくなった現場の力をカバーするためであって、その性能は人間より高くなければならない。それに、人間をコンピュータで完全に再現しようとしたら、高層ビルが一軒建ってしまうぐらいらしいし……、要はそれぐらい人間の身体には技術が埋め込まれていると言える。人間を再現出来るには、ある種のブレイクスルーを迎えない限り不可能な気がする。


「人間が未だこの地球で最高であり続けるためには……、何かしら技術の進化をし続けなければならないでしょうし、それが停滞していったならば、人間という存在がこの惑星から不要となった証なのかもしれませんね」


 何だか哲学的な話に落ち着いてしまったが――しかしながら、それは間違っていないような気がする。人間はこの何千年とずっとこの惑星でトップにあり続けた。人間よりも強い生物は居るし、万能ではないのかもしれないけれど、人間には考える力があった。だからそれらに対策する術も見つかっていたし、それで乗り越えていくことも出来た。でも、それだけでずっと続けていける訳がない。人間が居続けたことで、この惑星を蝕み続けているのもまた事実だった。それを対策するのもまた人間の使命とも言えた。

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