第16話 甘い香りと苦味は、恋の味?その1

クリスマスの翌日、片付けも朝方までかかってしまうということで……臨時休業になった。


「ふぁ~。眠い……」


「お先にいただきました」

「あっ……由樹ちゃん、早いね~」


先にお風呂に入らせてもらった私は、リビングにいる皆に声をかけた。

皆がお風呂待ちしていたからサッと入ってきただけなので、髪はまだ濡れたままだけどね。


「光、先に入っていいぞ」

「やったぁ~!じゃ、お先です」


ソファで珈琲を飲んでいた蓮斗さんが、ソワソワしていた光さんに先に入るようにと促していた。


「じゃ、僕はちょっと部屋に行ってきます。光、出たら教えてくださいね」

「ラジャー!」


光さんは元気に返事をすると、着替えをもって浴室へ入っていった。


「……由樹、こっちに座れ」


蓮斗さんは隣の席をポンポンと叩き、無表情でその場所に座れと言ってきた。


「……でも、髪が濡れてるし」


座ったら、ソファが濡れちゃいますよね?


「俺が乾かしてやる。だから、そこに座って待ってろ」

「……はい。あ、いや……でも、自分で……」


やんわりと断ろうとしたのに、良い断りの文句も出てこなくて……。

蓮斗さんに『良いから待ってろ』って、睨まれてしまった。


う……恐いよ。

まるでお説教される気分だよ……。


リビングに一人残された私。

時計を見ると、もう朝の5時……。

ソファに座った途端、急に眠気が襲ってきていた。


『ふぁ~。あったかい』


ふわふわの何かに包まれて……凄く幸せな気分。

時折あたたかい風が肌を撫でていて、さらに気持ちが良くなっていた。

するとフワッと体が宙に浮いて、私は何処かに運ばれベッドに降ろされた。

私を運んでくれたその人は、暫く私の髪を撫でていて唇に深いキスすると、部屋を出ていってしまった。


一目でも、その人を見てみたい……。

そう思っても、目蓋が重くて開かなかった。


『この甘い香りは……?』


この香りと……私の口に残る苦味が、私の心をドキドキさせた。


私が求めている人なのかな……?

その人は、誰だったんだろう……?


もしかして……蓮斗さん?

ううん、もしそうだったら……こんなに優しくなんてしてくれなさそうだもん。


あぁ、また……逢いたい。

そうしたら、私……確かめなくちゃ。


『私の夢の王子様ですか?』って。



目覚めると、私は自分の部屋にいた。

ソファにいた筈なのに、その後……無意識で自分で来たのかな?


時計を見ると、もうすぐ昼の12時。

皆疲れているだろうし、眠っている筈。


パッと着替えて、お昼でも作っておいてあげようかな……。


今日は休みだし、ジーンズにフード付きパーカースタイル。

きっと誰も起きてこないし、良いよね?

勝手にそう決め付けた私は、その格好でキッチンに立った。


「何か……幸せな夢を見た気がしたんだけどなぁ。何だっけ?」


ま、良いか……。

それより、何を作ろうかなぁ?


冷蔵庫の中には、昨日の材料の残りとケーキが入っている。

ケーキは、食後に食べるとして……。

ローストチキンかぁ……。


「よし、決めた!」


私はローストチキンの身の部分を骨から外し、骨を大きな鍋に入れる。

水からコトコトと煮れば、スープの出汁になる筈。

そして外した身の部分を細かく切る。

同じく、彩りも含めた野菜を同じ大きさに細かく切る。

それをフライパンで炒め、軽く胡椒をふった。

ローストチキンに味が付いているので、塩は少々……もしくは旨味調味料だけかな。

炒めたそれらを、お皿に敷いた1枚のレタスの上に乗せた。


次に……昨日作った食パンを何枚か切っておく。

後は食べる人が、食べたい分トーストすれば大丈夫。

そして、さっき出汁をとっておいた鍋から骨を出して味を整えて……切っておいたセロリや薄く切った生姜と他の野菜を投入。

そこに塩と胡椒、旨味調味料を入れる。

最後にといた卵を入れて……味見をして終わり。


「出来た」


簡単だけど、朝だし……ってもうお昼だけど、サッと食べられるものにしてみました。

後はテーブルにメモを書いて置いておけば、誰が起きてきても分かるしね。

スープも温めるだけだし、簡単よね?



「あっ、由樹ちゃん起きてたんだ」

「はい。光さん、おはようございます。随分早いですね?」


寝癖でボサボサ頭の光さんが、ラフな格好で部屋から出てきました。

これは、いつもの事ですけどね。


「うん、あまり食べないで寝ちゃったからさ、凄くお腹が空いちゃって……。そうしたら、何だか良い匂いもしきてさ。それで起きちゃった」

「そうなんですか?ちょうど出来上がりましたし、良かったら一緒に遅い朝食を取りませんか?」


出来立ての方が美味しいし、一人で食べるより二人で食べる方が美味さが違いますもんね。



「うわぁ~、ラッキー!由樹ちゃんと二人きりで食事が出来るんだ~」


光さん……その発言は、彼女の瞳ちゃんに聞かれると、誤解を招きかねないので気を付けましょう……。


「おぉ~!美味しそうだね~。これがクリスマスの材料だったなんて思えないよ!凄いね~」

「あはは……。光さん、簡単に作ったものなので、そんな凄くはないですよ?」


それにあまり大声出すと、皆さん起きちゃいますしね。

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