第13話 聖なる夜は恋の香り?その1
「お客様、何に致しますか?」
「……じゃ、貴女のオススメ?」
「かしこまりました」
パーティが始まり、店内はとても賑わっていた。
由樹はバーカウンターに入り、お客様のオーダーに笑顔で応えていた。
「お待たせ致しました、どうぞ」
「これは?」
ん……イエローのカクテルだな。
どんな味なのか……。
「アラスカという名のカクテルです。ジンをベースにしております。これには、『偽りなき心』という意味もあるんです。先程から気になっている女性がいらっしゃいますよね?それで、こちらをお客様にお作り致しました」
「ハハハ、見られていたのか。貴女のアドバイス、ありがたくいただくよ」
お客様は、由樹のカクテルに喜んでくれたようだ。
こっちはハラハラしたけど、大丈夫そうだな……。
「はぁ……良かった」
「おい、由樹……休んでいる暇は無いぞ?ノンアルコールのカシスソーダとオレンジジュースを作ってくれ」
「はい!」
バーと言っても、アルコールが飲めないお客様や車で来店くださったお客様には、ノンアルコールを提供している。
勿論、珈琲もある。
これは、剛士さんが担当してくれるけどね。
「由樹さん、私も手伝えますから。慌てずに、落ち着いてですよ」
「はい、ありがとうございます」
今夜は、バーカウンターに立っている剛士さん。
カクテルを作る手際も様になっている。
……かっこいいなぁ。
そう言えば、奥様にサプライズって……どんな事をするのだろう?
「琉斗さん、こんばんは」
「いらっしゃいませ。来てくれたんだね……ありがとう」
今夜のパーティに招待した女性は、俺を見ると頬を赤らめた。
なんて……可愛らしいんだろう。
この透き通る様な白い肌に漆黒の髪、そして……俺を誘うような艶やかな唇。
あぁ……仕事じゃ無ければ、ここから連れ去って俺のモノにしたい。
「今夜は、貴女が一番可愛いですね」
「えぇ!?あ、ありがとうございます……」
狼の様な下心を抱いていたが、王子の仮面を張り付け……精一杯押さえ付けていた。
しかし、そんな俺を楽しそうに見ていた人がいた……。
『フッ……君もまだまだだね?』
『八瀬様、それはどういう意味でしょうか?』
『……ん?そのままの意味だけど。隠すなら、上手く隠しなよ?さっきから狼の尻尾がチラチラ見えてるし。それが出来なければ、潔く本当の自分を見せてやったら良いさ』
……それが出来たら、苦労はしませんよ。
俺は王子の仮面が無いと、幻滅されそうですから。
「……あの、お話し中すみません。琉斗さん、私……先に来ていた友達を見付けたので、あちらに行って来ますね」
「はい、僕も時間を見て……お友達にご挨拶しますね」
「わかりました。それでは、失礼します」
はぁ……彼女が行ってしまったじゃないですか。
全く、邪魔が入らなければもっと親密になれたかもしれないのに。
「……残念だったね?じゃ、俺は女性を待たせてるのでこれで失礼するよ。まぁ、頑張って」
「はい、ありがとうございます」
何を頑張るんだ?
言っていた意味が良くわからないが、俺は八瀬様にお礼を言うとホールにいる彼女を探した。
あぁ……見付けた。
外のテラスで、誰かと楽しそうにお皿に盛った料理を食べていた。
で……友達って、何処だ?隣にいる人だろうが……人が多すぎて見えない。
俺は飲み物を運びながら、彼女の様子を伺っていた。
「……
「え、そうかな~?」
……円子?
「ハルくんだって、かっこいいよ?」
……友達って、男だったのか!?
「そうか?円子に言われるなんて、今日はどうしたんだ?」
ハルという男は彼女を壁際に追い詰めると、両腕で閉じ込め何処へも行けないように動きを封じていた。
「ハ、ハルくん……何をするの!?」
「ん?誰も見てないし、良いよな?」
彼女は……とても動揺していた。
あれを見る限り、恋人関係では無い……。
このままだと、彼女の唇は奪われる。
彼女の危険を察知した時、心がざわつき……俺の中の何かがピシッ……と音を立て壊れていった。
「光さん、何かあったんですか?」
オーダーされた飲み物を運び終えて戻ってきたと思ったら、ずっと一点を見て動かなくなっていた。
「うん……あれ見て」
「あらら~、彼もまだまだだね」
カウンターで女性を口説いていた筈の八瀬様が、光さんと同じ方向を見て呆れていた。
私の位置からは見えないけど、何が起こっているんだろう……。
「ふぅ……。これは俺の出番かな?」
「おい、行くのは良いが……余計に拗らせるなよ?」
「大丈夫だよ、俺を誰だと思っているんだ?」
剛士さんは、行動を起こそうとしていた八瀬さんに釘をさしていた。
「由樹さん、八瀬は軽そうに見えますが……アイツに任せて大丈夫だと思います。ですので、安心して仕事に集中してください」
「はい」
「由樹ちゃん、俺もちょっと行ってくる。蓮斗さんに気付かれる前に止めないと……」
「光さん……」
光さんまで行くなんて……そんなに大変な事が起こってるの!?
「心配しなくても大丈夫だって。琉斗さんより、俺の方が力は強いし!」
えっ、琉斗さん?
あの穏やかな琉斗さんが……何か揉め事に捲き込まれたのかも!?
「あの……」
私も……行きます!
「由樹、お前はここにいろ」
「そうだぞ、お前はここでお客様のオーダーに応えるんだろ?」
「……はい」
カウンターを出ようとしたらオーナーに止められ、更に琢磨さんに腕を掴まれてしまい、その場から身動きできなくなってしまった。
琉斗さん……大丈夫かな。
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