第12話 夜の喫茶店。その6
「ようこそ、いらっしゃいませ」
「光さん、こんばんは」
店の前で、光くんが俺達を出迎えてくれた。
俺は奈々をエスコートし、店の中へと入っていった。
まだ始まったばかりだというのに、結構賑やかだな……。
「少しの間仕事に戻るから、適当に楽しんでいてくれるか?」
「うん、私は大丈夫よ。そのうち八瀬達も来るだろうし」
……そうだった、アイツ等が来るんだったな。
すっかり忘れていたよ……。
「じゃ、またな」
「はい、お仕事頑張ってくださいね」
俺は奈々の笑顔で更にやる気がアップし、更衣室へと入っていった。
さぁ……パーティーの始まりだ。
「わぁ~、由樹ちゃん……すごくかっこいい!」
「……ありがとうございます、光さんのお陰です」
夜の開店……3時間前、私は光さんが作ってくれたパーティー用のユニフォームに着替えていた。
「バーテンさん風で、良い感じですね」
「あぁ、由樹……似合うぞ」
「ありがとうございます」
朝のミーティング後に光さんがコッソリ呼びに来たから何かと思っていたら……。
「由樹ちゃん、今夜のユニフォームを新しく作ったから昼の仕事が終わったら着てみてくれる?」
そう言われて、仕事中……とても気になっていた。
まさか、こんなカッコイイ服だなんて思ってなかったから、とても嬉しい。
これなら、カクテル作りも上手くいきそうよね。
「よっ、由樹。へぇ~良い感じじゃん」
「あっ、オーナー」
まだ開店前だったので、家のドアからオーナーがリビングへと入ってきた。
オーナーまで誉めてくれて、更にテンションが上がってきた。
「なんだ、もう来たのか」
「……れ、蓮斗さん!?」
オーナーが私のユニフォームをまじまじと近くで見ていたら……蓮斗さんが急に現れて私の腕を引き、オーナーの目の前に立った。
「……フッ、お前ヤキモチか?」
オーナーは、蓮斗さんを見てニヤリと笑った。
「はっ?言っている意味が不明だ。それより、琢磨はどうした?」
……今、ヤキモチって言った?
蓮斗さんは流していたけど、もしそうなら……嬉しいな。
「琢磨は……。あぁ、そこにいるぞ」
「どうも。蓮斗さん、今日はよろしくお願いします」
「おぅ、こちらこそ頼むな」
琢磨さんは、玄関のドアから沢山の荷物を運び入れていた。
オーナー、手ぶらで入ってきたんですね。
あぁ……一人で働かせて、琢磨さんが睨んでますよ?
「光、琢磨を手伝ってやれ」
「ラジャー!」
蓮斗さんはオーナーと運び込まれた荷物を持ち、店に行ってしまった。
「じゃ、僕達も荷物を持って店に行こうか?」
「はい!」
琉斗さんに声を掛けられた私は、割れ物以外の荷物を持ち店へ運んでいった。
そして全てのセッティングを終えると、琢磨さんが声を掛けてきた。
「由樹、今日はリラックスしてやれよ。緊張して俺の仕事を増やしたら……あの事バラすからな」
「はい、頑張ります……」
あの事って……蓮斗さんの事よね?
ここであの時の話を持ち出すのだけは、止めて欲しい。
だってそんな事されたら、私……気まずくなっちゃうよ。
この事で前も同じ内容で脅された感じだったけど……もし、蓮斗さんに話してしまった時、私はどうすればいいの?
「由樹、どうした?顔色が悪いな……。コイツらの側が嫌だったら、ちゃんと言えよ?俺がいつでも……」
……蓮斗さん!?
声がしたと思ったらいつの間にか隣に立っていて、心配そうに私を見ていた。
「……はいはい、お前は邪魔だから。もうすぐ開店だろ?表でもチェックして来いよ」
「……なっ、お前何をする!……由樹が」
着替えを終えたオーナーが蓮斗さんの行動に呆れ、カウンターから追い出していた。
蓮斗さん……優しいなぁ。
でも今は逆効果かも、……皆の前だし、恥ずかしくなってきた。
「大丈夫だって。そんなに過保護になっていると、お姫様に嫌われるぞ?」
……お姫様って。
今の私の格好からは程遠い気がしますよ?
元々、お姫様キャラでもないですし……。
「という事で……。ここは、俺達が居ますから。蓮斗さんは、出迎えとホール……キッチンをお願いします」
……琢磨さんは通常の3割増しの笑顔で、蓮斗さんを言いくるめていた。
……やっぱり、逆らうと恐いかも。
「由樹、バーカウンターが空いている時は、キッチンのフォローに入れよ?俺達じゃ、ここは出来ても料理は出来ないからな」
「はい」
オーナーは、『よしよし、良い子だ……』と言って私の髪を撫でていた。
……これって、子供扱い?
「おい、お前……俺の許可無く由樹に触るな!」
れ、蓮斗さんに見られた!?
物凄い形相で鬼の蓮斗さんが私達の方に歩いてきた。
「……由樹は、お前のじゃ無いだろ?」
「…………んだよ」
「フッ……。悔しかったら、何か言ってみろよ」
オーナーは、何も言えずにいる蓮斗さんを見て、鼻で笑っていた。
そんな事をしたら、ますます鬼の怒りが加速しちゃいませんか!?
「はいはい、二人とも子供じゃ無いんですから。その辺りで終わりにして下さいね~」
「そうですよ、こんな所で喧嘩は良くないです!」
「オーナー、蓮斗さんで遊んでいる場合じゃ無いですって。今から開店なんですから、しっかり働いてくださいよ」
「「……ごめん」」
琉斗さんと光さん……ついでに琢磨さんが止めに来てくれて、やっと落ち着いたみたい。
「それじゃ、気を取り直して……皆さん、宜しくお願いします」
「「はい!」」
こうして、『静かな森の喫茶店』は今夜限りの特別営業(クリスマスパーティ)を始めました。
今夜は来店してくださった沢山の方に楽しんでもらわなくちゃね。
よし、私も楽しみつつ……頑張ろう!
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