第75話 プレゼント選び
デパートの三階はレディース売場で女性客しかいない。
なぜ俺がそんなところに一人で来たのかといえば、香月さんへのプレゼントを買いに来たからだ。
実は先日二人でコートを買いに来たとき、こっそりと香月さんの動向をチェックしていた。
コート以外に興味を示すものがあれば、それをプレゼントしようという目論見だった。
しかしコート選びに夢中だった香月さんは、その他の物には目もくれていなかった。
「寒がりだからマフラーとか手袋がいいのかな? でもたくさん持ってるかもしれないしな。それよりアクセサリーとかかな?」
彼女へのバースデープレゼントなんてはじめてのことだ。
漠然とした考えで膨大なアイテムの中からひとつを選ぶというのはとても難しい。
頭を悩ませながらブラブラと歩いていると、視線の先に見慣れた顔を見つけて駆け寄った。
「あ、清家先輩」
「ん? さ、相楽くんっ」
「お久し振りです」
「ひ、久し振りだね」
「お買い物ですか?」
「ま、まぁ、そうだけど……あの、ここ……」
「へ?」
見回すと辺りはブラやパンツが飾られていた。
清家先輩を見掛けて確認せずに飛び込んできてしまったが、下着専門店だったようだ。
「一旦、出ようか?」
「す、すいません」
先輩と共に店舗から出る。
「あれ、今日は悠華は?」
「ちょっと用事があると伝えて一人で来ました」
「一人で婦人服売場に?」
「実は十一月三十日は香月さんの誕生日なんです。それでこっそりプレゼントを用意しようかなって思いまして」
「へぇ。優しい彼氏だねー」
なぜか先輩は少ししんみりとした笑顔になる。
「でも香月さんは何が欲しいかっていうのがさっぱり分からなくて」
「なんでもいいんだよ。彼氏からプレゼントもらったら、ボクだったらなんであろうとすごく嬉しいよ」
「そうかもしれないですけど、どうせならすごく喜んでもらえるものが選びたくて」
「それだったらマフラーとか手袋は? あの子すごく寒がりだから喜ぶかも」
さすがはお姉さん役の先輩だっただけに香月さんのことは詳しいようだ。
「それも考えたんですけど、でもだからこそ逆にたくさん持ってるんじゃないかなって」
「あー、なるほど。確かに色んなのを持ってた記憶があるかも。あ、じゃあアクセサリーは?」
「やっぱりその辺りが無難なんですかね? でも香月さんがそういうのつけてるとこ、見たことないんですよね」
「自分では買わないってだけで、彼氏からもらったら喜ぶと思うよ」
「なるほど。それもそうかもしれませんね」
先輩のアドバイスを受け、二人で一階のアクセサリー売場へと移動する。
「リングが王道だけどサイズが分からないもんね」
「そうなんですよね。サイズを訊いたら指輪かなってバレちゃいそうですし、あとから代えてくれるといわれてもその場で渡してつけてもらいたいですし」
「だったらネックレスは?」
「いいですね。首もスラッと長いし、鎖骨もきれいだから似合いそう」
「そういう惚気はいらないから」
清家先輩にじろっと睨まれる。
ネックレスにターゲットを絞ったけど色んなタイプがあり目移りしてしまう。
「こういうの買ったことないから選ぶの難しいですね」
「高校生なんだしシルバーでいいと思うよ。鎖骨辺りの長さのもので可愛いペンダントがついてるのがいいんじゃないかな? ほら、これとか」
先輩が指差したのは細目のチェーンで 雫のようなペンダントがぶら下がったものだ。
「あー、いいかも」
「こちらはすごく人気なんですよ。お手にとって見てください」
店員さんは見事な間で会話に加わってくる。
さすがはプロだ。
細く頼りなさそうなチェーンなのに持つと意外なほど重かった。
この太さでこの重さならあまりごてごてしたものを選ぶと肩が凝ってしまいそうだ。
「是非彼女さんに着けてみてください」
「あ、いや、この方は──」
「よろしく」
先輩は髪をかきあげてうなじを俺に向けてくる。
仕方ないので先輩の首に試着した。
「どうかな?」
振り向いた先輩は冗談めかしてウインクをしてきた。
店内に流れているクリスマスソングとその仕草がやけにマッチしていて、まるで映画のワンシーンのように映る。
俺は不覚にもドキッとしてしまっていた。
「似合ってますよ」
「ほんとに? なんか嘘くさいなぁ」
「本当ですって。可愛いです」
「まぁね。ボクみたいな美少女は何を着けてもよく似合うから」
「そうですね」
「ちょっと。ここはツッコむところなんだけど?」
「いや、本当によく似合ってますので」
「そ、そういうのはいいから」
先輩はやけに照れてプイッと顔を逸らした。
まだ見始めたばかりなのでひとまずキープということで他の売場も見て回る。
俺が一人で見たら間違い探しレベルなデザインの違いも先輩は的確に指摘してくれた。
おかげでどんなものが香月さんに似合いそうかということも分かってきた。
ただ気に入ったものを一つひとつ試着するのはちょっと困ったけど。
「じゃあこれにします」
俺が選んだのは細いチェーンに花の形のペンダントが付いたものだ。
「うん。いいんじゃないかな。悠華に似合うと思うよ」
「いっしょに選んでもらってありがとうございます」
「ちなみにボクにはどれが似合うと思った?」
「先輩ですか? そうですねー。このクロスのやつが似合ってました」
「へぇー。ボクがいいなって思ったのと一緒だ。見る目があるね」
正解したのに先輩はちょっと残念そうな顔をしていた。
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