第70話 謎解きホラーアトラクション

 校内はたくさんの人で賑わっていた。

 その中には模擬店の呼び込みのためにコスプレした人も多くいる。

 メイド姿の香月さんはすぐ見つかると思ったが、これだけ仮装大会的になってしまっていては目立たない。


 もちろん喫茶店員風の俺やカウガール姿の清家先輩も目立つことなく、むしろこの雰囲気に馴染んでいた。


「ねえ、三年生のクラスで謎解きホラーアトラクションってのがあるらしいよ!」

「へぇ。面白そうですね」

「行ってみようよ!」

「でも時間かかるやつだったら困るんですけど」

「大丈夫。ボクは頭脳明晰で謎解きのプロフェッショナルだよ!」

「そうですか。じゃあ」


 このまま香月さんを探すだけで休憩が終わってしまうのも惜しい。

 それにささっとクリア出来るなら問題ないだろう。

 先輩と共に謎解きホラーへと向かった。


 ところが──


「ちょっ!? 怖すぎだよ、これ!」

「落ち着いてください、先輩。ただ暗いだけですから」

「でもなんか出そうじゃない?」

「なんにも出やしませんから」


 カンカラカーンッ


 地面に落ちてた缶を蹴飛ばしてしまった。驚かせるためのトラップなのだろう。


「んぎゃあぁあ!?」


 清家先輩は俺にしがみついて震えていた。


「すいません。空き缶を蹴飛ばしただけですから」

「無理。呪われてるんだよ、この場所は! 怨念を感じるもん」

「呪われてなんてません。ここはただの三年三組ですから」

「たぶん留年してそれを苦に自殺した霊がいるんだよ。きっとそうだ!」


 怯える先輩をなんとか引っ張って先へと進む。

 しかしそんな怯えた先輩に追い討ちをかけるようにマスクを被った怪人が飛び出してくる。


「はわわわあぁああ!?」

「落ち着いて、先輩! あ、問題だ。この怪人、問題を持ってますよ!」


 マスクの男から手渡された問題を読む。


「えーっと、『小説、芸術、科学、ピアノが○で詩、イラスト、超常現象、ドラムが✕。次のカードから○のものを選び、その理由も答えよ』だって。カードは『手紙』『ギター』『革靴』か。先輩分かります?」

「あっちいって! やだ、怖いよぉ!」

「先輩、聞いてください。問題ですってば」


 清家先輩は完全にパニック状態で俺の声など聞こえていない。

 これは俺が考えるしかなさそうだ。

 とはいえこういう問題は苦手なんだよな……


 ○側に共通点があるのか、✕の方なのか?

 それとも両方ともなにか法則があるのだろうか?

 回答が○のものを選べだから○に法則があると考えるのが自然なのだろう。


 なんとなく○の方が知的というか、格式があるというか、そんな感じがする。

 一つずつ見た方がいいのかな?

 特徴的なのはピアノとドラムかな?

 どちらも楽器だ。いったいなんの違いなのだろうか?


「うーん……ちっとも分からない。先輩もちょっとは考えてくださいよ」

「無理。怖すぎて目が開けられないのっ!」


 先輩は俺の腕にしがみつき、顔も押し当ててきていた。

 まるで役に立たないポンコツぶりだ。


「この問題が解けたら先に進めるぞ。ヒントをやろうか?」


 清家先輩があまりに怯えるからか、マスクの怪人はやけに親切だ。


「と、解けばいいの? 貸して!」


 急に先輩は問題を読み始める。


「答えはギター!」

「え?」


 先輩は俺が『それだけはなさそうだ』と最初に切ったものを選ぶ。


「理由は?」

「ノベリスト、アーティスト、サイエンティスト、ピアニスト。みんな『ist』を付ければそれをする人になるのっ! ギタリストもそうだから。もういいでしょ! あっちいってよ!」


 清家先輩は涙目で訴える。


「正解だ。さらば!」


 仮面男は暗闇へと消えていく。

 あんなに怯えていたのに一瞬で答えるとは。

 謎解きが得意と言っていたのは嘘じゃなかったようだ。


 その後も先輩は問題の度に怯え、そして一瞬で答えていった。


「ほら、ゴールですよ」

「やったー!」


 出口の光が見えると清家先輩は俺の腕から離れて外へ飛び出した。

 本当に無邪気な人だ。


「そんなに走ったら転びますよ」


 あとを追って外へ出ると、目の前にはメイド姿をした香月さんがいた。


「あっ相楽くん」

「香月さん」


 別になにも疚しいところはないが、ちょっと気まずい。

 流れとはいえ、香月さん以外の女子と文化祭を回るのはよくなかった。


「あー、悠華! メイド服可愛い!」


 そう言ったのは意外にも清家先輩だった。


「清家先輩! お久しぶりです! 先輩のカウガールも可愛いです!」


 香月さんも満面の笑みで挨拶を返した。


「違う! ボクのは可愛いんじゃなくてカッコいいの!」

「それは失礼しました。カッコいいです、先輩!」

「まぁね!」


 清家先輩は人差し指でテンガロンハットをツンッと上げてポーズを決める。


「二人は知り合いなの?」

「はい。清家先輩は中学の吹奏楽部の先輩でした」

「ボクは悠華の世話焼きお姉ちゃん役だったんだよ」


 どう見ても妹風の清家先輩が自慢げに胸を張る。


「というか相楽くんこそ悠華と知り合いだったの?」

「はい。彼女です」

「えっ!?」


 先輩は驚きで目を丸くする。

 そりゃこんな平凡な男が可愛い後輩の彼氏と聞けば驚くだろう。


「ご報告が遅れてすいません」と香月さんも頭を下げる。

「い、いいのいいの。高校に入ってからは絡みも少なかったし」

「清家先輩とは文化祭の準備のときに知り合ったんだ」

「そ、そう! このカウガールの衣装も相楽くんのアイデアでさ!」

「そうだったんですね! さすが相楽くんです! 相楽くんはすごくいろんなアイデアを出してくれるんです」


 香月さんは笑顔で頷いていた。

 一瞬ヒヤッとしたけど二人が知り合いで変な誤解をされずに済んでよかった。

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