拝啓、泡になった人魚姫【0:1:1】15分程度

嵩祢茅英

拝啓、泡になった人魚姫【0:1:1】15分程度

女1人、不問1人

15分程度


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充希は男性でも女性でもできます。

台詞の中に(私/俺)という部分があるので、どちらか選択して読んでください。


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「拝啓、泡になった人魚姫」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

美波♀:

充希:不問:

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(春の朝、登校風景)


充希「美波みなみー!」


美波「充希みつき!おはよう!」


充希「おはよー!今日から(私/俺)たち、3年生だねー!!!」


美波「だねぇ、全然実感ないなぁ」


充希「あははっ、(私/俺)もー!」


美波「…良い天気」


充希「そうだねー。また一緒のクラスだといいなぁ!」


美波「そうだね」


充希「…あ、みんなもう集まってる!クラス分け!見に行こう!!」


美波「えっ、ちょっと充希みつき!引っ張らないでよ〜」


充希「あははっ!ホラ!はやくはやくー!」


美波「(クラス分けの張り紙を見ながら)…ふぁ〜…えっ、とぉ…」


充希「あ、(私/俺)C組だ!」


美波「え〜、早いよ〜」


充希「美波みなみもC組!!ホラ!!」


美波「え、ほんと?…あっ、あった!また一緒だ〜!!」


充希「へへー、また1年間、よろしくお願いします!」


美波「なぁに?かしこまって。ふふ、こちらこそ、よろしくね」


充希「さてと、じゃあ、教室行くかー!!」


美波「え、充希みつきぃ!ちょっと待って〜!」


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(始業式の終わった、教室までの廊下)


充希「うー、春とはいえ、まだ寒いねぇ」


美波「ほんと。体育館、冷える〜」


充希「教室あったかいかなぁ…?」


美波「あったかいといいなぁ〜」


(SE:ドアを開ける音)


美波「わぁ、新しい教室。ふふっ」


充希「席は出席番号順だから、少し離れちゃうね」


美波「だねぇ」


充希「担任の先生、誰だろう」


美波「誰がいい?」


充希「うーん、佐藤ちゃんとか?」


美波「優しいもんねぇ」


充希「山田だったらサイアクだな…」


美波「流石に学年主任は厳しいなぁ」


充希「ね、部活、新入生たくさん来るかなぁ!」


美波「…どうかな」


充希「部長は美波みなみじゃない?なんたってウチのエースだし!」


美波「…えぇ…向いてないよ。充希みつきのが上手く、やれるんじゃないかな」


充希「ええー?いやいや、みんな美波みなみにやって欲しいって、思ってると思うよー?」


美波「(遮るように)っと、先生来たから、席に戻るね!」


充希「あ、うん…」


美波M「この時、私の心情は、複雑だった。

子供の頃から泳ぐ事が大好きで、充希みつきと一緒に長年続けてきた。

それが、出来なくなる事を、どう伝えればいいだろう…」


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(SE:チャイムの音)


充希「美波みなみー!部活行こー!」


美波「ごめん!ちょっと職員室寄るから、先に行ってて!」


充希「えー?一緒に行こうか?」


美波「ううん、大丈夫!」


充希「そ?…分かった。じゃあ、また、プールでねー」


美波「ん…」


美波M「顧問の先生に現状を伝える。

もう、泳げないと。

そして、部活の皆にも、伝えなくてはいけない。

私は制服のまま、顧問の先生と屋内プールへ向かった。」


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(学校の屋内プール、先生と一緒に来る制服姿の美波)


美波「私、部活辞める事になりました!」


(部員たちがザワザワとしている)


充希「…ちょ、ちょっと!辞めるってどう言う事?!」


美波「…もう部活に来ないって事だよ」


充希「そうじゃなくて!だって美波みなみはうちのエースだし!

それにずっと一緒に泳いできたじゃん!なのに!なんで!」


美波「充希みつき…」


充希「理由を教えてよ!納得出来る理由を!」


美波「…えっ、と…」


充希「…言えないの?」


美波「…」


充希「(私/俺)にも、言えない事なの?!」


美波「充希みつき…」


充希「もういい!そんなに言いたくないなら、もういいよ!」


美波「充希みつき


充希「(遮るように)いいってば!!」


美波M「そう言って離れていく充希みつきに、何の言葉もかけられなかった。

私は1人、プールのはしで、みんなが泳ぐ姿を、目に焼き付けていた。」


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(夕方、学校からの帰り道)


美波「みーつーきー!」


充希「…」


美波「ねぇ、充希みつきってば」


充希「…」


美波「ごめんって」


充希「…もう、部活来ないの?」


美波「…うん」


充希「なんで?」


美波「…」


充希「(私/俺)には何でも話してくれるって、2人の間で隠し事はなしだって、そう言ってたじゃん!」


美波「…うん、ごめん」


充希「…謝って欲しい訳じゃない」


美波「あのね…」


充希「うん」


美波「私が口に出したら、認めたら…気持ちが負けちゃいそうでさ…」


充希「…美波みなみ、どこか悪いの?」


美波「…弱い私でごめんね…」


充希「…じゃあさ…」


美波「え?」


充希「いつか、言える時になったらでいいから、美波みなみから、言ってくれる?」


美波「(寂しげに笑って)分かった。ちゃんと言える時が来たら、言うね」


充希「…うん…」


美波「…充希みつき?」


充希「ごめん。謝るのは(私/俺)の方だ」


美波「なんで?」


充希「美波みなみに酷いこと、言っちゃった」


美波「そんなこと、ないよ」


充希「そんな事あるよ!

…(私/俺)、美波みなみとずっと一緒に居られるんだって、勝手にそう思ってた。今までそうだったように、ずっと美波みなみが隣に居るって…そう思って…」


美波「(涙が溢れる)…っ、私もっ!」


充希「…美波みなみ


美波「(泣きながら)私もさぁ!…ずっと充希みつきと…、一緒に…居られるって……思ってた…!!」


充希「…っ!、美波みなみぃ…!!」


(2人、強く抱きしめ合い、泣きじゃくる)


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(次の日の朝、登校風景)


充希M「そして、翌日の朝」


充希「(少し気まずそうに声をかける)…みーなーみー」


美波「充希みつき…おはよ」


充希「お、おはよ。…あのさぁ…昨日、ごめんね?」


美波「充希みつきは悪くないよ、私こそ、ごめん」


充希「部活は一緒じゃないけどさ。

それ以外は、一緒だから。今までみたいに」


美波「今までみたいに?」


充希「そう、今までみたいに!」


美波「っふふ!…ありがとね、充希みつき…」


充希「(大袈裟に)とぉんでもなぁい!」


美波「なぁに?それぇ!」


(笑い合う2人)


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(SE:チャイムの音)


充希「美波みなみぃ〜!!」


美波「はいはーい?」


充希「この問題が、分からない…」


美波「どこ〜?」


充希「ここ!」


美波「…あぁ、これはね、ホラここ。この部分の事を言ってて…」


充希「ほぉーん…なるほどぉ」


美波「ちゃんと分かってる〜?」


充希「分かってるって!でもさぁ、これ、ひっかけじゃない?

こっちかも知れないって思って、迷っちゃったよ」


美波「ああ〜、ここはホラ、過去の事だからさ。今の気持ちとは、違うでしょ?」


充希「ははー、確かにぃ」


美波「もうちょっと注意して読めば、分かる事だよ?」


充希「だって苦手なんだもん!簡潔かんけつに書いてくれー!って思う!」


美波「それじゃ問題にならないでしょ?

それに、文学ぶんがくは、回りくどく書く方が、」


充希「情緒じょうちょがある?」


美波「そうそう。思ったことを、ただ書いただけじゃ面白くないんだよ」


充希「そんなもんかねぇ…」


美波「充希みつきにも分かりやすい内容の本があればねぇ」


充希「ん!バカにしたなぁ?」


美波「お、良く分かったねぇ?」


充希「このぉ〜!」


美波「あははっ、ごめんって!」


充希「くっそー!許す!」


美波「(笑いながら)早いよ〜」


充希「だってまだ教えて欲しいもーん」


美波「まだあるのぉ?」


充希「頼りにしてる!!!」


美波「たまにはちゃんと、自分で考えなよぉ?」


充希「はーーーい」


(2人、クスクスと笑う)


充希M「このまま、美波と共に笑いあう日々が続くと、そう、思っていた」


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(SE:チャイムの音)


(担任の先生から、美波みなみが入院した事を知らされる)


充希「…えっ」


充希M「翌日。美波みなみのいない教室。

朝礼で担任の先生から、美波みなみが入院した事を聞かされた。

その日、先生に美波みなみのいる病院を聞いて、放課後すぐに走った。

受付で病室を尋ねて、早足で向かう。

何を話そうなんて、考える余裕はなかった。

入院するほど、美波みなみの体が悪いという事に、今までにないほど、不安に襲われた。

子供の頃から、なんでも一緒にしてきた(姉妹/兄妹)のような存在。

なのに、美波みなみの状態を何も分かっていなかった事が、(私/俺)をどうしようもなくあせらせる。」


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(SE:ノック音)


美波「はーい」


(SE:扉を開ける音)


充希「…美波みなみ?」


美波「充希みつき!」


充希「…具合、どう?」


美波「んー…良くは、ない、かな…」


充希「…ビックリしたよ、先生から美波みなみが入院したって聞いて」


美波「それで、来てくれたの?」


充希「うん、心配だったから」


美波「ふふっ、ありがと」


充希「しばらく、入院するの?」


美波「そうだね」


充希「…じゃあ、毎日部活終わったら、来てもいい?」


美波「えー?大変じゃない?」


充希「うー、だって心配なんだよ〜」


美波「ありがと」


充希「(私/俺)が来たいから、来るの!」


美波「うん。でも、無理はしないでね?」


充希「分かった!」


美波「ほんとにぃ?」


充希「ほんとに!!」


美波「言い出したら聞かないからなぁ、充希みつきは」


充希「…うん。だから、毎日来るよ」


美波「うん…待ってる」


充希M「それから毎日、病院に通う日々が続いた。

相変わらず笑って話す美波みなみを見て、安心していた。

だんだんと季節は過ぎて、本格的な夏がやってきた。

夏休みは部活の強化練習やトーナメントがあり、

毎日お見舞いに来ることができなくなった。

それでも、できる限り病院へ通った。」


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(蝉の声が微かに聞こえる病室)


充希「よっ!」


美波「充希みつき!」


充希「元気?」


美波「うん。充希みつきは?」


充希「元気元気!」


美波「すっかり夏だね」


充希「ほんと。日焼けで真っ黒だよー」


美波「うふふっ」


充希「…美波みなみは、真っ白だね」


美波「…そう、だね」


充希「…なんだか、(私/俺)の知らない人みたい」


美波「…」


充希「お姫様みたい!」


美波「え?」


充希「子供のころから(私/俺)たちずっと水泳一筋でさ、毎年真っ黒になって走り回ってたけど、今の美波みなみ、お姫様みたいに真っ白でさ」


美波「…うん(俯く)」


充希「あーあ、(私/俺)が王子様だったら良かったのに」


美波「…え?」


充希「お姫様を治せるのは、いつだって王子様でしょ?」


美波「あははっ」


充希「んー!?笑ったなぁ?!」


美波「だって、充希みつきが王子様って…!」


充希「おかしい?」


美波「おかしいよ」


充希「ちぇ、フラれちゃったぁ!」


美波「ふふふっ!」


充希「さっき、美波みなみのママに会ったよ」


美波「なにか話した?」


充希「うん、えっと、今年は一緒に泳げなくてごめんねって言われた」


美波「そう」


充希「おばさんが悪い訳じゃないのに」


美波「…うん」


充希「寂しいけどさ、(私/俺)は美波みなみを待つって決めたから。

だから美波みなみは、病気治す事に専念して。絶対、帰ってきて!」


美波「…うん、ありがと」


充希「…ずっと、側にいるから」


美波「…うん」


(間)


充希「昔さぁ」


美波「ん?」


充希「美波みなみの家で見た図鑑、覚えてる?」


美波「覚えてる!太古たいこの海の生き物と、深海生物しんかいせいぶつの本!2人ともあの本大好きでさぁ、ボロボロになるまで読んだよねぇ」


充希「あの本見てるとさ、自分が海の中にいる感覚になってさ」


美波「海の中の、光が乱反射してキラキラした世界に、憧れたんだ。本の中の世界に」


充希「…大きくなったらさぁ」


美波「ん?」


充希「スキューバのライセンス取って、一緒に潜ろうよ!海に!」


美波「ふふっ、いいね、それ」


充希「でしょ?!約束!」


美波「…っ」


充希「きっと大丈夫!だから、ね?」


美波「(涙声で)…約束」


充希「へへへー」


美波「ふふふ…はぁ…」


充希「ん?」


美波「…ありがとね、充希みつき


充希「へへっ」


美波「それと、ごめんね…」


充希「…なんで?」


美波「…色々…病気の事も、言えてない」


充希「…いいよ。美波みなみがこうして一緒に居てくれるなら、それでいい」


美波「…うん」


----------


充希M「次の日曜日、病室に向かうと、美波みなみのいたベッドはキレイに整えられてあり、美波みなみの母に声をかけられた。

美波みなみは前日の夜に亡くなったと。

そして、その前日の昼に美波みなみが録ったというビデオテープを、一緒に見て欲しいと。

それは、美波みなみがおばさんに、お願いしていた事だった。」


(SE:ビデオをデッキに入れて再生される音)


美波「えっと…映ってるかなぁ?

…んんっ。

充希みつき!元気?…ってのも、なんか変かな…

…あのね!

充希みつきに言ってなかった事…言えなかった事。

今、言います。直接じゃなくて、ごめんね?

ホラ、言ったらさ、泣いちゃうかもだから…充希みつきとは、笑っていたいからさ。だから、ごめんね?

で、…えっと。私は、病気になりました。

…というか、病気でした。

春休みにね、検査をして、病気だって、分かったの。

本当はね、手紙で伝えようか、とも思ったけど…

(涙が込み上げる)もう、字も上手く書けなくて…

(鼻をすすり、呼吸を整える)

私の病気は、『難病なんびょう』ってやつで…

治療法ちりょうほう確立かくりつされていない病気で…

それで…長く生きられない。

…でも、充希みつきは待っててくれるって言ってくれたからさ…

(涙が溢れてくる)

だからっ、こんな病気、早く治すからさぁ!

…これからも、充希みつきと一緒に、生きて…一緒に海に潜ろう?

…あの時、スキューバのライセンス取って、一緒に海に潜ろうって言ってくれたの、本当に感謝してる。ありがとね、充希みつき

充希みつきはいつだって、私のヒーローだよ。」


(ビデオテープが流れ続ける)


充希「(泣きじゃくりながら)そんな…そんなの…

美波みなみこそ、(私/俺)のヒーローだよ!

誰よりも早く泳いでっ…!その姿がキレイでっ…!

ずっと隣で見てきたけど、ずっと美波みなみ見惚みとれてた!!

キレイだなーって。(私/俺)もこうなりたいなーって。

ずっと…ずっと一緒に泳ぎたいなーって!!

…いっぱい困らせたよね…ごめんね?美波みなみ

ごめん…

ごめん…

…だからさぁ!…戻ってきてよ…!!

一緒に泳がなくてもいい!!

…(私/俺)のっ、そばにいてよ…!!!」


(泣き続ける充希みつき。側には美波みなみの母が居る)


美波「……………ママ…あのね。

もし、もしさぁ…私が死んだらさ…

海に、散骨さんこつして欲しいの。

我儘わがままだって分かってる。

だけど、海に、今度は海で生きたいから…

私に会いたい時は、海に来て、いっぱい話を聞かせて?

…私は、そこに居るから…

…一生の、お願い。お願いします。」


(深々にお辞儀をして、しばらくしてビデオがノイズに変わる)


(SE:ノイズ音、数秒で止まる)


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(SE:波の音)


充希M「それから毎日海を見ては、美波みなみの事を思い出す。

誰よりも美しく、早く泳ぐ、美波みなみの事を。

きっと美波みなみは今頃、恋がれていた海で、楽しそうに泳いでいるんだろう。

たくさんの魚に囲まれて。

まるで物語に出てくる、人魚姫のように。」

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拝啓、泡になった人魚姫【0:1:1】15分程度 嵩祢茅英 @chielilly

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