第200話 ワクチン会場はどこですか
朝からせわしない方がいらしたんですよ。
「まぎらわしいな」
わたくしが、学校のラウンジで砂時計を出して、精神統一をしていたときでした。
「ふん、それから?」
わたくし以外だれもいないので、その人はまっすぐにわたくしのところへ来て、
「ちょっと待って、だれもいないの?」
事務所の方には誰かいたはずなんですけれどねえ。
「待ってよ、昼間から?」
いえ、9時15分過ぎくらい。
「あーそれから?」
その女の方は早口で「ここはワクチン会場ですか?」と詰め寄る感じで問いただしてきました。
「それで?」
わたくしは「いいえ、ここはラウンジですよ」と答えた。
「それから? 眠くなっちゃった」
ここはみんなが楽しんだりリラックスして過ごすとっても大切な場所なのに、あなたはなぜわたくしにそのようにぶっきらぼうに話しかけるんですか? と心で不満に思いました。
「ふん、大切な時間を台無しにされたのね」
はい。
「それから?」
「迷ってしまったんですけど」っておっしゃるんですね。
「で?」
ああ、ワクチンを打ちに来たんだな、と思って「ご案内いたします」と言ってソファから立ち上がって、隣を歩こうとしたの。
「まさに、自己中じゃん!」
「こちらです」、と左手で示して歩くと、その方、後からついてきて「スタッフの方?」って聞くんです。
「それから?」
「いえ、受講生です。初めての時は私も迷いました」と言ってすぐそこの列の最後尾にご案内しました。
「ふん、それで?」
「予約してないんですけど。予約したいんですけど」っておっしゃるので「ただいまスタッフさんをお呼びいたします」って言って、近くのスタッフに声掛けをしようとしたんですね。
「そしたら?」
スタッフはそれどころでなくて、さっさと列の前の方に行ってしまったので、追いかけて別のスタッフに「予約をしたいという方がいらしてます」と言いました。
「どっひゃー」
なんですか、そのどっひゃーって。
「あんた、まるっきりスタッフ扱いされてる」
単なる学生なんですけれどもねえ。
「わかるわかる」
最後尾に戻ると、スタッフがやってきて「ご予約の方ですか」っていう。
「うん、そしたら?」
その方は「予約がしたいんです」と言いました。
「けっこう、真面目に聞いてらっしゃるわね」
その時点でスタッフにバトンタッチして、教室へ向かいました。
「吐き気がしてきた」
?
「だってその人って別の人に移り変わるとき、挨拶した?」
いいえ?
「お礼は?」
いいえ。
「だめじゃん、その人。早くお互いにぶつけあう話をしようよ」
わたくし、勉強に集中しますと先生の前で宣言したところだったので、突然のことに驚きました。
「突然の事に応変したの」
まさか、こんなに集中できないとは!
「wwwwww世界で一番自分が大事なのね」
自分の次は家族ですが、その次が友人、他人はずっと後ですよ。
「そうなの、わたしは?」
女神は神様でしょ? 別格です。
「ありがと」
で、なんで昨日は朝から先生方が不機嫌そうだったのか、女神教えてくださる?
「それは、かなり昔のことを話した直後でしょ?」
ああ、そうでしたね。
「だから、真面目に受け止めて考えたのよ」
他意はないんですね。
「ないです」
そっかー、何か企んでるんじゃないんだ。
「何をたくらむの?」
受講生を試して、点数つけてるのかなって。
「それはないでしょ」
それにしても、N島さんがおとといから体調悪くしておやすみなんです。
「そおか」
で、先生にお聞きしたら、当分彼はこられないそうです。
「自分の場合」
わたくしだったら、入院してます。
「そうでしょう? そりゃそうでしょう」
はい。
「つくづく、我慢強い」
無限に強いわけじゃありませんよ、お友達からのアドバイスをノートに書きだして読みながら学校へ通っています。
「うまくいくといいわね」
はい、ありがとうございます。
「うんうん、今日は何かないわけ?」
つ大吟醸、天塩、清水、白米。
「ありがと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます