第2話
確かに彼女は、初対面のその日に「好き嫌いが激しいんですが、大丈夫ですか?」とは言っていた。
だけど、それは何がとは言っていなかった。
それは、おそらく一般の人だと食べ物だと考えるだろう。
しかし彼女は違った。色んな含みのある好き嫌いだった。それは一般の人がいう、人の好き嫌いも、趣味の好き嫌いも、もちろん匂いもそうだ。
そういった好き嫌いを、彼女は好き嫌いという一言でまとめてしまった。
それくらい彼女は面倒くさがりなんだろう。
「野菜の調理ひとつすら好き嫌いがあるとは思わなかった。」僕はズッキーニを切りながら横に立つ彼女に言った。彼女は僕が自分の好みじゃない調味料を入れないか監視しているのだ。
「オイルは嫌いなの。べとべとしてて、気持ち悪くて。そんなのが私の胃の中に入ると思っただけでも勘弁だわ。」
彼女の好き嫌い、一般的には偏食といべきか、それは相当であった。いや、偏食家からすれば大したことないのだが、一般的に生活していた僕からすれば、だ。
「塩は嫌。野菜やハーブのからの塩分は仕方ないにしても、自ら塩を摂取するのは断固として拒否なの。」
なぜ、と聞いた時があったが彼女は曖昧に「体が拒否するの」とだけ言っていた。相当後に、やんわり感づいたのだが、まさか、盛り塩や塩を巻いて心清らかにする行為から塩が恐怖症になり摂取するのも困難になったとは誰が考えようか。
こういう視覚的な情報に彼女は敏感なのだ。視覚だけではない。感覚がものすごく他人と比べて何百倍と鋭く敏感なのだ。
よくある暗いニュースや悪いニュースに敏感だったり、旅先の悪い気に影響されたりと彼女はいろいろ大変な性質だった。それが悪いことではないが、普通に生きてきた僕には縁がないようなことだったので、彼女がどこか違う世界に住んでいる人のように、今も思えてしまうのだ。
僕がいなくても彼女は大丈夫だろうかと。僕と出会う前も生きてきたのだから大丈夫なんだろうけれど、今彼女を守ってくれる人はいるのだろうか、彼女が頼れる人は近くにいるのだろうか。それは、誰なんだろうか。
僕は彼女で最後にしようと決めていたもんだから、彼女がいない今、僕には彼女以外いない。この先も彼女以外、誰かと一緒になろうとも思っていない。
だが彼女は違う。彼女は大変気難しく、簡単に誰かと一緒になることは難しいだろうけれど、きっと彼女に惹かれる人はたくさんいるはずだ。
僕はひどく悲しいのだ。自慢ではないが同世代に比べて給料もよく、いい大学を出て、オンオフもきっちり分けて悠々快適に暮らして、ただ独りというだけな、ごく一般的な僕ですら攻略、というのかたった一人の愛する人を幸せにできなかったことがひどく悲しいのだ。
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