第21話 赤の王城ぶっ壊してやる

「ええっ!?そ、それはダメだ!赤の国にだって良い人はいるんだ!モーリスさんみたいな…。きっと城に捕まって拷問されてる…。俺たちを逃すために」

 と俺は苦痛に顔を歪めると


「ほう、ならばその者も助け出し赤の国の城を破壊してやろう。俺も仲間をやられっぱなしじゃ気に食わないからどうしようかと考えていたんだ。魔法が効かずとも脆弱な人間たちには俺の腕力だけで大丈夫だし、この国の人間が使う魔法は火魔法。俺にとっては餌みたいなものだ」

 とニヤリとした。

 何という心強い味方ができたのか!

 ドラゴンはエンヴァルと名乗った。

 エンヴァルは


「所で…青の王子…トラヴィスと言ったな。お前臭いからさっさと温泉に入って来い。俺がこの娘と話をしていよう」

 と言うので睨んだ。


「何?マティルダに何かしたら許さない!さっき子供を産めとか言っていたし!」

 エンヴァルはふーむと考えて


「そうか、ならば娘も一緒に入って来い!もう湯冷めているであろう!」

 と俺たちはエンヴァルにドンと凄い力で押されて


「ぎゃっ!」

「きゃあ!!」

 と吹っ飛ばされてバシャンと温泉に投げ入れられた。


 服を着たままじゃないか!!

 いやそれより!!


 俺はくるりとマティルダから目を逸らす。

 男女が一緒に温泉に入ってしまった!!

 俺としたことがしまった!!エンヴァルめ!よくも!!服を着ているとはいえ男女が一緒に風呂に入るなんてまだ早い!


 …でも俺が一人で入ってる間にマティルダに何かされたらと思うと良かったのか?


「あーあ、これしか服がないわ…乾かさなきゃ…」


「全く!横暴なドラゴンだ!」

 背中合わせで俺たちは会話した。


「あの話は本当かな?お城を壊すって」


「ドラゴンだからな。あいつなら簡単だろう。同胞を殺されて魔法の効かない防具の素材に使われたんだ…悔しいだろう」


「やはりシャーロットのせいね…余計な知識を…」

 とマティルダはブツブツ言ったが、最終的には俺たちはドラゴンの案に乗り、モーリスさんを助け出し城ぶっ壊し計画に加担することになった。


 因みに濡れた服はドラゴンの鼻息ですぐ乾いた。


 *

 その前夜チラチラとマティルダが物足りなさそうに俺を見ていた。

 ああ、随分と猫になっていなかったな。変身薬を手に入れたら存分に触らせてあげよう。そう言えば大事にすると誓った彼女のプレゼント…宿に置いてある。くそっ!

 ついでに取り返したい!金よりも貴重だ!


「でも…マティルダは危険だからどこかに隠れていた方がいい。魔法が効かないから兵士に襲われたらと思うと…もうマティルダに絶対に他の男に触らせたくない!」

 と言うとマティルダは顔を赤らめた。可愛い。


「私だって…トラヴィス以外には触らせたくない!」

 と言うから俺はドキドキしてしまう。くっ!俺はマティルダの頭を撫でるだけで何とか我慢した。


「大丈夫…お、俺が守るから!」


「トラヴィス…」

 うっとりと彼女が瞳を潤ませるのでこちらは身が持たなくなりそうだ。キスしておけば良かったとエンヴァルと初めて会った時思ったが、結婚前だからと凄く我慢することにした。


 いや普通の恋人同士はするんだろうが。

 ふと夜空を見ると星が綺麗だった。マティルダも綺麗だ。エンヴァルは早々にグースカと眠ってしまった。


 そう言えば…恋人となってからあまり恋人らしいことはしていない。彼女は俺が触るまでは何もしないと言ったし。お、俺が触れば…。触る…。


「綺麗ねトラヴィス…」


「ああ…」


「明日私も戦う…もし貴方がやられてしまったら…私も後を追って死ぬわ。兵士に犯される前に」


「!マティルダ!!」

 思わずマティルダを抱きしめてしまった。


「俺はやられないから隠れていてくれ…頼む」


「…なら私は宿に行って荷物を取り返してくる!」


「もう売られてるかもしれない!危険だ!」

 俺たちがシャーロット達を見つけた時急いで宿を変えたのだが、その宿は小さくて流行らない古宿で従業員は耳の遠そうなお爺さんとまだ子供の孫だった。こじんまりと運営しているのだろう。経営に困って荷物を売り払ってしまってるかも…。


「大丈夫…平民達ならそんなに魔法に長けてないわ。平民が魔法防具を持っているわけないし、トラヴィスはモーリスさんを救い、エンヴァルが暴れて揺動してる隙に荷物を取り返してみせるわ!」

 それでも俺は心配だった。

 しかし安心させるようにマティルダは俺を抱きしめ返す。


「他の男に触らせないわ…」


「マティルダ…ごめん…」

 と謝り俺は限界で自然に彼女に吸い寄せられるように数秒触れるだけの短いキスをした。


「………気を付けて…」


「トラヴィスもね」

 と額を合わせて見つめ合った。


 *


 翌朝、残りの食料を食べきりエンヴァルの背中に乗った。ドラゴンの背中に乗る事になるなんて!マティルダと俺は固く手を握りしめ落ちないようにした。


 宿の上空でマティルダだけ降りて


「それじゃ、トラヴィス!こっちが終わったら待ち合わせ場所で待ってるから!!絶対に死なないでね!愛してるんだから!!」

 と言われて照れる。


「わ、判った!必ずエンヴァルと行くから心配するな!モーリスさんも助けるよ!!」

 と彼女と約束して一旦別れる。

 き、昨日ついキスをまたしてしまったから勇気が湧いてくる。お互いの気持ちを感じるキスを初めて俺はしたかも。


 エンヴァルと王城に降り立つ。兵士達が巨大なエンヴァルを見て叫ぶ。何人かがエンヴァルに矢を放って…エンヴァルは


「ウオオオオオオ!!」

 とビリビリする咆哮を上げた。矢は空中で意味もなく落下した。もちろん炎攻撃は効かず、向かってくる兵士は尻尾や業火で薙ぎ払われた。

 俺はエンヴァルの後ろの死角から見えないように地下を目指し移動を始めた。


 エンヴァルは俺が城に潜入するのを見届けると暴れる為にそこら辺の塔を破壊する。


「ぎゃあああ!ドラゴンだーーー!!」

 と叫び声が上がり、城の中もバタバタ逃げ回る人が多い中混乱に紛れ地下への階段を見つける。しかし、檻に鍵がかかり何とか俺は落ちてた斧で鍵を壊して中の階段を降りて行く。

 囚人達が沢山いた。罪のない人や、老人や子供までが助けを求めていた。きっと何か反抗して捕まった人達に見えた。すると、奥から


「何だお前は!?」

 と牢の番人が現れて俺は対峙する事になった。


「は!もしや!青の王…じ…ぶう!!!」

 ノーガードの頭に氷魔法の氷を落として兵士は倒れた。こいつは鍵を腰に付けていたので奪い、片端から牢を開けて逃げるように言う。

 皆口々に御礼を言い、一人からモーリスさんの居場所を教えられ向かう。


 するとようやくモーリスさんの牢が見えてきた!

 彼は吊るされて拷問された後で床には血が滴り歯や爪を剥がされていた。髪の色が赤から青に戻っていた。鞭の後も無数だ!くっ!!


「モーリスさんっ!!俺だ!助けに来た!生きてるか!?」


「むっ…何故…」

 と彼は応えたので俺は牢を開けてモーリスさんを助け出す。肩を貸し外へと一緒に逃げる。しかしそこで…


「トラヴィス様!!やはり!!私を迎えにきたのねっ!!」

 とあの女の声が聞こえた。振り向くとシャーロットがいた。

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