第18話 一緒に逃げる

 私が目を覚ますとトラヴィスに寄りかかっていたことに気付く。そして彼も私が起きたことに気付いた。


「目が覚めたか?…し、心配するな!!俺は寝ている君に指一本触っていない!」


「本当?」

 とジッと見たら彼は正直に白状した!


「す、すまない!頭だけ!頭だけ撫でた!!」

 えっ!?何だ頭か。


「もしかしてやはりふの…」


「そんなわけない!!俺は君にしか反応しないぞ!」


「言わなくて良いー!」

 というとしゅんとした。


「ごめん…そんなつもりじゃ…」

 と謝っていうと私は悪くないの一点張りで譲らない。


「……マティルダのことは好きだ。だからちゃんと守りたい。俺は守られてばかりだが」


「そんなことはないよ。トラヴィス守ってくれたじゃない」


「逃げただけだ」


「クリフォード王子と闘ったわ」

 私はソッとトラヴィスの頰にキスをした。

 トラヴィスはそれに飛び上がるくらい驚き真っ赤になった。


「………お礼よ」

 と言うと彼は黙ったままだ。

 これもはしたないと言われるかな。


「あ、ありがとう…俺は今…とても幸せだ。もうすぐ死ぬに違いない」

 と言った。


「何それ…ばかね!…はしたないって言わないのね?」


「……それなら俺の方がはしたない」

 はぁ?何でそうなるの?


「あの…時…。崖から落ちてマティルダが傷だらけの時…上級ポーションを飲ませる為、俺は君に触れてはいけないと知りつつも口移しで飲ませたんだ。気を失っていたから黙っていれば大丈夫だと…言えなかった。すまない…。恋人でもない男と…」

 と言うから驚いたけど何言ってんのこの王子様。それ普通に人命救助だ。私はあの時死にかけててむしろ助けてくれたのだし。


「何でもっと早く言わないの?それって命の恩人でしょ?人命救助の為に口移しで飲ませたことを後悔ってどんだけ悩んでいたの?バッカじゃないの?」


「すまない…。知ったら嫌がると思って…。あの時は。でも今はマティルダが俺には触れると知って…いくらか安心して…いや、でも勝手にすまない!!」

 とまた謝った!!


「気絶して意識なかったんだからノーカンだよ…」


「のーかん??」


「うっ…うん、まぁキスのうちには入らないのよ!キスはお互いに意識してするものじゃない?」

 と言うとトラヴィスは顔を上げ


「……よく考えたら…マティルダの言う通りじゃないか!」

 と言った。はぁ…気付くのが遅い。


「………マティルダ…一緒にまた逃げよう…。ちゃんとマティルダの好きな藍の国まで行こう…」


「うん…いいよ。ずっと一緒にいてね。トラヴィス!」


「!」

 トラヴィスが目を輝かせた時、扉が開いてマッチョのおじさんが入って来た。


「もう夜だ。警備も薄くなったから…ついて来い。抜け道を教えてやる」

 と言った。彼はモーリスと名乗った。


「何で助けてくれたんですか?」


「助けちゃいけない理由があるのか?…と言いたいところだが…赤の国の連中はもともと血気盛んな奴等が多い。俺も髪を染めちゃいるが元ブルメシアの国民なだけだ。自国民が逃げてるって聞いてな…」


「そうだったのか…すまない」


「あんた王子様だよな。その顔。ブルメシアにいた時見たことがある。俺はその時兵士やってた。足を怪我して退兵して赤の国の女と結婚したんだ。髪は赤に染めた。目立つからな」

 とモーリスは外に出て辺りを伺いとある路地に入り休業中の酒屋の裏口から侵入した。


「ここは俺が昼間やってる店だ。お前達みたいな逃亡者を逃してやる為にちょっと弄ってるんだ」

 と言い、また地下への階段を降りた。立てかけている絵を外すと扉が現れた。


 それを開けると通路が現れる。


「昔の鉱山道の後だ。今は使われてないがここを通り他国へ行ける。おっと、食料や旅道具をやる」


「ありがとう!モーリスさん!!」


「俺のカミさんな…あの魔法無効化の防具を付けた兵士に乱暴されたんだ。俺が仕入れに店を空けてる時だった。カミさん罪悪感で首を吊って死んでた。遺書に全てを書かれて。俺たち平民は生活魔法が使える程度。こんな腐った国さっさと出た方がいい」


 するとドンドンと上から音がした。


「ちっ!どうやら情報屋にバレたみたいだ!行け!逃げろ!」


「モーリスさんも逃げよう!!」


「俺は逃げねえ!時間を稼ぐから行け!ほら!王子様!!」

 とモーリスさんに急かされトラヴィスは私の手を握りしめ走り出した。


「トラヴィス!!モーリスさんが!」


「!マティルダ!彼の善意を無駄にしてはならない!逃げよう!」

 モーリスさんは扉を閉めてしまった。私達は灯りを持ち走り続けようやく出口の灯りが見えた。


 外に出て空気を吸うと森の中へ出ていた。トラヴィスは素早く現在地を貰った地図で確認して進み出す。手は握ったまま。手袋はない。

 トラヴィスの指が直接絡む。

 彼は逃げることに必死で気付いていない。


 *

 ようやく隠れられそうな洞穴があった。

 入り口を草で隠した。


「あー…疲れた。早く藍の国まで行きたい!」


「しかし…お金が殆ど無い。持ってきたものが有れば家の一つくらい買えた…」


「仕方ないよ…」


「すまない…変身薬も無い。猫になれない!俺は入り口の近くで見張りながら眠るから奥で眠ってくれ!」

 と言う。


 近頃はずっと猫モフさせてくれてたしな。


「…ありがとうトラヴィス…。その前に手当しよ」

 と魔法で水を出して布を浸しトラヴィスの傷口を綺麗にした。幸い傷薬が荷物に入っていたから助かった。


 上着を脱いで傷薬を塗るとトラヴィスは少し痛そうに顔を歪めた。


「食料もパンとチーズとミルク…。後、缶詰も少し入ってるよ。数日分だろうけど」

 ととりあえず腐りそうな物から食べる。


「ああ、藍の国の前に紫の国を通ろう。ここからもう少しだけかかるからなんとか見つからないよう移動しないと…」


「うん、もう少し頑張ったらモフモフスローライフなんだから!!」


「…そう言えばさっき…ずっと一緒にって…」

 ボソリと照れたようにトラヴィスが言うから私も照れちゃう。


「………嫌なの?私がトラヴィスのモフモフを捨てるわけないわ!変身薬が手に入ったらまたモフモフはさせて欲しい!一生でも」


「!!」

 トラヴィスはまた目を輝かせた。


「わ…判った!俺は一生君の猫でもいい!!」

 とトラヴィスは言って恐る恐る私の手を取った。


 ドキドキ…

 と心臓が鳴った。


 端正な顔に赤みが刺し私だけをその瞳に映している。こ、こんなのグラグラしない女の子いないかも。前世では好きなイケメンじゃなかったけど、行動下手なトラヴィスがここまで頑張ったのを褒めてやりたい。


 いい加減気持ちに応えないといけないし。

 判ってるわよもう。


「トラヴィス…す、好きよ…私とずっと一緒に居て…」

 と言うと彼は耳まで赤くなり何度も高速でブンブンうなづいた。いや首疲れる。落ち着け。


 一回落ち着いて息をスウハァしたトラヴィスは


「ん…夢を見ていないか?」

 と言ったので


「お望みなら一発殴ってあげようか?」

 と言うとそうしてくれと言うから


「じゃあ遠慮なくいくわ!」

 と私は拳を振り上げた。そしてトラヴィスはギュッと目を瞑り耐えの姿勢を見せた。


 そして私はトラヴィスにキスしてみせた。唇にちゃんとした。

 離れるとトラヴィスは石になっていた。


「ちょっとトラヴィス!キスしただけよ!」


「……………」

 返事がない。屍のようだ。


「はあ…もう…お休みなさい…」

 と私はゴロリと奥で横になった。

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