volaille -悲劇の英雄
なづ
序章 過去
美しい教会の庭園で風に靡いている金髪を、よく思い出す。
その横で、あのいけすかない従者が、目を細めて彼女を見ているのだ。そして自分も、その従者と同じ顔をしていることを、俺はよく知っていた。
彼女のことを思い出すと、胸がしくしくと痛んで、涙が出そうになる。それを一年も続けた。彼女に会えずにいた俺は「それで良い」と思い込んでいたのに、彼女はそんな俺も、あの従者の「いま」も知らず、あの礼拝堂で静かに狂っていっている。
――これからも、幸せな過去の夢だけを追って……
――そんなことって、と思うことすら、きっと俺には許されない。
「師は王の命には決して逆らわず、それどころかそれを生きがいにしているような人でした。本当に、騎士の中の騎士だった。憧れていたけれど、そんな師の在り方には俺はなれないと思っていた。なのに、そのあとすぐ、勅命が下ったというただそれだけで、俺は祈師様を……」
聖女様の顔を見ることができない。俺は顔を覆って、さめざめと泣いていた。
「ずいぶんと身勝手な悲劇の主人公だな」と自分をどれだけけなしても、この胸にある悔恨は収まらない。
俺は悲劇の主人公なんかじゃない。むしろ「その悲劇を起こしたクソ野郎」なのだ、と、自分が一番よく知っているのだ。
聖女様を見ていると、辛くて仕方がない。金髪も、翡翠の目も、その陶器のような肌も……なにもかもが、あの人と重なってしまう。
時を戻せるなら、俺はきっと、あの人を初めて見たあの日より以前に戻って、あの人と出会わない人生を選択するだろう。
そうすれば、きっと、彼女とあの従者は、欠けることなくあの頃のように笑い合って、花を摘んで過ごすのだ。
幸せに、そう、幸せに――なに不自由なく……
運命の歯車が動き出したのは、二年ほど前にさかのぼる。
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