(11)準備完了
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側近からのタレコミによりお仕置きされることになったシルクには、しっかりとその側近に対して罰を与えたりするようなことはしないように念を押しておいた。
シルクがそんなことをするとは思えないが、一応周囲に伝えることで他の者たちが余計なことをしないようにするための措置である。
シルク自身は<おしおき>が堪えたのか、前以上に張り切って活動している様子が見られた。
勿論これまでさぼる姿を見せてきたというわけではないのだが、主に自分の能力を伸ばす方向で動き回っているようだった。
今回の件を別の仕事で上書きしようとしているのか、あるいは忘れようとしているのかは不明だが、どちらにしても自分の能力向上を目指すこと自体は悪いことではない。
もっともシルクも含めて初期からいる眷属は、他の人外系プレイヤーからも恐れられるほどの力を持っている。
今更伸ばせる能力があるのかという疑問もあるのだが、やるべきことはいくらでもあるのだろう。
そんなシルクの姿を見て他の眷属もやる気を向上させているので、結果的にはよかったと言えるのかもしれない。
そしてシルクの騒動(?)があってから一週間後には、再度ファイからの報告を受けることになる。
今度は、残っていた三つの領土を統治していた魔物を三体とも倒したというものだった。
さすがに領土ボスを倒すペースとしては早すぎると思ったのだが、そもそもそれらの土地を領土化しているのは大陸にいる爵位持ちであって実効支配していた三体の魔物ではない。
その三体の魔物は、実力的には通常出てくる領土ボスよりも一回りか二回りほど落ちる程度だったそうで、子眷属だけでも十分倒せるほどだったらしい。
ちなみに三体の魔物は倒せたわけだが、三つの地域を領土化していたのは爵位持ちなので、その時点ですぐにユグホウラに領土して組み込まれたわけではない。
それらの地域をこちらが領土化するためには、大陸にいるはずの爵位持ちを倒さなければならないはずなのだが、ここでシステム(?)が発動した。
公領化するためにはそのための地域の八割以上を領土化していなければならず、現状だとその八割には届かず爵位持ちを倒さなければならないはずだった。
ところがツクシ全体を公領化する前に、ヒノモトを王領化するための条件が整ったというメッセージが来たのだ。
王領化というのは初めての言葉だったが、どう考えても爵位が『王』か『国王』になるためのものだということはわかる。
恐らくそうなるだろうと予想はしていたのだが、これでまず間違いなく次の爵位は王の位だということになった。
そのメッセージが出てきた時点で、わざわざ爵位持ちを倒しに大陸まで向かう必要がないとわかった。
ただし今回はたまたま王領化する条件が整ったために爵位持ちを倒さずに済んだが、今後もこんな好条件に恵まれるとは限らない。
今のところ大陸を領域化して行くかどうかは決めていないが、もしそうなった場合には似たような事例はいくらでも発生するだろう。
そうなった場合は、一々爵位持ちを討伐するなりして条件を満たさなければならなくなる。
それだと最初から爵位持ちを狙っていけばいいということになってしまい、空白地帯を狙って領域・領土化する意味がなくなる可能性もある。
最初から爵位持ちと敵対しているのならともかく、そうでない場合には何か別の方法を探っておきたいところだ。
もっとも相手が領土化しているところを狙って奪えば、ほとんどの場合敵対化すると思われるので、あまり意味のない考察ともいえるのだろうが。
とにかく領土化・公領化の細かい条件はいいとして、少なくともヒノモトを完全に領土化する条件は整った。
あとは、間違いなく出てくることになるボスを倒さなければならない。
そのためにも、まずは全眷属に集まってもらってしっかりとした話し合いをしてから準備を整えてもらう。
さすがに今回は俺自身も戦闘に参加することになっているので、眷属たちは万全の態勢を取れるように気合を入れて動き回っていた。
ファイから三体の魔物を排除したと連絡があってから五日後。
全眷属から準備が整ったという報告を受けて、俺たちはムサシとエチゴの境界線辺りに集まっていた。
そこを決戦の場に選んだのは、ムサシの領土から外に出ると弱体化してしまうタマモのことを考慮したからだ。
今回ばかりはタマモも戦闘に参加したいとはっきり言ってきたので、その意見を飲んだ結果今いる場所で決着をつけるということになっていた。
すべての準備を整えて決戦の地に集まったのは、ユグホウラの全兵力……というわけではなく、眷属を含めた精鋭数百が集まっている。
これまでの経験から王級ボスも一体だろうと予想していて、その場合だと数を集めても仕方ないので質で勝負したというわけだ。
もっともその数百の子眷属を見たタマモが呆れたような顔をしていたが、その真意を確かめることなく笑顔で誤魔化しきった。
恐らくこれだけの質で数を揃えられていること自体が驚きなのだろうが、わざわざ確認する必要もないくらいに理解していることなので、敢えて言葉にはしなかった。
周りに集まっている眷属、子眷属、そしてタマモ一家を見ながらトップの役目と思って声をかけた。
「それではいよいよボスを召び出す。これが最後の戦いというわけではないが、大きな一山になるのは間違いないだろうから皆よろしく頼むぞ!」
一応全員に聞こえるように魔法を使いながらそう宣言すると、その全員から「うおおおお!」という雄たけびが上がった。
もしこの近くに人族がいれば何事かと顔を青くしただろうが、今いる場所は人里から遠く離れた場所なので見つかることは無いだろうし、もし見つかったとしてもユグホウラ関係者だと分かれば問題ないはずだ。
皆のやる気を感じ取ってから周囲にいる眷属たちを見て、システムの操作を行う。
操作自体は既にほかのボスで慣れているとはいえ、王級となると初めてのことなのでさすがに多少の緊張はある。
それでもどうにか操作し切って現れたのは、いつもの通りでありながらいつもとは全く違った大きさと魔力が籠った魔法陣だった。
その魔法陣から現れた王級ボスは、姿かたちが元の世界で東洋に伝わっている最強の一角を占めている龍だった。
東洋風のその龍からは、システムから出したにもかかわらずどこか知性さえ感じる。
その証拠に周囲には子眷属が多くいるのに、その視線は俺をじっと捉えたままで動かなかった。
ただ話ができるというわけではなく、視線から感じるその圧力はどう考えてもやる気満々という意思を感じる。
もしこの世界に来たばかりの状態であれば間違いなくその視線だけでやり直しとなっていただろうが、今の俺では分体の状態であったとしても倒れるようなことにはならなかった。
それどころか一種の武者震いのような震えと共に、やれるという確信のようのなものさえ感じることができていた。
それを口に出せばどんなゆるみが生じるか分からないので黙ったままだったが、周りにいた眷属たちは何かを感じたのだろう。
何か話しかけてこようとしている雰囲気は感じたが、俺自身はそれに応じることなくただ相手の龍を見つめていた。
その視線を外せばそれを「隙」だと感じた龍が何かしらをやって来るという確信があったからだが、それが理由からなのかは不明だが俺と龍のにらみ合いは体感時間で一分ほど続いた。
こちらも相手もやる気は十分、手加減など必要ないことなど分かり切っているが、あいさつ代わりの攻撃をまずは俺自身が先陣を切って行うことにした。
「枝根動可!」
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