(8)ブレません

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 インヨウの攻略に対して残りの二地域については、当初と比べれば攻略スピードは落ちていた。

 その理由はやはり爵位持ちが関与していると思われる魔物の存在があるからだ。

 キナイは一体の魔物が複数の領域を支配していると思われるが、ツクシの場合は二、三体の魔物で一領土に迫る勢いで攻略が進んでいるらしい。

 近畿よりも九州の方に力が入っているのは、やはり大陸に近くて来やすいからという理由があるのだろう。

 どうせだったらツクシをしっかり攻略し切ってからキナイに行けばよかったものをと思わなくもないが、何か特別な事情があったのかもしれない。

 眷属から来る報告を聞きながらそんなことを考えていたら、思いがけないところからその理由が判明した。

 

 そもそも現在キナイで版図を広げようとしている魔物(領域持ち)は、元からツクシで活動していた魔物らしい。

 その魔物が大陸から来た爵位持ちの部下に働きかけて、仲間に加わるという流れだったようだ。

 ツクシとキナイの間に未攻略だったインヨウがあるが、これは敢えて距離を話して攻略を開始するようにとの指示に従ってのことだ。

 近くで攻略をされると邪魔になるのと、彼らの主に目をかけられる可能性があるという勢力争いが起こった結果らしい。

 人族から見ればキナイはもっとも発展した町が集まっている地域だが、魔物から見ればほとんど関係がない。

 それよりも大陸にいるはずの爵位持ちボスからより近い土地の方が、格上だという考えなのだろう。

 

 結果としてインヨウが置き去りにされたまま二地域の攻略が始まったというわけだが、勢力が分散しているという意味においてはこちらとしても助かった状況になっている。

 もっともキナイにいる魔物がツクシにいて攻略が進んでとしても、結果が変わっていたかは微妙なところだろう。

 元から仲間割れしている状態なので、ツクシの全域が攻略済みにでもなっていなければ、今と同じように数で蹂躙して終わっていた可能性のほうが高い。

 今この段階になっても出てこない爵位持ちのことを考えれば、ツクシが取られたとしても直接出てきたかどうかは怪しいだろう。

 

 ――そんな推測での状況分析はともかくとして、現在のその状況を情報として提供してくれたのは例の異分子魔物だそうだ。

 その魔物は、現在キナイの攻略を進めている魔物の下で小間使いのような役目を負っていたそうだ。

 魔物の種としては兎種でありその足の速さを買われてツクシとの連絡係として使われていたらしい。

 同じような役目を負っている魔物はその彼(彼女?)以外にもいるようで、件の魔物がいなくなったとしても途中で他の魔物に喰われたという扱いにされるらしい。

 

 どこまで本当のことかはわからないが、件の魔物が兎種であることだけは紛れもない事実である。

 ツクシからキナイまでかなり距離があるのにわざわざ連絡係を用意してまで離れた場所で攻略を進めているということは、かなり厄介者扱いされているということなのだろう。

 もしくは大陸にいる爵位持ちでヒノモトに関与してきているが一体ではなく、複数いるということもありえる。

 それなら二勢力間で仲が良くないというのも理由付けとしてはあり得る。

 

「――まあ、ちょっかいをかけてきているのか一体だろうと二体だろうとやることは変わらないんだけれどね」

 何となくこれまでの経過を雑談を交えつづ話していたクインに、そんな結論めいたことを言ってみた。

「確かにそうですが、向こうから接触してきた場合はどうされますか?」

「今更そんなことしてくるかな? タマモの時と同じように一応使者は送ったけれど、無視したのは向こうだし」

「この後に及んで協定を結ぶというのは、命乞いに近い行為だと?」

「それならまだいいんだけれどね。どちらかというと内から食い破ろうとする策略じゃない?」

「そうかも知れません。それならやはり何があっても助けることは無いというわけですね」

「まあね。少なくともヒノモトから出て行ってもらうことになると思うよ。……反対?」

「そうですね。『恐怖』を知った魔物ほど厄介なものはないと思っておりますから」


 本来であれば恐怖を知ればあとは逃げ隠れしながら生き延びることだけを考えるようになると思いがちだが、実際はその恐怖を目標にして再起をかける魔物も多いのだという。

 恐怖体験をした実例があるだけに、目標を見据えて無茶なことをする分通常の魔物よりも極端な成長をする場合があるそうだ。

 厄介なのは目標に達するまで相手から逃げ隠れしながら生きていくことになるので、目標達成するまでは中々見つけづらくなるらしい。

 本来魔物は力を隠さず相対するものが多いので、そうやって隠れて爪を研ぎながら機会をうかがっている魔物を相手にするほうが厄介ということになる。

 

「だからこそ敵対した場合は情け容赦なく……か。確かにそれが一番なんだろうね」

「やはり反対されますか?」

「いや。しないよ。弱い相手を敢えて強くしてみるなんてストーリーも嫌いじゃないけれど、皆の命を懸けてまでやるようなことじゃないからね」

 俺がそう断言するとクインは安心したような表情になっていた。

 

 話が逸れてしまったが、何が言いたいかといえばヒノモトの攻略が終わるまでは今後一切敵に情けをかけるつもりはないということだ。

 タマモの時のように、領域や領土の主に収まってもらうという選択肢も残っていない。

 食うか食われるかではないが、列島から完全に出て行ってもらうまではこの攻略を終わらせるつもりはない。

 それを理解してもらうために、わざわざこの話をしたのである。

 

 ちなみに何故こんな話になったかといえば、例の異分子の話をした流れでこれから先も同じようなことをするのかと問われたためだ。

 質問をしてきたクインも雑談中に何となくしてきたという感じだったので、特に深い意味があったわけではないだろう。

 その上でこんな結論めいたことを話すことになってしまったわけだが、結果的にはよかったと考えている。

 雑談中に出た話だからこそ、普段から考えていることだと伝わっていると思ってくれると期待して。

 

 ――クインを相手にそんな話をしている真っ最中に、とあるメッセージが流れて来た。

 そのメッセージを待つついでにクインと雑談をしていたと言っても過言ではない。

「おっと。来たか」

「ついにインヨウの攻略が終わりましたか」

「だね。あとは公領ボスを倒すだけになったけれど……さて。アンネはどう判断するかな?」

「アンネはあれで慎重なところもありますから、数日後に連絡をしてくるのではありませんか? 主様に攻略が終わったことが伝わっていることはわかっているでしょうし」

「やっぱりクインもそう思う? まあ、とりあえずゆっくり連絡を待とうか。待って二、三日ってところかな」

「そんなものでしょう」

 俺とクインでアンネの行動を予測しつつ、これからの予定を立てていく。

 

 そしてその予想通りに、この雑談から二日後にはアンネから公領ボスを出現させてほしいという連絡がくるのであった。




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