(10)新しい歪み
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本格的な冬が来て北の大地が雪に包まれる中、戦の準備は順調に進んでいるようだった。
戦に関してはあくまでもツガル家がメインなので、こちらは情報を聞いて確認するだけしかできない。
イトウ家と対峙することになっている蜂の子眷属は既にすべての移動を終えて、時が来るのを待っている――わけではなく適当に領域を広げていた。
既に精霊樹は終えているので、その周辺を順番に領域化して行っている状況だ。
春になって本格的に戦が動き始めれば、その戦力を使ってイトウ家にちょっかいを掛けることになっている。
領域化している場所はイトウ家の領地からは離れているので、万が一にも子眷属が見つかることはないはずだ。
……と思いたいのだが、威力偵察などでツガル家の領地とされる山中を移動してきた場合接敵する可能性はある。
ただし領域化するためにボス戦をするためならともかく、普段は数体から十体程度で行動しているのでたとえ接敵したとしてもまさか春に行われる戦の牽制要員だとは気付かないだろう。
東北地方の攻略が順調に始まった一方で、樺太の島は既に二体目の領土ボスの討伐に向けて動き出している。
この分だと一年かからずに島の全域の領土化が終わって、さらに公領化するところまで行けるのではないかと思えるほどだ。
一応無理なく進めるように伝えてはいるのだが、話を聞いている限りでは攻略を進めている眷属、子眷属が無理や無茶をしている様子はないので、好きなようにさせている。
それだけ眷属たちの強さが平均しても上がっている証拠なので、それはそれで喜ばしいことなのだろうと考えている。
エゾの外に関しては今のところこんな感じだが、内についてはどうなっているのかといえばこちらも順調の一言だ。
今現在エゾの地の中でメインで動いている案件はなんといっても造船所関連の設備の建設だが、まずはもとになる製錬所……を建てるための小型の精錬所の建設は既に終わっている。
建設が始まってから半年も経たずにできたので早すぎないかと思ったのだが、そもそも本格的に利用する設備ではないのでそれでも十分だということだ。
さすがに本利用する精錬所の建設は一年がかりの構想で動いているようなので、そこまで心配する必要はなさそうだ。
本利用できる精錬所が完成すれば次は造船所の建設になるのだが、精錬所で作られる各種素材は造船以外にも利用されることになっている。
まずは造船所と船のための素材を作るために稼働するのだが、それ以外の金属の製錬にも利用できるようになっているらしい。
そのあたりの細かい設計は完全にアイ任せなのでよくわからないが、話を聞いただけでも完全に工業化に向かって進んでいることは分かる。
工業化が進んだ場合に製錬された各種素材を外に向けて輸出するかどうかはまだ決めていないが、それだけでも莫大な利益を上げることができそうだ。
ただし利益云々は、完全にただの想像の範囲内でしかない。
実際に外に向けて輸出するかどうかも決めていないので、勝手に脳内で想像して楽しんでいるだけの状態だ。
そもそもユグホウラが人族に対してどういう立ち位置になるのかはまだまだわからないところがあるので、未知の金属類の輸出の話も今の段階で決めてしまうことはできない。
今はあくまでも造船に向けての建設と眷属たちには説明している。
内外での動きはこんな感じだが、もっと細かいところでいえば手に入れた二個の卵は元気に育っている最中だ。
育っているといっても自分では確認することはできないので完全に眷属頼りなのだが、魔力を与えることだけはきちんと行っている。
俺を通して世界樹の魔力を与えれば与えるほど眷属としての強さに影響があるようなので、他の眷属たちからは会うたびに毎回確認されるほどだ。
ちなみに眷属としての強さというのは戦闘力だけではなく、あくまでも魔力的な強さのことだ。
そんなこんなでユグホウラは順調すぎるほど順調に拡大しているが、ここで以前から放置されていた問題が一つ解決することとなる。
その問題が何かといえば、歪みが成長した結果何になるのかということだ。
以前の調査で眷属のシルクがダンジョン発生前の違和感を感じ取っていたが、それと同じことができる子眷属がいたようで、エゾの領土内を警戒している時にそれを発見したそうだ。
その場所はホームにほど近い場所だったのでユリアに確認してもらうと、まさしく大きな歪みが発生していたそうだ。
何故世界樹に浄化されずに残っているのかはわからないが、ともかくそこに特徴的な歪みがあることだけは分かった。
それから数日観察して歪みが大きくなっていることを感じ取ったユリアが、今まさに俺に報告をしてきたというわけだ。
「――なるほどね。これがその歪みか。確かに大きい……というか前の時よりも成長しているかな?」
「はい。私が見つけた時でもあの時より大きかったように見えました」
「位置もホームにほど近いし、予定通りにこのまま放置しておくか。シルク、この辺りは要警戒地域に指定するから何か変化があったらすぐに報告するように」
「わかりましたわ。ダンジョンができた場合はどうされますか?」
「できればその前に変化を知りたい……と言いたいところだけれど、子眷属には歪みが視えないから仕方ないか。どっちにしてもダンジョンができても報告だけで済ませて、中には入らないようにして」
「畏まりましたわ。ダンジョンの攻略をしてしまわないのは理由があるのですか?」
「ちょっと前々から確認したいことがあってね。出来れば俺自身が攻略しておきたい」
実はプレイヤーの交流の場となっている掲示板で、とある話題が持ち上がっていた。
その話を聞いてからダンジョンに興味を持つことになったのだが、ここにダンジョンができるのであれば自分自身でもそれを確認してみたかった。
既に領土持ちとなっている俺自身がダンジョンを攻略したらどうなるのかを確かめたいという気持ちもあるのだが、もしかするとそれ以外の変化が起こるかも知れないという期待もある。
いずれにしてもこの場にダンジョンができないとどうすることもできないので、今は本当にダンジョンができるのかを含めて確認する必要がある。
「何も主様自ら攻略を進めなくとも……と言いたいですが、何かお考えがありそうですわね」
「心配させてごめんね。でもこればかりは自分自身で確かめないと駄目そうだから、変わってもらうことはできないかな」
「ならば仕方ありませんわ。ですが、他の者にもきちんと報告はしておくようにしてください」
「う……はい。それは当然そうなるよね」
俺自身がダンジョン攻略を進めると言えば他の眷属たちから大反対を食らいそうだが、こればかりは甘んじて受けるしかない。
本来であれば発生したばかりのダンジョンなど子眷属に任せてしまえばいいところを、調査目的があるとはいえ自分自身で進めるという我がままを押し通そうとしているのだから。
説明さえきちんとすれば眷属たちも納得してくれるという確信はあるが、それでも彼らから怒りの視線を向けられるのは避けたいところだ。
とはいえこればかりは避けようがないので、シルクの言うとおりに素直に報告することにした。
これら諸々の結果としてダンジョン攻略を無事に進めることができるようになるのだが、そのまえにこの歪みが本当にダンジョンになるのかを確認しないといけない。
少なくとも俺自身がこの世界に来てユグホウラの領地内にできる初めてのダンジョンになるはずなので、しっかりと見守っていこうと決めていた。
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