(2)ドワーフ初対面
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ユリアの歪みの確認能力については当人が努力を続けなければならないことなので、当面の間は一人で頑張ってもらうことにした。
時折間違った方向に進んでいないかは確認する必要はあるが、それ以外は基本的に放置しておいた方がいいだろう。
そう判断したのは、当人のやる気がすごかったこととあくまでも感覚的なことなので変にこちらから指示しない方がいいだろうと考えてのことだ。
逆にやり過ぎる可能性のことも考えておかなければならないくらいにやる気になっているので、その時にはきちんとした忠告が必要になる。
そのあたりの匙加減は中々難しいところだが、よほどのことがない限りは手を差し伸べるつもりはない。
それは別に突き放しているというわけではなく、当人にしかわからないギリギリのラインを見極める必要があると考えているためだ。
ユリアの場合、そうしないといつまで経っても無茶を貫き通してしまう気がしている。
きちんと監視(主に子眷属)がいるところで、限界を知ってもらう必要があるだろうとの思いもある。
というわけでユリアのことは基本放置することにして、今度はドワーフのところへ挨拶をしに行くことにした。
ドワーフは子眷属に様子を見てもらいつつ、今後新しいことを色々とやってもらうつもりでいた。
だが既にこちらに迎え入れた段階で、ドールたちが開発した新しい素材をアイ自身が直接見せたそうだ。
最初にその話を聞いた時には驚いたが、アイが大丈夫だと判断したことを評価しておきたい。
ドワーフを迎え入れることもそうだがこちらで開発した素材の提供も、アイは消極的な反対の立場だった。
だからこそ判断をアイに任せておいたのだが、良い方に転がったようだ。
たとえドワーフを迎え入れなくても、ドールたちならいずれどうにかしてしまうだろうという気持ちはある。
ただドワーフを仲間として加えたことによって、金属関係の研究が加速することを期待している。
ドールとドワーフが協力することによって開発されるであろう新しい素材で一番期待しているのは、これから先のことを考えて一番必要になるであろう船の素材だ。
当初は木造船をと考えていたのだが、ドールたちが次々に新しい素材を開発してきたという実績を鑑みて木以外の素材のことも視野に入ってきたのだ。
ドワーフが来る前は、ハウスのショップ機能を使って加工された金属類を手に入れていたのだが、実際に船を作るとなると大量生産する必要がある。
そのことを考えれば、ドールを増やしてもらうか他の人手を確保する必要があったというわけだ。
エゾの地を完全に公領化した以上、今後のことは考えなければならない。
その上で、船の確保は最低限の必須事項となる。
そしてどうせ作るならオーバーテクノロジー過ぎて再現するのに年月がかかるものを作ってしまったほうがいい――というのがアイの提言の一つだった。
それができるのであればというのもあってドワーフを受け入れることを決めたのはいいが、俺が進化で眠っている間に新しい素材を作り出していたのには驚きを隠せなかった。
それもこれも俺がドワーフを受け入れることを決めたからというのがアイの言い分だが、それにしても優秀過ぎる。
これから先もアイ――というよりも眷属たち――には色々と助けてもらうんだろうなと思いつつ、感謝することは忘れないでおこうと思っている。
ちなみにドワーフがいてもいなくても構わないと考えているのは、今でも変わっていない。
ドワーフがいれば船作成の時間が短縮されるのは確かだが、彼らだけに頼るつもりもないのだ。
――と、そんなことを考えつつドワーフの長であるイーロと初対面することになったのだが、目の前にいるドワーフはまさしく「ドワーフ」という感じの風貌だった。
「ガッハッハ。そなたが世界樹の妖精か?」
「そういうことになっていますね」
「なんだ。はっきりしない答えだな。まあ、儂にとってはどうでもいいが。それよりもいい環境を与えてくれたことに感謝だ。得にあの素材に関しては、だが」
「喜んでいただけたならありがたいです。それから素材関係はすべてアイに任せていますので、私に細かいことを聞かれれてもわかりませんよ?」
「なんだ。それは残念だ」
牽制するつもりで言った言葉だったが、イーロも最初から答えが得られるとは考えていなかったのか、カカカと笑い返してきた。
この短い時間でも、彼が政治的で面倒なやり取りを好まないということは理解できた。
それがドワーフ全体でそうなのか、イーロが少数派なのかはまだ分からないのだが。
イーロのさっぱりとしたこの性格は、今後の付き合い方においてもいい方に転がりそうだと思う。
正直なところ貴族(商人)的な回りくどいやり取りよりも、こうしたストレートなやり取りのほうがことを進めやすいと考えている方なのだ。
貴族的なやり取りも変に相手に言質を取られないようにするために必要だと理解はしているのだが、面倒だと感じてしまうのは性分なので仕方ない。
その点から考えてももイーロは、好ましい人物だといえるかもしれない。
「そういえば、地下暮らしになっていますがその点は大丈夫ですか?」
「ああ。この地はこれから雪で覆われるのであろう? それを考えればむしろ過ごしやすいな」
「それはよかった。作物なんかは自前で育てると聞きましたが?」
「それはそうだろう。全てを外から仕入れられればいいが、そういうわけにもいかないだろうからな」
「ダークエルフの里であれば、十分余裕があると思いますが?」
「何……? これから冬になるのだろう。そんなに貯蓄しているのか?」
「ああ、そうか。それは言っていなかったのですね。冬……というか、雪の中で育つ野菜なんかがありまして、そちらを卸すこともできるはずですよ」
「なんと……そこはさすがに世界樹といったところなのか?」
「どうなんでしょう? 他に出来る存在もいるかもしれませんが、少なくとも私は知りませんね」
「儂もだ。しかし、そうか。そのあたりも含めて、あちらの長と話をしておいたほうがいいかも知れないな」
「そうですね。その辺のことはお任せしますよ。こちらから変に口出しはしない方がいいでしょうから
「あちらさんは、お前さんのことを神聖視しているようだから頼めばすぐに提供してきそうだ」
「ですよね。だからこそ里の運営に関しては、それぞれに任せることにしているのですよ」
「なるほどな」
俺の言い分に納得したのか、イーロは何度か頷いていた。
あるいは眷属も含めて里の運営方法に口出しをしてこないことを疑問に思っていたのかもしれない。
蝦夷の地に受け入れる種族がこれからも増えていくかはわからないが、今後のことを考えれば税金のようなものはきちんと考えたほうがいいかも知れない。
ただそうなったらそうなったできちんと統治をしなければならなくなるので、色々と手間暇がかかることになる。
いっそのこと人族の政治関係は丸投げにしてしまってもいいかという考えも選択肢の一つとしてあるのだが、それはそれで後々問題だらけになりそうな気もする。
……主に眷属という魔物が存在しているせいで。
それだけ人族(主にヒューマン)の中にある魔物に対するアレルギーのようなものは、体の中に染みついている。
ダークエルフや目の前にいるドワーフたちはそうではない、というところが幸いといったところだろうか。
とにかくイーロに会ったことで、特に眷属たちに対する偏見のようなものは持っていないらしいということが分かっただけでも自分にとっては大収穫だった。
これであるならドワーフに対して、もう一つの『歓迎の品』を提示してもいいかも知れない――そんなことを考えるのであった。
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