(9)除去作業

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『世界樹(成木)への進化を開始します。分体生成をしている場合は自動解除されます』


 進化開始を選択するとそんなメッセージが流れてきて、自動的に分体生成が解除されたことがわかった。

 そして、その直後に起こるブラックアウト。

 そんな感覚に陥ったのは世界樹に転生(?)してから初めてのことだったので、少し慌ててしまった。

 とはいえ焦ったところでどうしようもないので、そのまま身を任せることしかできなかった。

 

 次に意識が目覚めたのは、ハウスから戻ってきた時に感じるような世界樹の中で目が覚めたような感覚と同時だった。

 敢えて上げれば世界樹に転生した時に、最初に意識が覚醒した時と同じような感覚ともいえる。

 何か自意識の中で長い間眠っていたような、気を失っていたような、少し気だるいと感じる感覚が残っている。

 世界樹も一応木の一種ではあるので当然のように光合成は行っていて、昼と夜のサイクルは感じているはずだ。

 恐らくその感覚で、ある程度の時間が経ったのだろうと認識しているのだろう。

 最初の頃はそんなことを感じる余裕もなかったのだから、自分の中で進歩を感じて何となく嬉しくなってしまった。

 

 そんな感情をほんの少しの間感じていたが、ここでいつもとは違った状況にあることに気が付いた。

 意識の中に残っている『眠っていた』という感覚もそうなのだが、いつものように自由に体の中を移動できなくなっていた。

(――あれ? どうして……?)

 そう問いかけてみたものの動けないものは動けない。

 

 いつもであれば魔力の流れに沿ってある程度自由に移動できるのだが、何故か今はその移動ができなくなっている。

 さらにいえば、意識は戻っているのに分体生成もできなくなってしまっていた。

(えーと、どういうことだろうか。進化の影響?)

 そんなことを考えてみたもののすぐに答えは見つからない。

 

 そのまま考えていても仕方ないので、まずは動けなくなっている原因を調べてみることにした。

 そんなこんなで色々と確認してみたが、どうやら最初の頃と同じように魔力操作が上手くできなくなっていることがわかった。

 進化前には本体の中を自由に移動できたはずなのだが、今は一定のごく狭い範囲内でしか動くことができない。

 感覚的には、数センチ動いているかどうかといったところだ。

 

 本体の中で自由に移動できなくなっているということはわかった。

 であれば、次は移動できなくなっている原因を探さなければならない。

 というわけでひとまず動ける数センチの範囲を移動しながらその原因を探っていく。

 何度も何度も同じところを行ったり来たりしながら――。

 

 そして同じところを何度も移動していると、それ以上いけなくなる場所と自由に動ける場所で差があることに気が付くことができた。

 それまで移動できないと思っていたのだが、実際には移動するのに非常に時間がかかるようになっていたのだ。

 移動するのに時間がかかることに気が付いたあとは、何故そうなっているのかを探り始める。

 そうして見つけたのが、これまで魔力の移動できた通路のような場所に動きを遅くする障害物のようなものがあることがわかった。

 

 それがわかると次は、その障害物をどうすれば取り除くことができるのかという問題になる。

 障害物とはいってもあくまでも魔力的な問題なので、物質的な何かがあるわけではなく単純にそれを排除すればいいということにはならない。

 さてどうしようかと考えつつ、八つ当たり気味に障害物に体当たり(?)を繰り返してみるが特に何か変わったことは起こらなかった。

 そもそも非常に通りにくくなっているだけで、完全に通れなくなっているわけではない――とここまで考えてふと意識が戻ってすぐのことを思い出した。

 

 進化することを選択してから意識が戻るまでの間、そこそこの時間が経っているという感覚があった。

 それからすぐの間は全く動けなくなっていて、気付いた時には今の数センチ程度動けるようになっていたのだ。

(えっ……? もしかしなくても時間が解決するパターン? だとしてもこの感じだとえらい時間がかかる気がするんだが?)

 そんな疑問が浮かんでくるが、明確な答えは見つからなかった。

 

 しばらく悩んでみたもののこのままの状態で待っていてはらちが明かないと考えて、それ以外の方法でどうにかならないかを再度探ることにした。

 ちなみにハウスに戻ることも考えて実際に実行してみたが、チュートリアル中のときと同じように戻ることができなくなっていた。

 さてどうしたものかとひとしきり考えて、思いついたことを片っ端から試してみる。

 その中で一番反応が良かったのは、動きづらくなっている場所に敢えて移動してそこに一定時間とどまっているということだった。

 

 まず自分の意識がある魔力の核を移動しづらい場所に時間をかけて移動させる。

 さらにその場所に一定時間とどまっていると、障害物のようなものがなくなっていることに気が付いた。

(これは……どういうことだろう? スライムみたいに消化したわけじゃない……よな?)

 そんな疑問が浮かんでくるが、障害物の除去方法はわかったのでとりあえずちまちまと移動しつつ障害物が消えるのを待つという作業を繰り返した。

 

 何度も何度もその作業をしていくうちに、一つ気付けたことがあった。

(これってもしかしなくても邪魔になっているものを魔力化しているのか? なんか、汚くなった水を浄化しているみたいな……いや、どちらかといえば原油を精製している感じか)

 それのことを思いついてから敢えてそれを意識してみると、驚いたことに障害物の除去する時間が早くなった。

 これまで何度も繰り返してきた作業だけに、かかっている時間が減っていることはすぐに実感できた。

 

 障害物を精製あるいは浄化するというイメージしながら作業を進めてみると、これまでの倍以上の時間で除去作業が出来ていた。

 さらに作業を進めれば進めるほど、手慣れていっているのか浄化スピードはどんどん早くなっていく。

 そうこうしているうちに浄化のイメージをしなくても、ほとんど無意識のうちに作業を進めることが出来るようになった。

 ここまで来る頃には、世界樹の幹に当たるような部分はほとんど移動できるようになっていた。

 

 そこまでの除去作業を進めて分かったことは、世界樹が進化によって今まで以上に巨木になっているということだった。

 何しろ体(?)感的にも倍以上の移動をしているように感じているのだ。

 さらにいえば除去作業のお陰なのか、あるいは本体が大きくなったからなのかは分からないが、体内の移動スピードが上がっている気がする。

 どちらにしても、外からどう見えるようになっているかはわからないが、世界樹が大きくなっていることは間違いないと確信できた。

 

 幹の部分の移動が自由にできるようになったあとは、枝葉や根の細い通り道を細かく作業していく。

 ここまでくると通り道も非常に狭いので作業自体もとても細かくなるのだが、これまでの作業の慣れで進めることができている。

 もっと細かくいえば、魔力の核を細かく分かれている枝道にいくつも分けてその先で除去作業を行っている。

 幹の部分の作業だと一度に多くの障害物を処理しなければならなかったので時間がかかっていたのだが、細くて細かい場所だと障害物自体も小さくなっているので処理にかかる時間は短くなっている。

 

 そんな作業をひたすら繰り返していくと、ようやく満足ができるくらいの状態になった。

 魔力的な状態でいれば、以前以上に調子がよくなっていることがわかる。

 そこまでの状態になった時にようやく満足した俺は、久しぶりだという感覚を持ちながら分体生成をすることにした。

 そして以前のようになれた感じでスキルを発動すると、成功したという感覚とともに本体の外に出ることができた。




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