(5)出会い(邂逅)

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 転移装置に驚くイェフたちを案内しつつ、ダークエルフの長老の家に入った。

 家に向かう道中では、ヒューマンがいるということで村人の注目を集めていたが、傍に俺たちがいることですぐに納得した様子でそれぞれの作業に戻っていた。

 長老の家に向かうだけならダークエルフの案内人をつければいいだけなのだが、敢えて俺たちが案内役をやっているのはこれが理由だったりする。

 これで里にいるダークエルフには、彼らが世界樹と関わりのある人物だということが認識されたはずだ。

 あとは自然に口コミで広まるのを待つだけで、よほどのことがない限りは彼らに余計なちょっかいを出そうとする者はいないだろう。

 ……親の目を盗んで冒険をしたい子供が、何かをしてくる可能性は多少あるかも知れないが。

 

 長老の家の前まで行くと、既に長老自身が外に出て出迎えてくれた。

 それが必要なことかどうかはイェフたちの態度を見る限りでは微妙なところだが、とにもかくにも彼らはここで休みを取ることになった。

 子供連れということで最初からそういう流れにしていたのだが、後から考えればそこまで気を使う必要はなかった。

 どうやらこの世界の子供たちは、俺が思っている以上に動けるようだった。

 

 それはともかく明日が本番。

 何があるかといえば、里とホームをつないでいる転移装置を使って本体を見せに行くのだ。

 そうすることによって何があるかといえば……今のところよくわからないというのが正直なところ。

 何かが起こるだろうということはわかるのだが、具体的に何が起こるかは分からない。

 だからこそ、わざわざ存在を隠す必要がある転移装置を使ってまで来てもらったのだ。

 今のところ悪い感じはしていないので、あとはその結果を待つことしかできないのである。

 

 

 

< Side:イェフ >


 彼(?)と出会うことになったのは、育ての娘であるユリアが採取地で不思議な存在と出会ったと言われたことから始まる。

 ユリアには十歳になった時に俺たちが実の親ではないことを伝えていて、今では納得もできているようだ。

 血のつながりがないことを伝えたことで大きく変わる可能性もあったのだが、それ以前と変わらない様子で過ごしているのを見て幾分か安堵している。

 彼女がそのままでいれたのは、間違いなく妻であるイザベラの存在があったからだろう。

 俺一人では、歪んで成長してしまった可能性の方が高かったのではないだろうか。

 

 そのユリアが言ってきた不可思議な存在が気になって、人々が寝静まった夜中に目的地に行ってみれば、予想外の出来事に遭遇することになる。

 娘が言っていた不可思議な存在に会うことができたのは良いのだが、その当人も含めて傍にいる二体の魔物がやばかったのだ。

 どう考えても、俺一人では討伐することなどできるはずもない――どころか町中の戦力が集まっても敵わないと思わせるような強者だったのだ。

 対面している間はどうにか気付いていることを悟られないように必死になっていたが、後から思えば少年の姿をした主(精霊か、妖精?)はともかく魔物の二体には気付かれていただろう。

 

 俺自身の弱さを実感したことはともかくとして、一回目の話で旅の誘いをされただけで終わった。

 それはそれでいいのだが、最後の脅しともとれる少年の言葉には内心の怯えが表に出ないようにするだけで必死だった。

 どちらにしても一応選択肢というのもの与えられた俺は、村に戻ってすぐにイザベラに先ほどあったことを相談した。

 幸いにして既にユリアは眠っていたので、彼らと会ったときの熱量が冷めないうちに相談できたのはよかったと思う。

 

 結婚してからそれなりの年月連れ添っているだけあって、イザベラはすぐに何か大事があったことは察してくれた。

 そして例の採取地であったことを話し終えると、ため息混じりにこう確認してきた。

「――行くのね?」

「勘違いして欲しくはないのだが、彼らの主は来ても来なくてもどちらでも構わないという態度だった。実際断ったからといって襲ってきたりもしないだろう。ただ……」

「ユリアのためには、行っておいた方がいいと?」

「そうなる。これが例の運命にどう関わってくるかはわからないが、下手に避けない方がいいと考えた……のだが、正直なところはまだ迷っているんだ」

「あらあら。久しぶりに弱気なあなたを見られたわね」

 クスクスと笑いながらそう言ってきたイザベラに、俺はムスッと返すことしかできなかった。

 それが照れを隠すためのものだということはとっくの昔にイザベラにはばれているのだが、敢えてそれを治すことなくここまで来ている。

 

「どちらにしても明日ユリアが起きてからだな。もし行きたくないと答えれば、断るつもりだ」

「そうね。それがいいわ。逆にいえば、あの子が行くといえば行くことになるけれど?」

「それでいいじゃないか。俺たちはあの子のためにここにいるんだ。それが別の場所に変わるだけ……であればいいがな」

「そこははっきり言い切ってもらいたかったわね」

 そう言いながらもクスクスとわらうイザベラを見ながら、俺はこのまま一生頭が上がらないんだろうなと考えていた。

 

 翌朝、イザベラと決めたように早速ユリアに確認をしてみると、予想以上に早く「行く!」と答えてきた。

 そのあまりの速さにイザベラも驚いていたが、俺は逆に真剣にユリアの様子を確認することになった。

 もしかすると一度会った時に何らかの魔法をかけられているのではないかと疑ったのだ。

 とはいえ、そんな魔法を使えるような相手なのであれば、そもそも気取られるようなことはないだろうが。

 結局いくら観察してもそうした気配は感じ取ることはできず、相手の思惑通りに長旅とやらに出ることになった。

 

 少年と会ってから翌日には誘いに乗ることを決めたのだが、その日のうちに返事をすることはしなかった。

 相手の勢いに乗せられているのではないかと冷静に考える時間が欲しかったのと、ユリア自信が俺たちの雰囲気に乗せられているのではないかと考えたからだ。

 子供は色々な意味で敏いところを見せることがある。

 夜中の話し合いは聞いていなかっただろうが、既に俺たちの雰囲気から何かを感じ取っている可能性もあった。

 だからこそ数日空けたのだが、ユリアの決心は変わらず俺とイザベラの考えても変わることはなかった。

 

 そして少年の誘いに乗ることを伝えたのは別の相手――といか魔物だったが、その魔物も一筋縄ではいかない相手だということはすぐにわかった。

 試しにどの種類の魔物かを聞いてみたのだが、特に口止めはされていないのかすぐに蜂の系統だと教えてくれた。

 その彼――見た目は男だった――も初日にあった女性の片方と同じように背中に半透明の羽が生えていたので、恐らくその女性も同じなのだろう。

 別の女性に関しては、最初から隠すつもりがなかったのか、下半身が蜘蛛になっていたので蜘蛛系統の魔物だということはわかっている。

 もっとも種類が分かったからといって、戦いになって勝てるというわけではないのだが。

 

 とにかくその魔物に伝えてからまた数日後には、俺たちは村を旅立つことになった。

 旅に出ると決めてからは色々と準備をしてきたので、恐らく不足はないだろう。

 どれくらいの期間動き回ることになるのかはわからないが、できればまだまだ子供のユリアに無茶ではない行程であってほしい。

 そんなことを考えていた俺だったが、いい意味でその願いを裏切られることになる。




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