(2)時間待ち
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売買機能の基本的なことについては、上級商人さんのお陰で理解することはできた。
あとの問題はどんな商品が必要とされているのか、あるいはどんな商品が出てくるのかということになるが、こればかりは利用する人が増えてこないと何ともいえない。
売買自体は一対一で行うものなので二人いれば成立はするのだが、経済という大きなくくりで見るためには人数が少なすぎるといったところだろうか。
何かを売って何かを買うということ自体は基本機能として使う前からあることは想像できるが、どんな商品が売買されるようになるかはこれからの動きでどうなるかは全く読めない。
上級商人さん曰く、特に人外系の人たちが望む商品がどんなものになるかはよくわからないということだった。
他のプレイヤーに比べて眷属を多く抱えている俺でさえ、正直なところ他のプレイヤーが出せる商品で何が欲しいかと言われてピンとくるものはほとんどない。
そういう意味では、上級商人さんが出品してくれた魔物の卵は中々良い選択だったとも言えるだろう。
一応人型をしている女性陣には武器や防具を与えてもいいかも知れないが、男性陣に与える武器防具となると全く思いつかないのが現状である。
敢えて言えばアクセサリーや常時発動している魔道具なんかは与えてもいいかもしれないが、彼らがそれを喜ぶかはまた別問題だ。
もっともあの眷属たちであれば、俺が何かを与えればそれだけで喜んで着け続けるような気もするのだが。
眷属のことは脇に置いておくとして、今は売買機能のことだ。
といっても上級商人さんとのやり取りでできることは終わったので、あとは人数が増えるのを待つだけだ。
これに関しては上級商人さんと話をして、増えてくるのは時間の問題だろうということになっている。
理由は単純で、俺と上級商人さんの二人の解放者が現れたことで、大体の条件が分かっているからだ。
ある程度の条件さえわかれば、それにめがけて突き進めばいずれは解放されるのだから目指さない者はいないだろうということだ。
特に上級商人さん以外の商人は、間違いなく売買機能の解放を目指して動くはずだ。
彼らにとってはここでの取引が、あちらの世界で活躍するための起爆剤になりえるのだからそれも当然だろう。
問題があるとすればそれ以外の職に就いている者だちだが、こればかりは強制することもできないのでどうすることもできない。
生産系の職に就いている場合は、珍しい素材なんかを求めて出来る限り早い解放を目指すだろう。
だが戦闘系や人外系については、そこまで急いで売買機能の解放を目指すかといえば疑問である。
変に分相応なアイテムを持ったところで、周りから目を付けられる結果になりかねないのだから及び腰になる者が出てきてもおかしくはない。
それが分かっているだけに、解放を無理強いすることはできないし、する意味もほとんどないだろう。
もっとも強力なバフがつけられるアイテムなんかが出てくるようになれば話は変わってくるだろう。
要はこれもやり取りされる商品の質が関わってくることになるので、売買機能でやり取りされる品の質が上がってくるのを待つしかないだろう。
そんなやり取りをメモ帳である程度議論したところで、掲示板にある程度まとめたものを落とし込んだ。
その結果としては、興味深く話に加わってくる者と今は様子見といった感じになる者が半々といったところだろうか。
正直なことをいえば、俺自身も今はまだ他のプレイヤーとの商品のやり取りにさほどの魅力を感じていないといったところが本音だろうか。
そこはやはりこれから上がってくるはずの質に期待するしかない。
それぞれ欲しいものまとめることができるメモ帳を用意するという案も出てきて、さっそくそのメモ帳が用意されていた。
まだまだ利用できる者がいないので書き込みはほとんどないのだが、売買機能を利用しようと考えている者たちにとってはいい指標になるはずだ。
売買機能については、時間をかけて色々と話あった結果こんな感じで収まった。
上級商人さんからは珍しいものが手に入ったら是非とも出品してほしいと言われているが、正直なところを言えば何が珍しいのかが分からないので出品しようがない。
上級商人さん含めて他のプレイヤーもそのことを理解しているのか、メモ帳にそのことを記載した途端に「ああ」と言われてしまった。
今まで人種とのやり取りをほとんどしていない弊害がここに来て現れたとも言えるだろう。
売買機能の話を終えた後は、掲示板の雑談に時折混じったり、妙に充実しつつあるハウスの中でダラダラ過ごしたりしていた。
そのダラダラも数日分も過ごせば飽きてくるもので、意識は次第にあちらの世界へと向いていく。
結果として領土ボスを倒してハウスに戻ってきてから時間にして一週間ほどであちらの世界に戻ることにするのであった。
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今回のことで、ハウスで一週間も過ごしてホームに来ると「戻ってきた」という感覚が強くなることが分かった。
そんな感想を抱きつつも分体生成を使って表に出ると、雪がちらついていることに気付いて少し驚いた。
ボス戦を行った時に秋になっていたとはいえ、雪が降り始めていることを考えるとこちらの世界で換算してひと月以上は経っているということになる。
相変わらずハウスとこちらの世界の時間経過は、どういう基準で計算されているのかがわからなさすぎる。
戻ってきてすぐに周囲を見た感じ、特に変わった様子もないので大きな事件なんかも起きていないのだろう。
俺が戻ってきたのを目ざとく見つけたルフが駆け寄ってくる様子を見ても、何かが起こったということはなさそうで、単純に嬉しそうに寄ってきていた。
「ワフ(お帰りなさい)」
「ああ。ただいま。皆は元気にしているか?」
「ワフ(うん)」
「そうか」
そんな会話をしつつもルフの頭をなでてやると、しっぽがブンブンと大きく振られている。
すでに三体の子持ちとなっているルフだが、こういうところは以前と全く変わっていない。
ルフとそんなことをしていると、少し離れたところで作業をしていたアイも気付いて近寄ってきた。
「ご主人様、お帰りなさい。……そちらは?」
アイは、ハウスと繋がっている箱から出した物を見てそう聞いてきた。
「ああ、これ? あっちで手に入れた魔物の卵だね。卵の状態から孵化させたことがなかったから買ってみた」
「卵からの孵化、ですか……」
「何か問題ある? 危なそうとかであれば、すぐに破壊してもいいけれど?」
「いえ。確かに卵からであれば問題ないかも知れません。それに、孵化した状態でもさほど強くはないでしょうから、何が生まれるのか確認してからでも遅くはないでしょう」
「そうか。あ、そうだ。細かい種まではわからないけれど、一応蟻系の何かが生まれるはずって言っていたな」
俺の言葉にアイは「そうですか」とだけ返してきた。
生まれてくるのが蟻だろうと何だろうと、強さ自体は大した問題にはならないらしい。
それよりも、生まれてきた時にどんな『状態』になっているのかが問題だと。
その『状態』というのは、眷属になっているか否かといったところだ。
俺もそれが気になったので、上級商人さんが売りに出してきた卵を敢えて買ってみたのだ。
いずれにしても結果は生まれてみないと分からないので、卵はアイが建てた建物の一つの中で孵化するまで置いておくことになった。
孵化するまで魔力を注ぎ続けるのが条件らしいのだが、それについては大した問題ではない。
生まれてくる魔物がどうなるのか、それが分かれば今後の領域運営も変わってくる可能性があるということで、他の眷属たちも興味津々で卵から生まれてくる魔物を待つのであった。
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