(9)戦いの総括
本日(2021/1/3)投稿2話目(2/2)
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道東地域を領土化するために出現してきたボス――毎回説明するときに長すぎるので簡略化して領土ボスと呼ぶことにした――は、サラマンダー(サンショウウオ)の一種だった。
サラマンダーというと火を吐く種類を思い浮かべる人も多いかも知れないが、今回ボスとして出てきたのは湿地帯をイメージしているのか水属性の魔法を多く使ってきていた。
二度目のボスとの戦いで分かったのだが、恐らく領土ボスとして出てくる相手は普段から出てくる魔物とは違った特殊な種類が出てくるようだ。
今回のサラマンダーも湿原辺りに出てきているサラマンダーとは違って、体格や色彩なんかは勿論のこと戦いで使ってくる技や魔法なども全く違っていた。
ボスとして出てきている以上は当たり前なのかもしれないのだが、特に魔法の威力は段違いどころの騒ぎではなかった。
――と、こんなことを過去形で話していられるのは、既にサラマンダー戦を無事に終えているからだ。
どうにかこうにか俺一人で倒すことに成功したそのサラマンダーは、見事に戦いの場とした湿地帯の一部にその大きな体を横たえている。
今は周囲で様子を見守っていた子眷属たちに群がられて、解体が進んでいる。
解体された素材は、それぞれ有効活用されることだろう。
既に終わっているサラマンダー戦のことを振り返ってみるが、結果としては勝っているが一歩間違えばこちらが負けていてもおかしくはない場面は幾度もあった。
そのたびに眷属たちが割り込もうとしているのが気配で分かったのだが、どうにかこうにか最後まで介入してくることはなく終わらせることができた。
予定通りに一人で倒せたのはいいのだが、完勝とはほど遠く辛勝も辛勝といったところだった。
ギリギリのところで勝ちを拾えたのは、相手が火属性ではなく水属性系の魔法を多く使用してきたことと、こちらの植物系魔法がいわゆる特攻になっていたからだと思われる。
そういう意味では、俺自身が植物そのものだったから勝てたともいえるかもしれない。
どちらにしても勝ちは勝ちなので、喜ばしいことであるのは間違いない。
そんなことを感慨深げに思いつつ子眷属たちの解体作業を見守っていると、アイが近寄ってきて話しかけてきた。
「討伐おめでとうございます」
「うん? ああ。ありがとう」
「……嬉しくないのですか?」
「ああ~。いや。心配させたか。ごめん」
どうやら眷属たちは、俺が相手を倒したにもかかわらず喜びを表に出さずにずっと黙ったまま見守っていることに心配していたらしい。
「嬉しくないわけじゃないよ。それよりも、ギリギリでしか倒せなかったという感覚のほうが強いかな?」
「悔しい?」
「いや、悔しいというのも違うかな。もし相手が火属性持ちだったらとか、こちらが相手の弱点をつけなかったらとか、色々と思い浮かんできてね。整理がついていない感じだね」
「弱点があってもなくても戦いは戦いで、勝ちは勝ち」
「ああ。それはその通りだ。大丈夫、それはきちんとわかっているさ」
そんなことを答えながら、思わずアイの頭をなでてしまった。
今のところ身長ではまだ俺の方が低いのだが、空を飛んでいるので背伸びしているという感覚はない。
撫でられているアイも特に拒絶するようなことはなく、されるがままになっていた。
別に普段からこんなことをしているわけではないのだが、何故か今はそうしたくなってしまっていた。
アイの頭をなでていると、これまで感傷的になっていた心が落ち着いて普段通りになってきた。
初めてボス戦を一人で戦い切ったので忘れることは無いだろうが、それでも今まで浮かんでは消えていた戦いの風景がだんだんと落ち着いていく。
どうにかこうにか記憶の消化がうまく行っているのだと実感できたので、アイには悪いがそのまましばらく続けさせてもらうことにした。
既にほかの眷属たちも近くに寄ってきていて、シルクとクインが何やら羨ましそうに俺とアイを見てきていたが、ここは敢えて気付かなかったフリをしておいた。
二人からのおねだりに応えると、何となく収集がつかなくなりそうな気がしたのだ。
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そんなこんなで戦いの記憶の整理が落ち着いて、ようやく今回のメッセージを確認する余裕ができた。
今回のメッセージは前回の領土ボス戦とは違って、因子を得たという一つのメッセージしかなかった。
爵位に関しては一つの領土が増えたくらいでは変わらないようで、以前のままと同じ侯爵のままだった。
ただし、道東地域を治めていることはきちんと表示されている。
システムから出したボスなので確実に間違いないのだが、それでも改めて表示されているのを見ると安心できる。
というわけで以前と変わらなかったのは爵位関係ということになるのだが、因子に関しては新しいものが増えていた。
その因子の名前は『火炎の因子』で、その名前の通りに火に関する属性が関係しそうな因子だ。
詳しいことは使ってみないと分からないが、名前から大きく外れることはないだろう。
火に関する属性なので前回のように種なんかに使うとどうなるのかわからないが、無駄なことにならなければいいとは思っている。
そんなことを考えて微妙な雰囲気になっていたことを感じ取ったのか、クインが近寄ってきた。
「主様、何かございましたか?」
「いや。ちょっと戦果を確認していたんだけれどね。今回手に入った因子が微妙な感じだったんだよね」
「微妙ですか?」
「まだ使ってみてないから詳しくはわからないけれどね。名前が『火炎の因子』だった」
「火炎、ですか。確かにそれは主様にとっては微妙かもしれませんね」
俺の言いたいことがすぐに伝わったのか、クインも納得したように頷いていた。
因子の効果のことはまだまだ分かっていないことが多いのだが、少なくとも俺自身が活用できる機会は少ない可能性は高い。
そう思ったからこそ二人揃ってそんな表情になっていた……のだが、ここでクインがふと思いついたような顔になって言った。
「そういえば、耐性系としてはどうなのでしょうか?」
「耐性……あ。全く考えていなかったな。そうか。そっち方面で考えると、むしろかなり有用になるのか」
「主様が基本は植物であることには違いないですからね。いくら世界樹といえども高温で焼かれてしまう可能性はありますから」
「それに対しての耐性がつけば、より個体としても強くなれると。なるほどね」
火炎の因子が熱や火に対しての耐性にもなるのであれば、植物である俺にとってはかなり有用な効果を得たことになる。
考えてみれば、極寒の因子で作った例の種も冷気に対しての耐性を得たからこそあのような寒い場所で育っているのだろう。
そう考えると、クインが言ったことはプラスになることはあってもマイナスになることは無いはずだ。
当初は微妙だと考えていた火炎の因子の効果も、クインのお陰で色々と考えることができてきた。
今となっては何故そんなことも考えつかなかったのかと思うところだが、一度思い込んでしまうと中々その考えから抜け出せなくなってしまうという悪例だろう。
どちらにしても、火炎の因子を利用することについてこの先色々と実験していなかければいけないだろう。
それに、あと数か月もしないうちに雪が降ってきて積もることは間違いないので、火炎の因子の効果を確かめるにはちょうどいい季節になっている。
まだまだゆっくりできる時間はないのかもしれないのだろうなと思いつつ、今回のことを報告するためにハウスへと向かうのであった。
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