(8)春から秋にかけて(二年目)
本日(2021/1/3)投稿1話目(1/2)
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
集まった鳥種たちに準眷属であることはその場では宣言せずに保留にしてしまったが、何もそのまま放置しようと考えていたわけではない。
ゴブリンたちは実験的に準眷属にすることを認めたが、他の準眷属になりそう魔物に対しては準備期間のようなものを設けてもいいのではないかと考えたのだ。
今回の場合であれば、ラックに仲介してもらってその間の働きを確認させてもらう。
その間に俺たちが望むような結果が出せればそれでよし、そうでなかったとしても敵対的な行動さえとらなければそれでいい。
これは準眷属として認めた場合でも同じことなのだが、彼らが今まで通りの範囲で活動をしてくれれば、他の魔物へのけん制になってくれることも期待している。
魔物は人だけではなく魔物同士でも縄張り争いをしたりするので、それだけでも十分にこちらとしての利益はある。
勿論、いきなり領域主になってしまうと困ったことになるのだが、少なくとも準眷属や監視対象になっていることで見張る範囲が狭くて済むという効果もあるだろう。
いずれにしてもラックにとっては準眷属候補の存在により飛び回る範囲が少なくなることによって、より効率的に領域化を進めていくことができるようになるはずだ。
勿論恭順の意思を示しているとはいえ、完全に信用しているわけではない。
そういう意味では、ゴブリンたちと同じようにそれなりに監視の目を置いておくつもりでいる。
そんなことを考えているうちに月日は過ぎていき、北海道の短い夏が終わってちらほらと紅葉が見られるようになってきた。
そんな中で、ダークエルフの里で試験的に植えたコメは順調に育っていて、そろそろ収穫を始めてもいいだろうという報告が上がってきている。
さらにホーム周辺で行っている三人のダークエルフたちの研究も、着実に成果をあげているようだった。
彼らの仕事は俺が使った魔法を実用レベルに落とし込むことなので、研究の中盤から後半にかけてはほとんど口を挟むことは無くなっていた。
その間も俺自身が行いたい魔法の確認などもやっていて、結果としては十分すぎるほどの内容を残している。
簡単に言ってしまえば俺自身が食べたい食物なんかを実験用の畑で育てていたりしたのだが、それもしっかりと実りを残している。
さらに付け加えると、極寒の因子を混ぜた種もしっかりと成長していて、見事に時代に継ぐことができる新しい種もつけていた。
今後はこれらの種を使って、さらに数を増やしていくことを目指している。
俺自身が一つ一つ種を作っていってもいいのだが、これから先のことを考えればきちんと自生したうえで生息範囲を広げていってほしいと考えている。
最終的には極地に行っても育つような植物を作りたいと考えているのだが、あの植物がそこまでの低温環境で育ち切るかはいまだに確認できていない。
そういう意味でも外洋に出て行く手段をなるべく早めに手に入れたいところだが、今のところは全く見通しが立っていないのが現状である。
いっそのこと翼のある準眷属(候補)の彼らの誰かに種だけ運んでもらうということも考えたが、さすがに環境が悪すぎて死地へ向かう感じになりかねないので控えている。
魔石<極寒>を使って進化したラックであれば極地に行っても大丈夫な可能性は高いと考えているのだが、そもそもラックにそんな長旅をしてもらえるほどの時間はないので言い出すのはためらっている。
シルクやクイン、それにアイが行っている子眷属、孫眷属の増加に関しては、特に俺が口を挟むまでもなく順調に進んでいる。
アイが作った子眷属は既に五体にまで増えていて、物づくりに関しては生産スピードは目論見通りに上がっている。
それでもアイには不満があるようで、最終的には自分で考えて新しいものを作れるような存在を目指しているらしい。
そうなってくるとほとんど以前のアイと同じような思考力を持たなければならなくなるのだが、彼女が諦めていないということはそれなりに成果も上がっているのだろうと期待している。
さらに、シルクやクインが生み出した子眷属の女王は、期待通りに孫眷属を生み出すことに成功している。
そうした孫眷属の数はまだまだ少ないのだが、これまで偵察部隊として活動していた子眷属たちに教わりながら着実に正規の部隊として運用できるように訓練を進めているようだ。
この辺りの話はシルクやクインからまた聞きで聞いているだけなので、正確なところはよくわかっていない。
ただ俺自身はその辺りの細かいところにまで口を出す必要はないと考えておらず、今後しっかりとした報告が上がってくるようになればいいと思っている。
上司が細かいところまで口出ししてくるような組織は早晩駄目になると経験から分かっているので、敢えて口出ししないようにしているということもある。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
そんなこんなでダークエルフの里では無事にコメの収穫が始まり、これだと来年からはもっと増やしても大丈夫だろうと結論が出そうになった頃。
ようやく待ちに待った結果が、ステータス画面に表示されることとなった。
そう。ついに道東方面の規定量の領域化が終わって、ついに領土化ができるというメッセージが来たのだ。
道北地域と比べて眷属、子眷属の数が増えているにもかかわらず時間がかかったように思えるのは、領域化はせずともそれ以外の地域を調べるために時間を費やしていたためだ。
特に、以前人が暮らしていたような痕跡が海岸線に沿って幾つか見つかり、それの調査に時間がかかってしまったということもある。
結果としてそれらの朽ちた村には人が住んでいるということは無く、魔物にやられてしまったか自然消滅してしまったのだろうという結論になっていた。
そうした場所を領域化するのと俺が自分自身を鍛えることに時間を使ったということもあって、道東地域の領域化が遅れる要因にもなっている。
それはそれで仕方ないと割り切っているのでいいのだが、これ以上遅らせて来年までかかるとなるとさすがに焦っていてもおかしくはなかったので、この報告を受けた時には内心でホッとしていた。
下手をすればその間に、日本でいうところの小樽辺りにあると思われる町の住人たちに俺たちの存在が気付かれる可能性もあったので、もしかするとぎりぎりのタイミングだったかもしれない。
その真偽は結局分からないままだったのだが、ばれる前に道東地域が領土化できればそれに越したことは無いので、あとはその結果を求めて行動するだけである。
というわけで、道北地域の時と同じように様々な準備を進めてきたわけだが、あの時とは大きく違っている点が一つだけある。
それが何かといえば、これまでの経験を生かして俺自身がボスと戦うと決めたことだ。
これに関しては当初、全眷属から反対意見が出まくったわけだが、主として自分の意見を押し通してもらった。
そこまでしてボスと戦いたかったのは、恐らく今後もこういった状況が出てくる可能性があるので、周囲の状況が万全のうちに経験しておきたいと考えたためだ。
その考えを主張すると、それまで全力で俺を止めようとしていた眷属たちが考えるようになり、最終的には皆が納得して賛成してくれたというわけだ。
とはいっても未だに渋い顔をしているシルクやクインなんかもいるわけだが、これは単に顔形が人そのものなので感情が読みやすいということがあるためだ。
恐らくだが他の眷属たちも納得はしていても、気持ちの上ではいまだに止めてほしいと思っているのだろう。
態度は言動には示していないが、何となくそんな雰囲気を感じるときがある。
それが分かっていてもここでわがままを押し通しておかないと、本当に今後もただただ眷属の威を借りる樹になりかねない。
それはできれば避けたいと考えているので、決意を新たにボスを呼び出すためシステムのメッセージに触れるのであった。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます