(3)実験その2と大変身

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 ラックに乗せてもらって次に移動してのは、先ほどの場所から海岸線沿いにさらに北に向かった領域だ。

 この領域は最近解放されたところで、現在の最北端となる。

 最北端に来たのは先ほどまでいた場所から近かったからで、特に意味はなく、領域の境界線を目指してきたのが今回の実験の主な目的だ。

 わざわざここまで出張ってきたその理由というのは勿論、分体になっている俺が領域の外に出ることができないかを試すためである。

 この方法を試すことになったもの掲示板でヒントをもらえたからで、これがうまくいけばまさしく掲示板様様ということになる。

 できれば掲示板がある意味を再確認するためにも、今回の実験は成功かもしくは領域外にでるための足掛かりになってほしいと考えている。

 

「――というわけで、さっそくやってみようかな。ラック、周辺に魔物はいないんだよね?」

「ピ、ピピ(はい。問題ありません)」

「よし。それじゃあ、やってみようか。――と、その前に、一応確認してみるか」


 分体の状態で領域外に出られないことを確認したのは、こちらの世界の時間で換算するとかなり前のことになる。

 それから今までの間に何か大きな変化が起こったわけではないので外に出られるようになったとは考えづらいが、それでも試してみる価値はある。

 何もしないで外に出あれるのであれば、それに越したことは無い。

 

 そんな甘い考えで領域の境界線まで近づいた俺は、以前の失敗を繰り返さないようにそっと近づいていった。

「…………うーん。やっぱり駄目か」

 やっぱり手で押そうが体ごと無理やり突き抜けようとしようが、どうあがいてもある一定の場所からは外に出ることができなかった。

 これはこれで予想通りのことなので特に問題はないのだが、籠の中に閉じ込められた鳥のような気分になってしまうので、やはりいい気分ではない。

 領域自体の範囲が広大なので、籠の中の鳥と比較すること自体が間違いなのはわかっているのだが。

 

 それはそれとして、取りあえず今は領域の外に出ることができないことは確認ができた。

 続いてここまで来た本来の目的を果たすべく、スキルの枝根動可を使って領域ギリギリまで根の先を近づけた。

 ちなみにここでも一応確認しておいたが、枝根動可で根を領域外に出そうと思っても分体の時と同じように外に出すことはできなかった。

 そして領域の外に出すことができなかった根の先をちょっとだけ領域の内側に戻して、領域の壁と根の先の間に分体が来るように配置をする。

 その上で、根の先に背中を付けた俺は、そのまま根の先から吸い上げるように分体へと魔力を移動させる。

 これもまた複数の魔力を同時に操れるようになったことと魔力操作で自在に魔力を動かせるようになったことでできるようになった成果だ。

 枝根動可で出てきている根は物理的に本体と繋がっているわけではないが、魔力的には繋がっているからこそできる技(?)だ。

 

 枝根動可によって分体が魔力的に強化された状態で領域の壁を通過しようとするとどうなるのか。それが今回やってみたかったことだ。

 流石にこれ以上は限界というところまで根っこの先から魔力を受け取った分体で、もう一度領域の壁に向かって移動をする。

 移動といっても根の先から十センチも離れていないので、壁にはすぐにぶつかった。

「――やっぱり駄目……うわっ!?」

「ピピ!(主!)」


 壁に触れたと思った瞬間に弾き飛ばされる俺を見て、慌ててラックが翼をはためかせながら近寄ってきた。

「痛てて。大丈夫大丈夫。……体は大丈夫だったんだけれど、やっぱり無理だったか。少し行けそうな気もしたんだけれど」

「ピピ、ピイピイ?(あまり無茶をなさらないでください。それにしても行けそう……ですか。何か感触でもあったのですか?)」

「感触というか……感覚? 何となく感じたことだけれど、この壁って分体を閉じ込めるというよりは、守るために用意されているみたいに感じた」

「ピ?(守る、ですか)」

「言ってしまえば、今のお前じゃ死ぬからやめておけ見たいな感じ?」

「……ピー(……なるほど)」

「これはもう推測の推測になってしまうけれど、もしかしたら本体が進化とかしたら外に出られるようになるかもしれないな」

「ピピ?(それは何故でしょう?)」

「何となくで根拠はない! ――というのは半分冗談で、本体が進化したら分体の能力が上がりそうだからね。その状態だと外に出ても大丈夫だと判断されそう?」

「ピピイ(なるほど)」

「まあ、あくまでも推測でしかないけれどね」

 枝根動可で得た魔力もなくなって、ウンともスンともいわなくなった領域の壁に触れていた俺だったが、これ以上はどうしようもできないと諦めた。

 

 分体で領域の外に出られるようになれば今まで以上に自由に経験値が稼げるかと考えていたのだが、それはまだまだ先の話になりそうだった。

 現状世界樹が進化するかどうかも分からないことも含めて、時間がかかりそうだ。

 世界樹の進化については、ステータスで種族に敢えて『世界樹(苗木)』となっていることからその先もありそうだと楽観視している。

 苗木となっている以上はその先もあるのだろうということが根拠だが、そもそもどうすれば世界樹が進化するのかが分からない以上はあくまでも推測でしかない。

 それを確認するためにも、できる限り自分自身で魔物を倒して経験値を稼ごうと考えたのだが、そう世の中上手くはいかないということだろう。

 これについては当面諦めて、眷属たちには迷惑をかけるが領域内で発生した魔物か、領域外にいる魔物を引っ張ってもらって倒すしかない。

 

 世界樹が得られる経験値は自分で倒した魔物以外からも得られているのは救いだが、やはり自分で倒したほうが実入りが良いことはわかっている。

 とはいえこればかりは焦っても仕方がないので、今までと同じように地道にやっていくしかない。

 少し希望があるとすれば、領域が広がるにつれて日々自動で入ってきている経験値が増えている形跡があることだ。

 自動で得ている経験値は、もしかすると領域内にいる生物からごく僅かなエネルギーのようなものを得ていると推測している。

 それが当たっているかはわからない上に確認する方法もないのだが、領域が広がれば得られる経験値が増えることだけは確定している。

 そのためにも領域の拡大は、無理や無茶をしない程度に進めるだけ進めておきたい。

 領域から得られる経験値のことを話せば眷属たちは必ず無茶をするだろという確信があるので、そのことを話すつもりはないのだが。

 

 

 そんなこんなで一勝一敗で終わった魔法実験だったが、ラックの背に乗ってホームに戻ると驚くことが起こっていた。

 その驚くことが何かといえば、実験前に魔石を渡していたアイに大きな変化が起こっていたのだ。

 具体的にいえば、木の枝のつぎはぎでできていた体がよりフィギュアやドールに近いものになっている。

 さらに付け加えると、のどの機能まで追加されているのかクインやシルクと同じように言葉さえ話していた。

 

「――え~と。……少し離れている間に何があったのかな?」

「お帰りなさいませ、ご主人様。頂いた魔石を取り込んでみたら、いきなりこんな感じになりました。私も驚いています」

「取り込んだって? あー……その話は詳しく後でしっかり聞くとして、とりあえず無茶をしたということだけはわかった」

「無茶というわけでもないのですが?」

「あれ? そうなの? うーん。わかった。まずは詳しく話を聞こうか」

「分かりました」


 そう言いながら頷くアイは、最高の職人の手により作られた最高傑作のように輝いて見えるのであった。




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