(5)戦力強化(数の暴力?)

本日(2020/11/29)投稿1話目(1/2)


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 ハウスから戻ってから一週間。

 俺が戻ったことで探索の効率が上がり範囲も大幅に広がっている。

 すでにエリアボスらしき存在は幾つか見つけているが、まだ手を出さないように控えてもらっている。

 チュートリアルで倒したエリアボスは、位置的にいえば世界樹がある方角から見て北東側になる。

 その形もきれいな円形というわけではなく、にょきっと楕円形のような形で広がっているそうだ。

 世界樹の魔力を感じ取れる眷属だからこそはっきりと勢力範囲が分かるのだが、正確に地形を知れるというのは便利というほかない。

 広さ的にもさほど大きくはなく、直感的に直径五キロもないくらいの面積くらいになりそうだった。

 この調子で領域を広げていくとなると、この地域がもし北海道だとしたら全域を制覇するのにどれくらい時間がかかるか分かったものじゃない。

 

 と、ため息をつきたいところだったのだが、その状況が変わりそうな大きな変化がこの一週間の間に起こった。

 帰還直後にクインとシルクが言っていたことが現実になったのだ。

 何かといえば、子眷属たちが続々と誕生したのである。

 数でいえばそれぞれ十体ずつで、合計すると二十体の戦力強化となる。

 

 当たり前だが子眷属たちは、クインやシルクと比べると戦力は大幅に落ちる。

 それでも領域内に侵入してくる魔物には数で当たれば対処できるので、警戒に当てていた眷属を探索やエリアボス討伐に当てることができる。

 最終的には増えた子眷属たちだけでエリアボスを倒せるようになってくれれば言うことはないが、こればかりは何とも言えない。

 エリアボスの強さが一定であればいいのだが、そうではない可能性のほうが高いのだから予測できないのは仕方ないだろう。

 

 それはともかく子眷属たちである。

「――クインやシルクと全く同じ姿形になるかと思ったのだが、違うんだな」

「今更ですか?」

 子眷属たちが生まれてから既に数日が経っている。

 にもかかわらずいきなりそんなことを言い出した俺に、たまたま傍にいたシルクが笑いそうな顔になりながらもそう聞き返してきた。


「いや。最初見た時はそんなもんだろうと思っていたんだがな。何故か突然気になりだした」

「そうですか。いえ。そうですわね。それで答えですが、いずれは私たちと同じような姿になることもあるかと思いますわ」

「……いずれは?」

「簡単にいえば進化することがあるということですわね」

「ああ。やっぱり進化ってあるんだ」

「ええ。詳しくはわかっておりませんが、他生物の排除による経験値……ですか? それの入手と魔石を与えると進化するようです」

「あら。そこでも魔石は必要になるのか。益々重要になってくるな」

「そうですわね。ですから魔石の管理は重要になってきますわ」


 現在は、入手した魔石を一旦すべての俺のところに集めてから必要分だけを渡している。

 今のところ使っているのがシルクとクインの子眷属たちの生産で、今後あると予想されているのがアイの物づくり関係によるものだ。

 今回の子眷属たちの進化がそれに加わることになる。

 もしかすると他の眷属も進化に魔石が必要になるかもしれないと考えると、ますます需要は増えるはずだ。

 

 魔石の需要自体も問題になるが、今後はそれ以外に管理に関しても問題が出てくる可能性がある。

 眷属と子眷属はまだ俺自身の目の届く範囲にあるが、戦力的にもまだまだ増やすつもりなのだ。

 そうなってくるとどうしても目が届かなくなる可能性があり、必要な魔石の分配も滞ることになりかねない。

 もっともそれに関してはある程度の数をクインやシルクに渡してそれぞれの種(?)で管理してもらい、全てを俺が管理する必要もないと思っているのだが。

 

 

 子眷属たちの増加に伴って眷属の探索がしやすくなったことによる期待は、単に探索速度の増加だけにとどまらない。

 眷属たちが領域外に出かけて行って魔物を倒すと、間接的にそこのエリアボスの力が弱まる可能性がないかといことだ。

 能力自体が落ちることはなくとも、今後エリアボスが可能性は十分にある。

 それを思いついた俺は、すぐに領域外での魔物を見つけた場合はできる限り討伐しておくことを命令した。

 エリアの魔物を倒すことによってエリアボスが出張ってくる可能性もあるが、そのときは領域内に引き込んで倒してしまえばいい。

 返り討ちに合う可能性もあるが、そんなことを恐れていてはそもそも領域の拡張など望めない。

 

 そんなわけで積極的に魔物を狩るようになって、やはり魔石の入手量が増加してきた。

 今はその増えた入手分をそれぞれ分けて、クインとシルクに渡している。

 クインにしてもシルクにしても魔石単独では子眷属たちを増やすことができないようで、ある程度まとまった数を使わないと誕生してこないことが分かっている。

 蜘蛛や蜂としての性質なのか、数を絞って誕生させるということができないらしくどうしても魔石の数が必要になるとのことだ。

 それは必要経費だと分かっているので、遠慮なく使うように言ってある。

 そもそもこちらで必要な分は確保してあるので、渡した魔石をどう使おうが構わないという指示も出している。

 

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 そんなこんなで、チュートリアルが終わってから既に一か月以上が経っている。

 その間にちょこちょことハウスには戻っているが、掲示板内ではそこまで大きな出来事は起きていない。

 ハウスとこちらでは時間の流れが違うというのは大当たりで、あちらハウスの時間は一週間も経っていないのだから初めは戸惑った。

 流石に時間がもどるとかそういうことはないので、今ではそういうもんだと割り切ることができている。

 

 ハウス(掲示板)では大きな変化は起きていないが、転移世界では大きな進展があった。

 まずはクインとシルクの子眷属たちだが、数が大幅に増えてそれぞれ三十ずつになっている。

 そのうちの十体は、揃って次の段階の進化もしているそうだ。

 これだけの期間でもう? とみるか、まだまだ序の口とみるかは今後の展開で意見が分かれそうだ。

 それにクインとシルクによるとまずは質よりも量を目指しているようで、最初の十体の進化に関してはお試しだそうだ。

 とりあえず全体で百体を目指しているそうで、その後は質のことも考えるそうだ。

 クインとシルクにしてみれば、第一段階の進化はあってないようなものらしい。

 

 数による暴力はこの世界でも有効なようで、その活躍は目覚ましいの一言だ。

 その状況を間近で見て分かっているだけに、男性陣は本格的につがいを探そうかなどと言い出していた。

 クインやシルクと違って男性陣は多産系(数頭ではなく数十頭単位)ではないのだが、年が進めば進むほど子眷属や孫眷属も増えるだろうから少しは期待したい。

 流石に眷属の恋愛事情は俺の知るところではないので、好きにするといいと言っている。

 

 子眷属は眷属たちと違って普通にえさが必要になるのだが、今のところは心配する必要はないそうだ。

 というよりも、きちんとそれらのことを加味したうえで数を増やしていっているらしい。

 ここまでくるとさすがに俺の管理の範疇外になるので、それぞれに任せるしかない。

 限りある資源をめぐって同族内で争いになるのは勘弁してほしいが、範囲内に収まるのであれば自由にしてもらって構わない。

 

 というわけで比較的順調に内情を強化していったわけだが、ついに状況に変化が起こった。

「ガウガウ(主。ついに奴が動き出したようですぜ)」

「お。ついにか」

 既に監視状態に入っていたエリアボスの一体に変化が起こったようだ。




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