(4)ハウス行きの間のあれこれ
本日(2020/11/28)投稿2話目(2/2)
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本の保管場所をどうするか、一瞬頭を悩ませた俺だったがそれはすぐに解決した。
少しの間黙り込んでいた俺に、クインがどうしたのかと聞いてきたので素直に話すとアイがササッと近寄ってきてポンと自分自身の胸をたたいたのだ。
「えーと、自分に任せろってこと?」
「カクカク」
「それはいいんだけれど、どうするつもり? ってか、さすがにもう触れないわけにはいかないから触れるけれど、その手はどうしたの?」
分体生成で出てきてから少し経って気付いていたのだが、アイの手が人間のように細かい動きに対応できるようになっていた。
以前は五本の指があるといった程度だったのだが、今はきちんと指にも間接があって握り拳が作れるようになっている。
それ以外にも以前と違っている点があって、さすがに色々と聞きたくなってきた。
そんな俺の疑問に答えたのはアイではなく、細かいニュアンスで話すことができるクインだった。
「主様。こちらにいらしてもらってもよろしいですか? 後からまとめて話すつもりでしたが、先に触れてしまってもいいでしょう」
「そういうことならそうした方が良さそうだね。フラフラと言うことが変わって済まないけれど」
「構いません。私たちも黙っておくのも心苦しいですから」
「そう。それじゃあ、頼むよ」
俺からそう願い出ると、クインは「はい」と返事をしてから
そして、クインたちの歩みに合わせて訓練を兼ねて空を飛びながら百メートル進んだ場所に、今までなかったものがあることに気付いて驚くことになった。
「え? 建物? いつの間に!?」
「実は以前からアイがコツコツと用意していたようですが、主様がいないタイミングに一気に進めたようです」
「はえー。それはビックリ。こんなものを作れるようになっていたんだ」
その建物は、小さな小屋でお世辞にも『立派な』とは言いがたいが、それでも今まで木々をはじめとした大自然しかなかったことを考えると大きな変化だ。
「それにしても、何故こんな場所に? 隠しておきたかったというわけじゃないだろう?」
「それは勿論。なんでも練習用のつもりで作っていたので、最初は見せるつもりはなかったそうです。でも皆が雨よけにちょうどいいと使い始めたので、そのまま残しておくことになりました」
「そうか。確かに雨よけは必要だったな」
「ええ。それにもう一つ理由があって、御体に影響がないようにするつもりだったそうです」
「本体に? やっぱり影響あるのかな?」
「あるでしょう。建物を建てるために切ってしまうことを考えると、あまり太い根が張っている場所には立てないほうがよろしいかと思います」
「あー。それはそうか。まあ、その辺の匙加減は任せるよ」
ただやみくもにこの場所を選んだのではなく、それなり以上にきちんとした理由があったことは理解できた。
特に文句をつける理由もないので、今後も含めて許可を出すことにする。
「とにかく本が保管できる場所があってよかった。これから他にも持ってくるものはありそうだから、ここに保管することにしようか」
「畏まりました。ただ、アイがやる気になっているようですからこの後も立派な建物は増えそうですが」
「カク!」
「だねえ。まあ、それはいいよ。経験を積めばそれだけいいものを作れるようになるんだろうし」
「はい。それからこの建物ができてから分かったのですが、私やシルクにもいい影響があるようです」
「え? 雨風を凌げる以外に?」
「そうです。具体的にいえば、以前から試していた我が子たちを作る場合なのですが、こうした建物があった方がいいことが分かりました」
「あら。巣とか作っているのかと思ってた」
「勿論それも作っております。ただこれは恐らくですが、こうした建物でふ化させる場合と微妙に違った種ができるようです」
「わたくしも同じですわ」
「へー。生まれる前からそんなことまでわかるんだ」
「あくまでも感覚的なものですが」
母親(?)としての勘のようなものかと納得していると、シルクからも同じだという言葉が聞けた。
建物の中で生まれる子たちに違いが出てくる理由は不明だが、彼女たちがそうだと言ってくることは間違いはないのだろう。
「――あれ? そうなると、以前はあまりうまくいっていないと言っていたけれど、上手くいきそうな気配があるのかな?」
「そうですわ。この一週間で色々と試すこともできましたから、無事に第一陣は生まれてきそうです。あと数日といったところですわね」
「私も同じです。あと建物の中で育てている子たちは、成長も早いようですね」
「それはまた。建物の恩恵は大きそうだな。いっそのこと建物の数を増やしてみるか?」
「それぞれ個別にあったほうがいいとは思いますが、それ以上はどうでしょうか?」
「まだそこまで多くの子を作れないようですから、広さはともかく数はまだ必要ないと思いますわ」
「そうか。いずれにしてもアイと相談しながら作るように。増やすのは自由にしてもらっていいから」
「「「畏まりました(カクカク)」」」
その後はついでだからということで、建物の中を案内してもらって現在育成中の子眷属(眷属の眷属)を見せてもらった。
ある意味昆虫の幼虫を見ることになるわけで、もしかしたら以前の感覚で嫌悪感なんかもわいてくるかもと内心ビクビクしていたがそんなことはなかった。
見た目は卵の中に蜂や蜘蛛がいて微妙に動いているのだが、どういうわけかごく普通に見ることができた。
子眷属だからなのか、世界樹というものになったからなのかはわからないが、別に悪いことではないのでありがたくその恩恵を受け取っておくことにした。
いずれにしても子眷属が生まれてくれれば今後できることも増えてくるはずなので、その成長を楽しみにしておく。
そんなことを話している間に、俺が帰ってきたことが気配で感じ取れたのか、男性組が探索や狩りを中断して戻ってきた。
これでようやく本格的にいなかった間の話が聞けるようになったのだが、基本的には想像を超えるような出来事はなかった。
探索については増えた領域の調査を中心的に行って、それ以上は様子見程度にとどめていたようだ。
それでも以前のエリアボスと同じような存在は幾つか見つけることができたそうだ。
さすがにそれを討伐するように言い出す眷属はいなかったようで、俺の判断待ちとなっている。
それからこれは全眷属に共通することなのだが、エリアボスを倒してから戦闘能力が大幅に上がっているそうだ。
エリアボスを倒したことで経験値が大量に入ったお陰でレベルアップでもしたのかと思うが、眷属のステータスを見ることはできないので実際のところはわからない。
ただそんなことで眷属たちが嘘を吐くことはないので、能力が上がっていることは確実だろう。
できればエリアボスの討伐によって得た経験値がどういう風に振り分けられてどういう成長をしたのかまで確認したいが、ないものねだりをしても仕方ないだろう。
ちなみに眷属たちの能力が上がっている確実な証拠として、これまで以上に多くの魔石が稼げていることがあげられる。
特に新エリアから得られる魔石は、今までのと比べるとより上位の魔石が得られている。
それだけ強い魔物が出てきているという証拠だが、それを難なく倒せているということでもある。
眷属たちの能力が上がるということは、これまで以上に探索が進むということなので今後に期待しておきたい。
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