(7)新しいスキル
本日(2020/11/23)投稿3話目(3/3)
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俺自身が分体生成に実験を行っている間に、眷属たちは地道に周辺環境の調査を進めていた。
結果わかったことは、少なくとも半径十キロ圏内には人里らしきものは見当たらないということだった。
まだまだ短い期間なので、くまなく探せているかといえばそうではないのだが、それでも眷属たちの視力を含めた感覚は並外れたものを持っている。
その感覚で見つけられていないということは、よほどの小さな集落でもない限りはないといってもいいはずだ。
小さな集落がどのくらいの規模かといえば、家が十軒程度まとまって建っていれば見つけられるらしい。
オークのような魔物が出てくるこの世界で、その程度の建物も築けないようであればそもそも集落として成り立たないはずなので、無いと断言してもいいと判断した。
勿論、個人の強者が家を建てて住んでいる可能性がないわけではないが、そこまで追及するといくら時間があっても足りないので気にしないことにした。
それにそれほどの強者であれば、そもそも眷属たちの動きに気づいていないはずがないので、何らかのアクションがあるはずである。
こちらの様子をうかがっていることも考えられるが、それほど慎重な相手であればそもそも見つけること自体が難しいだろう。
となればこちらの戦力を整えてからということになるので、どちらにしても今は触れるべき相手ではないということにもなる。
ちなみに地形が判明した箇所はいったん俺のところに報告が来て、そのままシルクへと伝えられている。
何故シルクなのかといえば、環境調査を始めてから数日たってから判明したことなのだが、種族的に出せる糸を使って大雑把な地図もどきがかけるとわかったからである。
当然ながら紙などがないため当初は地面に書いていたりしたのだが、さすがにそれだけだと限界が来る。
雨が降ったら簡単に消えてしまうし、記録を書き留めるための紙もなく、記憶を頼りにするのも難しい。
そんなことを眷属たちの前でこぼすと、当たり前のようにシルクが「私が作ってみますわ」と申し出てきたのだ。
そのシルクが作った蜘蛛の糸でできたタペストリーのような完成品を見て、是非とも続けてくれるようにと頼み込んだのである。
調査担当の記憶を頼りに作ったものなのでそこまで正確な地図ではないが、それでも大本(世界樹)が動けない俺にとってはとても貴重な道具の一つとなっている。
そんなある日、シルク手製の地図を前にしながら俺は横にルフを従えながら(?)会話をしていた。
「――うーん。大分いい感じで地図も埋まってきたなあ」
「バフ」
「範囲がまだ狭い? そうかもしれないけれどねえ。一気に広げすぎても管理が難しいんじゃない?」
「ハフ」
「確かに君たちの力があればまだまだ余裕がありそうだけれどね」
「フンス!」
「ハハ。うん。頑張ってくれているのはわかっているから、あまり頑張りすぎないようにね。――って、クインどうしたの?」
「い、いえ。その……主様はいつの間にルフと会話ができるようになったのでしょうか?」
「え、そんなの……ってホントだ!?」
「気づいておられなかったのですか」
クインから指摘を受けるまでその事実に気づいていなかった俺は、びっくりしてルフの様子を窺ってしまった。
そのルフは、クインと同じような雰囲気で「気づいていなかったのか」という顔になっている。
どうやら何度も顔を合わせているうちに、他の眷属の仲介なしに会話ができるようになっていたらしい。
「いや。本当に言われるまで気づいていなかった。……というか待てよ? もしかするとスキルも生えていたりするのか?」
今朝見たときには以前と全く変わらずに、二つのスキルだけが確認できた。
話せない眷属と会話をする能力が突然ついたとするのであれば、スキルが生えてきたからと考えるのが一番自然だろう。
そんな考えのもとステータスを確認してみると――、
「あ。やっぱりあったわ。『意思疎通』だって」
「スキルを取得できたということは、ルフ以外にも話ができるようになったと考えてもよろしいのでしょうか?」
「うーん、どうだろう? それは確認してみないとわからないけれど、たぶんそうなんじゃないかな?」
「では、早速確認してみましょう」
何故か食い気味にそう提案してきたクインに戸惑いつつ、俺はどうにか「ああ」と返事をした。
クインに促されつつ確認した結果、無事に全員の眷属と会話をすることができることが判明した。
勿論会話ができるといっても普通の空気を媒介しての音で聞こえる会話ではなく、なんとなく相手の言いたいことが分かるといった能力だった。
具体的にいえば、俺から話しかけてそれに対する回答が分かるといった感じで、眷属側から話しかけてきたときにはいまいち言っていることが分からなかったこともある。
これは意思疎通といっても相手の考えを完全に読んでいるわけではなく、自分が発した言葉をもとに表情だったり雰囲気の違いから言葉になるようなものを読み取っているのだと解釈することにした。
いずれにしても『意思疎通』というスキルを覚えられた恩恵は大きかった。
一番そのことを実感できたのは、これまで会話ができなかった眷属たちにちょっとした頼みごとをしたりその答えを得るときに、わざわざクインやシルクを呼ばなくて済むようになったことだ。
これまではわざわざ二人を呼び出したり、常に傍にいてもらうようにしてもらうことで会話をしてきたのだ。
その手間が少なくなっただけでも大きな成果といえる。
しかも『意思疎通』のスキルを覚えたことで得た恩恵は、それだけではなかった。
これまで通訳にあてていた時間を別のことにあてたいとクインが言い出してきたのだ。
「別の事って?」
「私自身の眷属――といっても主様のようなものではなく同族の子たちを産もうと思います」
「子を産むって……クインが!?」
「あっ。産むといっても別に実際に産卵をするというわけではないですよ? あくまでも魔力的なやり方で、です。主様にわかりやすく言えばスキルを使ってと言えばいいでしょうか」
「あ~、なるほど。そういうことか」
「はい。それに、私自身の眷属が増えれば、それだけ探索もしやすくなると思います。恐らく今できる眷属は普通にいるような蜂になるでしょうから」
「ああ。そこは蜂になるんだ」
クインの場合は背中にある羽が完全にそれだが、それ以外はほとんど蜂としての特徴は残っていない。
そのクインが産む……というか作る眷属なので似たような特徴になることもあり得ると考えていたのだ。
いずれにしてもクインが言う通りに探索の効率が上がるのであれば、是非ともこちらからお願いしたいところだ。
「そういうことならわかったよ。というかむしろお願い」
「許可をいただきありがとうございます。……それで少し言いにくいのですが……」
「うん? 何かほかにあった?」
「できれば魔物を倒した時に得ることができる魔石を分けていただけないでしょうか? どうやらスキルの発現に必要なようです」
「あら。今まではわからなかったの? 言ってくれていれば最初から分けていたのに」
「はい。そもそも眷属を産めるとわかったのも先日のことです」
「なるほどね。そういうことならちょっと待って……って、おや?」
「どうされました?」
「うーん。まあいいや、とりあえず待っていて」
突然含みを持たせた言い方をする俺に、クインは首をかしげつつも「ハイ」と頷き返してきた。
一旦本体に戻ってから注文の「魔石」を取ってきた俺は、すぐにそれをクインに手渡した。
「ありがとうございます。――ですが、この魔石は今まで見たことが無いもののようですが……」
「お。流石。すぐに気づいたか。うん。クインの認識は間違っていないよ。どうやらクインの言葉がきっかけになったみたいで新しいスキルを覚えられたみたいだ」
「新しいスキル、ですか」
「うん。その名も『魔石生成』だって。何ともタイミングがいいことだね」
「それは…………この場合は下手なことを考えるよりも、素直に喜んでおいたほうがよさそうですね」
「そうだろうね。それで? その魔石で大丈夫そう?」
「勿論です! 他の魔石のどれよりもいい子たちが生まれてきそうです!」
その言葉は多分に俺への敬愛が含まれてのものだろうが、それでもうれしかったのには間違いないので素直に「ありがとう」とだけ返しておいた。
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本日の投稿はこれでおしまいです。
明日からしばらくは一日二本(8時、20時)の投稿になります。
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