プレコの夜

霜月穂

第1話 クリニックにて

「・・・判断は独善的、他者への共感性は極めて低い。人がゴミだと判断する情報も全て拾う。FIQ(総合IQ)は130、だけどバランスが悪すぎるね。さらにいうなら、君の世界には白と黒しかない、大多数の人と見えているものも違う。どうしたらいいんだろうね。」

ロマンスグレーで、50代くらい?顔の整った優しそうな精神科医が言うと、えげつない発言でもまろやかに聞こえる。

しかし、どうにかしてくれるのがお医者様なんじゃないのかしら、と心理検査の結果を聞きながら、医者の後ろにある窓の外をぼんやりと眺める。


緑はどこまでも濃く、日差しが容赦なく照りつける。極彩色の花、あれは何という花だろう、夏の押し売りのような景色にも、何の感慨も湧かなかった。平安貴族なら、和歌の一つでも歌いたくなるのだろうか。


「じゃあ、いつもと同じ薬を出しておくからね」仕事用の笑顔を向ける医者に、同じく患者らしい笑顔を返す。処方箋さえ貰えればいい。睡眠薬の処方箋を手にクリニックを出ると、窓に大人しく嵌っていた夏の景色がどっと私に押し寄せた。葉が反射する光は目に痛く、日光は肌をちりちりと刺してくる。アスファルトの空気は揺らいで逃げ水まで出ているじゃないか。近所だから、と徒歩で来たことを激しく後悔する。背中にじっとりと滲む汗に不快感を抱きながらマンションへと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る