別世界のカーシャ

茶猫

清書屋を始めましたわよ

第1話 飛ばされて東京

 カーシャは異世界の警察機構に所属している優秀な黒髪の小柄な女戦士。

 現在の使命は、オルドラ伯爵の隣国侵略計画を阻止することだった。


 オルドラ伯爵の屋敷へ潜入に成功したが、屋敷で壁にもたれ先行した二人の様子を確認するカーシャ。

「まさか二人とも捕まるなんて、しょうがないですわね」

 少しため息をついて一旦退却し建物を出た。


「とりあえず、このカーシャが二人を助けますわ」

 カーシャは潜入するために使った馬車にある大きな精霊石を操作し始める。


「この精霊石は兵器として開発されたものですのよ。

 今回のオルドラ伯爵の隣国侵略計画を阻止するには必須のアイテムですわ。

 覚悟してくださいませ」


 精霊石をセットするのだが、どうもおかしなセットの仕方だった?

「ふふふふふ、精霊石と言ってもエネルギーの塊ですから使い方によっては色々な使い方が出来るという訳ですわ」


 カーシャは馬車の後方に精霊石を付けた、そして魔法陣を精霊石に刻み機動術式を入れた。


 精霊石は急に動作し始めた。

 馬車の後方が光り始め、そして馬車が震えうなり出す。

「キィーイーイィーイイーン」

 やがて馬車が少しずつ浮き上がる。


「発進しますわ!!」

 術式が完全に起動すると馬車は浮かんだまま高速で一気にオルドラ伯爵の屋敷に突っ込んで行った。


「ドドドドッ、ドドド、ドスーン」

 馬車は屋敷の東側の壁を壊し突っ込んで行った。

 カーシャは、そのままオルドラ伯爵の屋敷中を破壊しながら特攻していく。

 やがて馬車の屋根や前方部分は壊れて馬車の中がむき出しになって来る。


「後もう少しですわ、もう少し持ちこたえてくださいませ……」

 そして壁を打ち破る続け大きな魔石にある部屋に着いた。


「ここですわね……」

 カーシャは術式を消し精霊石の力を止め馬車を着陸(というか墜落)させた。

 馬車は衝撃で小破した。

「4国支配の薬品が地下水源に流される前、結界を解除して外に居る援軍を迎え入れるのですわ、問題は結界を壊すには、この魔石を壊さなければならないことですわ」


 カーシャは精霊石の制御をしている魔法陣を変更し術式自体を変えた。

 結果精霊石が自己誘発し指向性爆発するような術式となった。


「でわ、みなさま申し訳ございませんが、あなた方の野望もおしまいでございますわ!!」

 カーシャが術式を起動すると制御を失った精霊石は力の暴走が始まり、それと同時に精霊石から警告が発せられた。


『精霊石の安定が保てません間もなく暴走致します

 直ぐに避難してください

 避難してください

 カウントダウン開始』


『10』

 部屋の中に大きな馬車が飛び込んできたため敵も大勢やって来た。

 魔獣・魔物や悪霊、ゴーレム、魔法使いと相手も必死の抵抗だった!!

「まあ沢山のお客様ですこと、でもここは退散ですわ……」


『9』

「皆様、お相手は出来ませんことよ、少し開けてくださいませ……」

 そう言いながら二本の聖水につけた楔ナイフ付きチェーンを出し敵を薙ぎ払うカーシャ。

 

『8』、『7』

「困りましたわね、数が多すぎますわ、人気者は辛いですわね……」

「あらいやですわね、精霊石は壊さないでくださいな……」

 少し離れたが、急いで馬車に戻り精霊石を守る体制になるカーシャ


『6』、『5』

「時間がございませんわね……」

 焦りの表情で敵に言い放つ。

「みなさまもお逃げにならないと巻き添えになりますわよ」


『4』、『3』

 逃げる素振りすら見せない敵、その敵は無尽蔵に沸いて来るかのように出てきた。

「人でないから命を無駄になさるんですね」

「なんか時間切れのようですわ、来る前に残したケーキ食べておくのでしたわね……」


『2』

「あら、いけませんわね、そういう話はフラグが立つとかいう話ですものね、止めておきましょう」


『1』

「しょうがありませんわね、ここまでですわ!!私の分までみなさん頑張ってくださいませ!!」


 聞こえる筈もない仲間へのメッセージのつもりだろうか、カーシャは大きな声で叫んだ。


 精霊石は歪みはじめ崩壊が始まる。

「ドドドッドッ~ン、ズシーン……」


 精霊石はカーシャの計算通りの方向に一気にエネルギーを放出した。

 その先には結界を張っている魔石が有った、魔石は精霊石が崩壊するエネルギーを受けて同じように崩壊していった、もちろん張っていた結界は消滅する。


 精霊石の周りは魔石の崩壊エネルギーも加わり空間自体が歪み始めた。

 最終的に魔石と精霊石はその後大爆発を起こした。


「ゴゴゴゴ、ド、ド、ドッ、ドカ~ン!!」


 カーシャの目に映るのは白煙と閃光であり、すべては白い光の中に消えて行った。

 その後、闇と静けさが支配する。


  ◆      ◆


 草の匂いがする。

 一面草が生えているのだろう。


 草の葉っぱの上の露がほっぺに落ちた。


「冷たいですわ……」


 上半身を起こすカーシャ

「あれ、わたし生きておりますわ?」


 だが立ち上がろうとすると足に力が入らない……

「うっ、足が痛いですわ」


「捻挫でしょうか?痛いですわ。でも痛いということは間違いなく生きているということですわね」

 よろよろと立ち上がったカーシャは周りを見渡した。

「ここは、どこでしょうか?」


 河川敷であることは分かるが、今まで見たことも無い魔法で光る街灯があった。

 それより驚くのは馬が引いているわけでもないのに高速で走る四角い馬車…


 そこへ男が歩いてきたので、何処まで飛ばされたのか知りたくて土地の名前を聞いてみた。

「申し訳ございません、ここは何処でございますか?・・・」


「おねえさんは酔っぱらってるのかい?ここは東京だよ……」


「東京?そんな地名は聞いたこともありませんですわ?」


「はぁ?東京を知らない?大丈夫かい?子供でも知っている日本の首都だよ、それとも記憶が飛んでしまうほど酔っぱらってるのか?」

「まぁ、しょうがないね、こんなに、お月さんが明るい綺麗な夜だからのみすぎたのかな?」


「お月さんってなんでございますか?」


 空を見上げたカーシャは驚いた、そこには見慣れた衛星のルーンは無く、ちょっと小ぶりの衛星が輝いていた。


「ルーンはどこでしょうか……あれが、お月さまなのでしょうか?」

 そのとき、カーシャは頭に浮かんだ言葉があった。

「別世界、異次元、異世界、別宇宙……??」


 少し焦りの表情に変わって行くカーシャ。

「えっ?私は別の世界に飛ばされてしまったのでしょうか?」


 だが心配は要らない、気を取り直すのが早いのが取り柄のカーシャは直ぐに気持ちを切り替えた。


「あれからどのくらいの時間が経ったのでございましょうか?

 そう言えばお腹もすいて来ておりますわ」


 普段するように魔道具である物入から干し肉を出して食べようとした。

「少しスープで戻すとなかなか美味なのですわ、ですのでこれとスープを入れて温めますわ……」


 火魔法を使おうとするカーシャ、だが火が着火しない。

「火魔法が使えませんわ……、そんな馬鹿なことがあるのでしょうか?……」

 焦りの顔に変わって行くカーシャ。

「えぇ!!、本当に魔法が使えませんわ……」

「いや、ちょっと待てくださいませ、空間収納の物入はちゃんと動いますわ、魔法も使えるはずではありませんか?」


 いろいろ試行するカーシャ。

「・・・・・??」

 本当にいろいろ試行するカーシャ。

「・・・・・!?」


「えっ、え~~~~ぇっ、どうなっておりますの~~~」

 試行錯誤するが魔法が使えない。


「きっと別世界に飛ばされた弾みで魔法が一時的に使えなくなっているだけですわ」

 そう思って通り掛り人が来たので、魔法で食べ物を温めてもらおうしたが…

『酔っ払いか?魔法なんかできるわけ無いだろう』と一喝された。


(この世界魔法が使えませんの?)

 声も出なくなった驚くカーシャ。


 少しすると現状分析を始めた。

「さっき魔道具である物入は使えたましたわ、だから精霊石の精霊力は使えるということですわ」


 物入は精霊石で維持されている魔道具だった、さっき物を出せたということは、精霊石の能力は通常通り使えると言うことになる。


「信じられませんわ、魔法が使えないと生きて行けないはずではありませんか??

 どうやってこの東京とか言う世界でみなさまは生きているのでしょうか?」


 カーシャにとっては魔法が使えないことは前の世界での常識として「生きて行けない」と同意であった。


 途方に暮れていてもしょうがないので回復薬を使って足の捻挫を治すカーシャ。

「ありがたいですわ、異世界でも回復薬は使えるようですわ、ただし残りは少ないですけども……」


 カーシャの頭に浮かんだのは、魔法の代わりなるものを探さなければ生きて行けないと言うことだった。

 そしてカーシャが倒れていた周りに自分と一緒に吹き飛んだ精霊石の破片が散らばっていることに気が付くと急いで物入に精霊石を集めた。


 結局カーシャが、その時使えるのは精霊石に封じられた精霊力だけだった。

 それも拾い集めた破片の数だけの限定的なものだった。


 カーシャは不安で一杯でルーンではなく”お月さん”とか言うものに叫んだ。

『不安がいっぱいですわ、これから私はどうなるのでございましょうか?……』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る