ダブルサイドコイン

椰子草 奈那史

1 前兆

「おい、タクー、お前この間■■町のエオンモールにいなかった?」

 9月のある日の昼休み、クラスメイトの溝口が話しかけてきた。

「■■町のエオン? そんなとこもう一年くらい行ってないよ」

「えー、あれ絶対ェタクだったって」

「いや、しらないよ、絶対違うし」


 最初は、こんな他愛のない話が始まりだった。


「タクさー、昨日◆◆駅の前で何してたの?」

 数日後、今度は別のクラスメイトが話しかけてきた。

「俺さー、あそこの駅前の予備校に通ってるんだけど、タクもだっけ?」

「いや、僕は、そんなとこ行ってないけど……」

「んー? おかしーなー、タクだとばっかり思ったんだけど」

「……」


 それでも、その時はまだ、ただの偶然だと思っていた。


「拓海ー、この間、●●のマスドの前で声かけたのに無視すんなよ。しかも追いかけたらいつの間にかどっか行っちまうし」

「相田、3日前の夜、お前を▲▲町の近くで見たって人がいるぞ。あの辺は高校生が行くような所じゃない。行動には気をつけろよ」

「タク、この間★★んとこで服見てなかった? 買いに行くなら誘えよー」

「相田君、※※座の前で見かけたけど、意外だね。ああいう名画系好きなんだ」



 僕は、相田拓海あいだ たくみ、17歳。私立南城高校に通う二年生だ。

 最近、僕の周りでは不可解なことが起こっている。

 クラスメイトや僕を知る人達が、この町とその周辺で僕を見かけたというのだが、そのどれもが僕には心当たりがないものだった。

 中には、僕が学校で委員会活動をしている時間に5つも離れた駅前にいた、というものもあった。

 最初は偶然だと思い、次に何者かの悪意……いわゆるイジメの類を疑ってみたものの、友達とは普通に遊びに行っているし、ラインもこれまで通りで特に変わりはない。


 そんな時だった。

 クラスメイトの1人が、また心当たりがない場所で僕を見かけたと言ってきたのだった。

 これまでは適当にはぐらかすような態度で対応することも多かったのだが、その時はついムキになって彼に詰め寄ってしまった。

「それはほんとに僕か!? 見かけたというだけで直接話したわけじゃないだろ!」

 だが、そのクラスメイトは困惑した様子で言った。

「いや、話したよ。今度の学園祭、決まったお化け係、頑張ろうなって……」

 それは、確かにその日ホームルームで決まった僕の役割だった。

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