第22話 ピース・下
「一課は、昼からサキさんの任意の取り調べを始めるそうです。昨日の道頓堀交番では、店に出るとサキさんが嫌がって事情聴取出来なかったみたいで。ですので、昨夜遅くからエマさんの部屋の家宅捜索しているようです。そして他の従業員にも話を聞くため、『セシリア』は今日休みになるそうです」
「サキさんとエマさんをアフターに連れて行った客は?」
サキ以外の、エマの最後の姿を見たはずの目撃者だ。
「黒岩建設の営業部の
笹部はそれらの報告を、出勤してすぐに宮城班にすぐ返事する様に連絡していた。宮城班の若手の渡辺という女性が連絡係になった。朝篠原がいつものように珈琲を淹れ終わる頃には、その報告が笹部のパソコンに届いていた。
その時、櫻子のスマホが鳴った。電話ではなく、SNSに画像が送られてきていた。友人登録をしていない人物からで、MANAMIと表示されたそれに心当たりがない。画像には、少し印象が違って見えるサキらしき人物と同じ年頃の若い男が映っていた。メンソールの煙草を手にしたサキらしき人物と、日焼けした体格のいい少年が笑顔を向けている。胸元の傷跡が、少し痛々しげだった。
「……?」
不思議そうに眉を寄せる櫻子の様子に、篠原と笹部も彼女の様子を窺う。
「ボス?」
「きゃ!」
笹部が声をかけたと同時に、SNSの通話通知が鳴った。慌てた櫻子は落としそうになるそれを慌てて持ち直して、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「あ、刑事さん? 私! 『セシリア』のアイリだよ!」
電話相手は、昨日『セシリア』で会ったアイリの声だ。櫻子は少しほっとして、椅子の背凭れに背中を預けた。
「誰かと思って、びっくりしたわ。どうかしたの? というか、あなたの本名なの? マナミって」
「あ、ごめんね? 仕事用の携帯じゃない方から、昨日貰った名刺に書いてた番号に連絡しちゃった。そう、あたしの本名は
アイリは、どこか慌てているようだった。
「ええ、サキさんと若い男の人が映ってる写真よね? 化粧もお店のものより、薄いわね」
「良かったー、ヤスさんに言われてたから。刑事さんに、渡して欲しいって」
「安井さんに?」
櫻子は、通話をスピーカーに変えて机にスマホを置いた。篠原と笹部は黙ってそれを聞いている。
「サキがさ、お昼から警察に行く事になってるんよ。昨日店終わった後それ聞いたから、私達も付いて行こうかってジュリと聞いたら、一人でいいって断られてさー。店は今日お休みになったんやけど、事情聴取? っていうのを私達もするから店に来いって店長から連絡きたんよ。準備してたら、ヤスさんからさっき電話が来てん」
「あなた、安井さんと番号交換しているの?」
アイリの話はコロコロ変わる。櫻子は飛ぶ話の内容に、少し混乱していた。
「うん、昔少しやんちゃしてた時にヤスさんが『何かあったらかけてこい』って教えてくれてん。ヤスさんの番号知ってる子は、多いよ」
「この写真、何か大事なの? 安井さんは何か言ってなかった?」
「それねー、多分コウキやで。刑事さん探してたでしょ?」
アイリの言葉に、櫻子は思わず立ち上がった。
「探してるわ、コウキさんを。でも、この写真少し古くない? サキさんの印象が少し違って見えるから……」
化粧以外には――例えば、顎の辺りや鼻。少し、男性的な骨格に見えるが、そう言えばサキも美容整形に行っている。そんな話を昨日聞いたことを、ようやく思い出す。
「ヤスさんに、コウキの顔見た事ないって言われてさ。なんかサキとなんか仲いいよーって話の流れで、急にヤスさんからその写真送られてきてん。「これコウキとちゃうか?」って。私もコウキあんまり覚えてなかったけど、写真見たらやっと思い出してさ。で、刑事さんの番号知ってるんやったら、これを送って欲しいって言ってたよ」
「サキさんとコウキが、繋がってる……?」
櫻子は、思考を巡らせる。しかし、決定的な証拠は今は何もない。
「多分、サキが『セシリア』にコウキ連れてきたと思う」
アイリの言葉に、三人は息を飲んだ。やっと、消えた黒服の姿が分かるかもしれない。
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