第440話:ゴリーブなギャルン。


「……へぇ」


 キララは感心した、というよりもどこか不愉快そうに呟く。


「原理は分からないけれどあの女は気をつけた方がよさそうね」


 俺からはその横顔しか見えないが、やはり表情の変化は見られない。

 やはり違和感がある。いつものキララではないような……。

 前魔王の力を取り込んだ事が影響しているのだろうか?


 とにかく、これで一応望みは繋がったが……ここからギャルンがまだ出てくるかどうかで状況は変わってくる。


 あいつがほぼ無限復活できるような状態だと非常に面倒だし、あの二人だけで俺やネコ、ゲオルを救出してもらわなきゃならない。


 最悪の場合俺の力だけでも回復出来れば他の二人を即助け出す事も可能かもしれないが……。


 どちらにせよ二人にかかる負担が大きい。


 このままここで見ているしかないなんて情けないにも程がある。


『私もなんとか無効化できる方法を探ってるんだけど……これは相当複雑な術式が織り込まれてるわね。それこそ君が解呪するならなんとかなるんだろうけれど……』


 クソが。当の俺があっさり捕まってたんじゃ目も当てられない。


『見てミナト君、シヴァルドの奴意外とスムーズにここまで辿り着きそうよ?』


 ママドラが言うように、投影されているシルヴァ達はギャーギャー騒ぎながらも順調にここへと歩を進めていた。


 ギャーギャー騒いでいるのはリリィだけだけれど。


 暗いとか怖いとかおばけが居たとかそんな類の事を言いながら涙目でシルヴァに抱き着いている。


 シルヴァはたまに足を止めてそんなリリィの頭を撫でてやったりしていて、こんな非常事態にイチャイチャしちゃしやがって全く腹の立つ奴等だ。


「全く腹の立つ奴等だ……」


 気が付けば、キララの前にギャルンが音も無く現れていた。


 やっぱりギャルンの野郎は生きていた。

 或いはあの身体は滅びたが別の身体を使っている。


 それはそうとこいつとまったく同じ感想を抱いてしまった事がなんだか悔しい。


 そして不思議なのはギャルンが現れて、キララに一切話しかけないのと、キララもそれに対してなにも言わない事だ。


 お互い話す事など何もない、という雰囲気……むしろ無関心? そんな感じさえする。


『そろそろシヴァルド達が到着するわ』


 彼等の道中にも魔物は一切出てこなかった。

 やはりこの城にはギャルンとキララ以外は誰もいないらしい。


「ひっ、さっきの奴がいますよーっ!?」


「僕の後ろに下がっていろ」


 とうとうシルヴァとリリィがここまで辿り着いた。

 ギャルンを見てもシルヴァは驚いていない。既にこの可能性を考慮していたんだろう。


「お前は一体何度殺せばこの世から消えうせるんだ? まるでゴリーブのように何度も現れていい加減うんざりだよ」


 リリィを庇うように一歩前に出ながらシルヴァが身構える。


「ふふふ、ゴリーブですか……あんな下等な魔物と一緒にされるのは腹立たしいですが、そういうのが希望ならばそれ相応の対応というのをさせてもらいますよ」


 ギャルンは腕を大きく広げ、大仰なポーズを取る。


「ゲオル、アルマ、そしてミナト氏のイルヴァリースとカオスリーヴァ……既に残っているのは貴方達だけですよ」


「まったくミナトよ……いったい何をやっているのだ……」


 シルヴァは怒っているような、呆れ果てたような視線をこちらに投げてくる。

 本当に面目ない。


「さぁ、貴方達もすぐにああなります。最後の戦いを始めようじゃありませんか」


「リリィ、ギャルンもそうだがその後ろに控えている魔王にも気を配っておけ!」


「わ、わわわ分かりましたーっ!」


「ふふ、この戦いは私……ギャルンと貴方達との闘いです。邪魔は入りませんよ」


 こいつの言っている事が本当ならばまだチャンスはある。

 もう一度ギャルンを始末し、どさくさに紛れて俺達を解放出来れば……!


「ふん、お前の言う事を信じる訳ではないが、そうである事を願うよ」


 シルヴァはおもむろにギャルンに炎魔法を放ち、ギャルンはそれを転移でかわす。

 事前に打ち合わせていたのか、ギャルンがリリィを狙ってくるであろうと分かっていたように二人は立ち回り、リリィは自分の背後によく分からない魔法を展開した。


「ぬっ!?」


 ギャルンがその場に現れるのとほぼ同時。

 完全にあてずっぽうな魔法発動だったが、それがドンピシャで当たっていた。

 しかもこれは……。


「ギャルンよ。貴様がどういう仕組みで復活してくるのかは分からないが……今回はそこに閉じ込めさせてもらったよ」


 透明なクリスタルの多面体サイコロのような結界が張られ、ギャルンはその中に閉じ込められていた。


 やるじゃねぇか二人とも!


「その結界は全てを遮断するように作らせている。ギャルン、お前の身体も、精神もそこからは逃げられぬよ」


 やはりシルヴァは対策を練ってきていた。

 ギャルンが複数の身体を持っていたとしても、精神体がそこから逃げられない以上これで終わりだ。


 シルヴァが吹き込んだ通りの魔法を即座に発動できるリリィも大概どうかしているが、この二人なら或いはキララも討ち取れるんじゃないか?


 とりあえず出来ればその前に俺の拘束をどうにかしてほしい所ではある。


 俺がシルヴァとリリィの二人組に希望を見出した直後だった。


 俺の考えは甘かったのだと思い知らされる事になる。





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