第426話:いろんな意味の緊張感。


 翌日の夕方。


 既にシルヴァが各街を回り、いつでも次元の穴を開けられるようにセッティングをしてある。


「みんなも昨日のやつは見ただろう? 突入組は俺、シルヴァ、ネコ、ゲオル、リリィの五人だ」


「待ってくれミナト殿、さすがに最終決戦ともなれば私も……」


「そうだよミナト! 私だって役に立てるよ!」


「うむ、アリアやレナの言う通りじゃ。儂らを置いて行くなんてあり得んじゃろ」


 アリア、レナ、ラムが一斉に抗議をしてくるが、これに関しては譲る気は無い。

 既にシルヴァと話しあって決めた事だ。


「みんなには別の仕事がある。悪いがこっちは六竜組に任せてくれないか?」


「ミナトの言う通りだ。見ての通り今この街の周りすら魔物に取り囲まれている。現状襲ってくるような事は無いが、僕らが出発した後もそのまま、なんて事は無いだろう」


 絶対ギャルンの事だから俺達がいなくなれば一斉に魔物を動かすはずだ。

 手薄になった時こそ一気に勝負をつけようとしてくる。

 そうでなくとも、万が一にも魔王城の方が囮だった場合でも対応できるようにこちらの戦力を残しておく必要があった。


「俺達が居ない間各人員への連絡、指示はラムちゃんにやってもらいたい」


「ぐぬぬ……無理矢理にでもついて行こうかと思っとったが……それは重役じゃのう」


 悔しそうにしながらもラムがそれを受け入れた事で、アリアもレナも納得してくれたようだ。


「それぞれの街に簡易ではあるが転移術式を施してある。必要な人員をそちらに送る際に使用してくれたまえ」


 シルヴァの奴そんな事までしてたのか。これである程度は対応できるだろう。


「しかしあくまでも簡易の、だからな。数回使えば使用不可になってしまうだろう。使用できるのは各二回程度だと思ってくれていい」


「ふむ……そうなると多人数を送り込むよりも強力な人員を送り、そこから別の場所へ移動してもらう際に使用した方が効率はよいか……」


 ラムが顎に手を当てながらふむふむと頭の中でプランを考え始めた。

 やはり頼りになるお嬢様だよラムは。


「まぱまぱ、私は……?」


 不安そうに俺の袖を引っ張るイリスの頭を優しく撫でる。


「お前はこっち側の防衛の要だからな。この世界を頼むよ」


「……うん、分った」


 納得はしていないようだが自分の役目を放棄してまで我を通そうとはしなかった。

 いい子に育ったものだ。


「それで、猶予は三日との事だったがミナト殿……いつ出発するのだ?」


 アリアが心配そうにこちらを見つめてくる。


「ギリギリよりは早い方がいい。準備ができ次第乗り込むつもりだ」


 とは言っても次元の穴を開けた段階で俺達が乗り込むのは奴らにバレバレなんだけどな。

 ただ、早く済ませないと食料備蓄の無い街や小さな村が辛い思いをする事になる。


 食料の搬送に時間と人員を裂くくらいなら一気に片を付けてしまった方がいい。


「とはいえミナトよ、これはこの世界の命運を分ける最終決戦だ。いつ誰が命を落としてもおかしくは無い。それをきちんと理解すべきだぞ」


 ……おいおい急に脅すんじゃねぇよ。

 シルヴァは真面目な顔で、「突入は今夜。それまで多少の時間はある……それまでにきちんと君を心配する人達と話しておけ」と言った。


 なんだよその最後の別れみたいな言い方は。


 確かにギャルンもキララも相当力を増しているはずだ。

 それ以外にも強力な魔物は居るだろう。


 だが、それでも俺は負けるつもりはない。

 どんな苦しく厳しい戦いになろうが生きて帰る。

 みんなを置いて勝手に死ぬわけにはいかない。


「英傑や各地で協力してもらえそうな戦力にはこちらから連絡をしておく。勿論各国の代表にも、だ。ミナト達は夜までゆっくりと語らっておきたまえ」


 そこまで言ってシルヴァは周りを見渡し、「では一時解散だ」と言い放つ。


 去り際にシルヴァが俺の肩をぽんと叩いて、言った。


「君に話がありそうな人はある程度この街に集めておいた。君は彼女らの不安を払拭する義務がある。それに……きっと生きる糧を与えてくれるはずだ」


 ……この野郎、皆の心配を払拭してやれなんてのは方便で、どっちかっていうと俺をその気にさせる為、って所だろう。


 そんなのが無くても俺は生きて帰るつもりだし、負ける気も無いが……。

 それでもみんなと話しておくのは悪くないだろう。


『ああそうそう』


 部屋から出て行ったシルヴァがいきなり通信で脳内に語り掛けてくるので驚いた。


 なんだよまだ何かあるのか?


『人数が多いからな……出発前に無駄な体力を使うのは推奨しないぞ』


 ……は? 何言ってんだお前。


『いや、別にミナトがその方が元気になるというのであれば好きにしてくれて構わないのだが……一応忠告しておこうと思ってな』


 だから何言ってんのか分からねぇって。


「ごしゅじん、私は一緒に乗り込む組なので今回は遠慮しますから、部屋で大人しく待っていて下さいねぇ♪」


 ネコが俺の耳元に甘い声をぶつけてくるもんだから飛び上がりそうになった。


「なっ、え……?」


「楽しみにしてて下さいねぇ~っ♪」


 ……おい。

 まさかシルヴァ、そういう事か!?


『くくくっ、頑張ってくれたまえ。それではな』


 おい待て! ……くそっ、これから俺は突入前に自分の身を守らなきゃならんのか?


 いや、落ち着け。

 きっとまともな奴だって居る筈だ。

 それにネコがどうかしてただけで他の連中があんなことしてくるとは限らない。


 そうだ、問題無いはず……!


『だといいわねぇ』

 他人事みたいに言うんじゃねぇよ……!

 最終戦前だってのに緊張感が台無しだ。


『違う意味で緊張感凄いでしょ?』


 ……うるせぇ。


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