第423話:ノーカン。
「ごしゅじん、いい加減に機嫌直して下さいよぅ」
「そうじゃぞ? 別にお主にとってマイナスな事は何もなかったじゃろうが」
「うっ、うぅっ……俺の事はほっといてくれ……」
きっと俺は良い思いというのをしたって事になるんだろう。
でもそれはこんな無理矢理相手にあれこれされるような展開じゃ無かった筈だ。
本当は、もっとこう、違うじゃんか。
ラムは俺にマイナスは無いと言うが、マイナスならある。
俺の自尊心って奴がズタズタに切り裂かれてその辺に転がってる。
俺の事を寄ってたかって……みんなでグルになってこんな事するなんて酷い。酷すぎる……。
「で、結局どうだったんじゃ? ちゃんと添い寝は出来たのかのう?」
「……は?」
添い寝、だと?
あれは、アレはそんな生易しいもんじゃなかったぞ……!?
ネコを睨むと、舌をぺろっと出しながら人差し指を唇に当てていた。
黙ってろと……?
こいつ添い寝するだけだとラムを騙して協力させて俺に無理矢理あんなことを……!?
「うぅ……っ、情けない……っ」
「ごしゅじんとっても可愛かったですぅ♪」
「やめろーっ! 思い出させるな!」
俺の人生で間違いなく一番の汚点だ。
ネコのやつ、俺の……俺の、うあぁぁぁぁ……!
『私もちょっと驚いたわ。てっきり君の事をちゃんと男性として見てるかと思ってたのに……違ったわねぇ』
ネコは俺を女として扱いやがった。
つまり、女としてあれやこれをしてきた。
頭の中がバグりすぎてもう訳が分からなくなって……。
ダメだ思い出したくない。つらい。
『でも本当に君すっごく可愛かったわよ。さすがにその身体も長いだけあって女としての才能あるわ』
いらんそんなのいらん……!
男だって事が遠い過去のように消えていく気がする。
昨日のアレを俺がどこかで受け入れてしまったらもう男には戻れない。
『それだけ刺激的だったって事よね』
違う違う違うっ!
それだけは断じて無いからっ!
女としての喜びなんて感じたくないわ!
『うわ、悦びとか感じるとか……えっちねぇ』
もうやだこいつら……。
「のう、添い寝したくらいでこんな事になるもんなのか? なんか怪しいんじゃが……」
ラム! そうだもっと言ってやれ!
ネコの悪行を暴け!
「えへへ♪」
ネコは満面の笑みをラムに返す。
『本当にいいのかしら? ラムちゃんが昨日何があったかを暴くって事は……』
ハッ!
俺がどんな目にあわされたのかが白日の下に……!
「ら、ラムちゃん! その話は、もういいじゃないか!」
「よくないわい。なんか様子が変じゃ。ユイシス、お主まさか……」
「おいネコ! 何も無かったよな!? な!? そう言え。頷け!」
「……えへへ♪ 美味しかったですぅ♪」
終わった。
「なっ、お主まさか……! やはり儂を利用したな!? 破廉恥なっ!!」
「でもラムちゃんもその可能性は考えてましたよねぇ?」
なんだなんだネコの奴急に強気になりやがって……。
「ぐぬ……確かに、お主が添い寝だけで我慢できるとは思ってなかったが……うむ、確かにそうじゃな」
なに納得してんの!?
負けるなよそこで諦めるなよ熱くなれよ!
「それにみんなにとってもちゃんとメリットあるんですよぉ? 私は思う存分頂きましたので……私独り占めはしませんから後はみんなの好きにしてもらって大丈夫ですぅ♪」
「馬鹿言うな! お前何言ってんのか分かってるのか!?」
こいつは何を言い出すんだ!?
これから俺は同居人たちに怯えながら過ごさなきゃならなくなるじゃないか!
「勿論分かってますよぉ♪ だってみんなで共有する方が楽しいに決まってるじゃないですかぁ♪」
そう言ってネコが目を細め、自分の指先を一舐め。
えっろ!
『えっろ!』
くそが……ママドラと思考がシンクロしてしまうあたりもうダメだ。
『失礼過ぎる……!』
「な、なるほどのう? べべべべつに儂はミナトが嫌なら無理にどうこうする気はないから安心するのじゃ」
「ラムちゃん……ラムちゃんは分かってくれると信じてたよ……」
「でもぼやーっとしてると他の人達が……」
「そ、それもそうじゃのう!?」
「ラムちゃん!?」
『あーあ、これでミナトガールズ達が本気になるわよ? ネコちゃんにラムちゃん、アリアにレナに……レイラも居るわ。モテる男……いえ、女は辛いわねぇ?』
ママドラが笑いを堪えながらわざと男って言って訂正しやがる。
俺は、万が一があったとしても男としての気持ちを捨てる気は無い。
俺は男だ。俺は男だ。俺は男だしっかりしろ。
一度ネコにあんな事されただけでコロっと女になってたまるか……!
『もう女になっちゃったけどね』
うるせぇっ!
昨日の事は無しだ無し!
あんな無理矢理なの認められる訳ないだろ!
ノーカンだ!
『残念だけど、事実ってのは消えないのよ……君が昨日男を保てなかった時点で負けなのよねぇ』
俺の負け……?
俺は、ネコに負けたのか……?
『どう考えても君の負けよ。昨夜なんてまるで君の方がネコちゃん……』
くっ、もういっそ一思いに殺してくれ……。
「ユイシス……なにやらミナトが真っ白に燃え尽きておるんじゃが……大丈夫かこれ」
「大丈夫ですよぅ♪ すぐに慣れてくれますって♪」
今までただの馬鹿だと思っていたネコが、俺の人生の中で明らかな脅威に変わった瞬間だった。
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