第405話:収納名人。


『ミナト君、どうするつもり?』


 待て今考えてる。

 俺の転移魔法が以前に比べて便利になったとはいえ、一度に運べる人数は数人が限界だ。

 目的地がリリアの拠点ならば尚更。

 距離がありすぎる……。


 数人ずつ転移で送り届けるという手もあるが時間がかかりすぎるし、そんな事をしている間に魔物避けの効果が消えるだろう。


 それに俺が助け出さなきゃならないのはシャンティアの人間だけじゃない。

 王都もそうだし、各地の小さな街などもその対象だ。


 魔物が現れたのは王都とシャンティアだけという話だったのに、保護対象が全域になったという事は今後同じようになる可能性が高いと判断したからだろう。


 だったら俺はまずここと王都をどうにかして、それから各地を回るしかない。


『だからそれをどうやって……』

 今考えてる所なんだよ!


 どうする? 俺はどうしたらいい。


 ギリッと、つい手に力がこもって例の小型ケースが軋む音を立てる。


「……っと、これは大事な証拠だからな……しまっておくか」


 っ!?

『ミナト君!』


 あぁ、分かってる。


「ミナト様……どうかされたんですか?」


 心配そうにレイラが俺の手を強く握った。


 ……できるかどうかはともかく、やるしかねぇよな。


「レイラ、これからお前達全員を俺の拠点まで連れていく。しばらくの間この館から誰も出る事は出来なくなるが許してくれ」


「分かりました。私はミナト様を信じます。私は皆にそれを説明して納得してもらえばいいのですね?」


 俺を見上げるその瞳には強い意思が灯っていた。


 本当にこういう時女ってのは強いな。


「すまない。頼むよ……できる限り早く解放できるように善処する」


 そして俺はノインの館を丸々カットし、マジックストレージの中に放り込んだ。


「ぎゃーっ! 家が、家が消えちゃいましたよ何したんですか大量虐殺!? 人でなしーっ!」


「ちげーよ人聞き悪い事言うな。館をそのまましまっただけだ」


「あんな大きなのしまっちゃうとか収納名人ですねーっ!」


 収納名人はともかく、おそらく正解はこれだ。

 というより方法がこれしかない。


 一つの建物内に出来る限り人を集めてそれごとカット&ペーストでストレージ内に放り込んで運ぶ。


 俺自身が入った事がないのでどういう状況になっているのか分からないのが心苦しいが、ティアが大丈夫だったんだからしばらくは大丈夫なはずだ。


「リリィ、シャンティアに他の生き残りが居るかを調べる事って出来るか?」


「魔物じゃなくて人間の反応です? ちょっとやってみますねー」


 リリィはまるで一休さんのようにこめかみに人差し指をあてて「う~ん」と唸り、首を横に振った。


「いないですねー。さっきの人達で全部ですー」


「……よく考えたらそんな事出来るならレイラの居場所調べる事だって出来ただろ」


「わ、わらわが悪いんですー? 慌てて飛び出してっちゃったのはミナトですよーっ!?」


 ……それもそうか。

 結果的にレイラを見つけられたからいいものの、一瞬の判断ミスで大変な事になっていたかもしれない。


 現に、あの時俺は即別宅へ向かった結果ギリギリ間に合った。

 もしリリィに調べてもらってから移動していた場合間に合わなかった可能性だってある。


 たらればはもういい。

 そんな事言ってる場合じゃない。

 出来る限りその場その場で最適な回答を導き出せ。

 そうしなければいつか取り返しのつかない事になる。


「……よし、次は王都へ戻るぞ」


「まさか王都の人間まるごと移動させるつもりなんです?」


「そのまさかだよ」


 王都は広い。リリィの力で無事な人間をかき集め、城へ運び王城ごと移動させる。


「お前にもまだまだ働いてもらうからな。頼んだぜ?」


「うぅ……それは構いませんけどー、ちゃんとデートの件覚えてますー?」


「ああ、任せとけって」


 リリィはにっかりと笑い、親指をぐっと立ててこちらに突き出してきた。


「そんなに頼られちゃーしょーがねーですねー! わらわにどーんと任せておくですーっ!」


「ははっ、今はお前のお気楽さが救いだよ」


「……そこはかとなく馬鹿にしてます?」


「褒めてんだよ」


 心がどんどん毛羽立っていくのを感じていた俺にとって、こいつのアホな言動はいい感じに気が抜けて助かる。


 そういう意味ではネコに似ているのだろう。


『じゃあミナト君には必要な人って事ね♪』


 ……冗談きついぜ。

 こいつはシルヴァに引き取ってもらうさ。


 俺はネコだけで手一杯だからな。


『えっと……それは、つまりそういう?』


 待て、何か語弊があったかもしれん。

 別にネコが必要とかそういうんじゃ……。


 んー、まぁいいや。

 俺にとってはネコもイリスもラムもアリアもレナもレイラもみんな必要なんだよ。


『あらあら、認めたかと思ったらそういう逃げ道を使うのねぇ』


 うっせー。


『ちなみにさっきの面子の中に私が入ってなかったけどどういう事かな?』


 本当に面倒なドラゴンだなぁ。


 俺にとっちゃ必須級なの分かってて言ってるだろ。


『言葉にしてくれないとレディには伝わらないのよ?』


 ……頼りにしてるよ。今後ともよろしく頼むわ。


『……えぇ。任せておきなさい♪』


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