第397話:エクス様の高貴なる手解き。
「何をしている。余の授業料は高いぞ? 時間を無駄にするな」
こんの野郎……!
俺は今にも血管がはちきれてしまいそうになるのを必死に耐えながら、出来る限り冷静にゆっくりと立ち上がる。
「貴様の動きには無駄が多すぎる。魔力も力も余よりも優れているのにこのザマなのがその証拠だ」
「はいはいそうですかー! じゃあエクス先生なら俺をもっと強く出来るって言うのかよ」
「出来る」
即答しやがったぞこいつ……。
『ミナト君、ここは我慢して教えを乞うべきだと思うけれど?』
そんな事は分かってんだよ。
絶対的にその方が俺の今後の為になる事くらいは理解している。
だけどプライドとか以前に生理的に俺の中の何かがこいつを受け付けないんだ。
『ただの僻みでしょ……?』
くっ……!
「貴様にも分かるように説明してやろうか? 今の貴様は……そう、子供が突然超人的な力を手に入れてしまったのと同じようなものだ」
「……どういう事だよ。俺が自分の力を扱いきれてないって言うのか?」
「そう以外に聞こえるのならば耳を医者に診てもらえ」
エクスは片眉を僅かにつり上げて吐き捨てた。
くっそが……!
こいつの発言が全部いちいち癇に障るんだよ。
『小市民極まってるわ……』
「だったらどうしろって言うんだよ」
「そうだな……まずは竜化を解け」
まさか竜化を解けと言われるとは思わなかった。
俺は扱い方を聞いたつもりだったのだが……?
「早くしろ。時間が勿体ない」
仕方なく言われた通りに竜化を解くと、エクスがよく分からない事を言いだした。
「竜化をせずに竜化をしてみせよ」
「……何言ってんだお前」
「いいからやれ。身体を変化させずに竜化時と同等の力を発揮してみろと言っている」
……馬鹿なのか?
「できる訳ねぇだろうが」
「出来る」
また即答だよ……。
「この力がどんなもんかも分からずになんでそんな事が言えるんだよ……」
エクスは俺の言葉にも顔色一つ変えず、「いいからさっさとやれ」と言うばかり。
「……やりゃいいんだろやりゃあよ」
俺は自分の腕をいつものように竜化させる。
勿論当たり前のように腕が肥大化し鱗に覆われる。
「だからそれをやめろと言っているだろう愚か者め」
「だからさぁ、竜化しようとしたらこうなっちまうんだよ。こうならずに竜化と同じ力とか出る訳ねぇだろ」
「出す必要は無い。内側に留めよ」
内側に……留める?
「意識を集中しろ。竜化する際に身体が変質するのを抑え込め。外側に放出している力を内側に向けろ。これは気のコントロールと同じ事だ」
まずその気のコントロールってのが意味分からないんだけどな……エクスはその辺を説明する気はないらしい。
再び自分の腕に魔力を込め、竜化……の一歩手前で止める。
「そうではない。加減するのではなく内側に向けて放つのだ」
また訳の分からない事を……。
でも、俺はなんとなくエクスの言いたい事が分った気がした。
要するに漫画的な話をしてるんだ。
自分の中に【気】という力が循環しているとして、それをコントロールする事で拳を強靱な武器に変えたり鋼気功とかいう鋼の身体にする……的な?
そういう漫画を読んだ事がある気がする。
という事は、内側に向けて放つっていうのは体の中を循環させるという意味なのかもしれない。
だとすると、今までみたいに闇雲に力を出すのではなくて……腕だけじゃなく身体中にこの力を循環させるイメージでどうだ。
「貴様の竜化による形状変化は言わば武装。鎧を身に纏うような物であってそれ自体が本質では無い」
分かる。
不思議な事に、どこか一点に力を込めるのではなく身体中に魔力を循環させる事によって全身の強化に繋がっているように感じる。
そして、感覚が鋭くなっている。
今なら靴越しの地面、足の下にある草の感触まで理解出来そうだ。
「……ふむ、それでいい。もう一度かかってくるがいい」
エクスの言葉が終わる前に俺は前進していた。
一直線にエクスへと向かうが、確実に今までよりも早い。
ほとんど呼び動作無しにトップスピードを出せている。
接近が早すぎて殴り掛かるのが一瞬遅れてしまうほどだ。
そのワンテンポの遅れのせいか、俺の拳はエクスにかわされてしまう。
再び俺は空振りの勢いを利用してそのまま身体を回転させ、回し蹴りを繰り出す。
エクスはそれを予期していたように身を屈ませ、俺の軸足を狙ってきた。
ガギン。
エクスが俺の足を払おうと蹴りを入れたが、その程度ではビクともしなかった。
「うむ、よく出来ているな……どうだ? 自分の身体が数段軽くなったように感じるだろう」
さっきまではちょっと払われただけでバランスを崩して転倒していたというのに。
「これで分かっただろう? 今までの貴様はバランスが悪かったのだ。子供の身体にゴーレムの腕が付いたらどうなる? 剛腕にはなるかもしれないがバランスが悪くて動きにくいなんてものじゃないだろう?」
「……確かに、今ならお前の言ってる事が分る気がする」
「貴様の周りには肉弾戦のスペシャリストは居なかったのか? なまじ貴様の竜化が強力過ぎた為にそれが歪んでいると誰も気付かなかったようだな」
エクスは若干呆れたようにそう呟き、その場に座り込んだ。
「今更貴様に基礎を叩きこもうとするような輩は居なかったようだな。あの勇者でもこの場に居ればいい練習相手になっただろうが……」
痛い所を突かれた。
確かに俺の仲間に肉弾戦をするような奴はアリアや英傑達……それとゲオルくらいのもんだ。
しかしアリア達には俺が無意識のうちに加減してしまうし、六竜の力を振るう俺に講釈を垂れようなんて奴は居なかった。
ゲオルに関しては一度軽く戦闘訓練した事があったが、ひたすら笑いながら俺の攻撃を受け続けては「今度はこっちの番だぜ!」といいながら殴り掛かってくるだけで得る物が無い。
「どうやら余がここまで来たのは正解だったな」
非情に残念な事に、それを否定する事は出来そうにない。
「ほら、余に何か言うべき事があるのではないか?」
「ぐっ……」
『ミナト君、今回はどうしようもないわよ』
分かってる……分かってるさ畜生め。
「あ、あり……がとう。助かったよ」
「ふふ、しおらしいミナトも可愛らしいではないか。やはり余の妻にならないか?」
「か、勘違いするなよ!? 別に今回たまたまありがたいなーって思っただけで別にお前の事なんか好きでもなんでもないからなっ!?」
『見事なツンデレ……!』
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