第396話:尻を叩かれるミナト君。
「どれ、余が貴様の仕上がり具合を見てやろう。かかってくるがいい」
「……」
「どうした? 貴様が動かないならこちらが仕掛けてしまうぞ?」
「あのさぁ……お前この状況でよくそんな事言えるな……俺の顔が見えてねぇのかよ」
エクスは腕組みしたままの仁王立ちで俺にかかってこいと急かすが、こちらは今それどころではない。
みんなから解放されたはいいものの、今の俺はぶっちゃけいまいち前が見えない。
「ふん、さっさと回復魔法でもかけてもらえばよかろう」
「よかろうって……それをしてくれる人がいねぇから困ってるんだろうが」
「貴様……自分で回復魔法くらい使えるだろう?」
「あのさぁ、だから俺の状況見て言えよ……」
俺は魔力の鎖で雁字搦めにされた状態で顔面ぼっこぼこになぐられ家の外に捨てられたのだ。
拘束されたままで身動きが取れない。
顔面腫れて前がよく見えない。
最近みんなの俺に対する対応が遠慮なさすぎる。特にラム。
他の連中は面白がってリンチに参加してただけみたいな所があるけどラムだけはきっちり魔力武装してぼっこぼこにしてきやがって……。
「とりあえず自分で治すからさ、この鎖どうにかしてくんねーかな」
「断る」
「なんでだよ……」
こいつ何がしたいのか全然わからん。
かかってこいとか言ってる癖にこの状況をどうにかしようという気が全くない。
「なに、なかなかにいい眺めなのでな。余としてはもうしばらく貴様を眺めているのも悪くないかと思っている」
「何言ってんだお前……そういう趣味があったのかよ」
俺が縛られて転がってるのを見て愉しむとか変態すぎる。
「貴様は拘束や自分の顔の状況ばかりに気を取られて自分がどういう状態なのかを正しく理解していないようだな」
「……は? お前が何言ってんのか全然分かんねーよこの変態め」
「ふむ? 目の前に気の有る女が下着丸出しで横になっていたら視線が向いてしまうのは男として当然では?」
……えっ?
横たわった状態で縛られているので自分の下半身事情なんてまったく分からなかったが、なんとか首を捻り確認してみると……。
それは見事にめくれ上がっていた。
「お前……だからずっと見てたのか?」
「先程も言っただろう? なかなかにいい眺めなのでな。貴様がそのまま転がっているつもりならば余ももう暫く見ていようではないか」
「くっ……この、変態め……!」
屈辱すぎる。
まさかエクスがそんな下世話な事を言いだすとは思ってもみなかった。
所詮こいつも男って事かよ畜生め。
『もしかしてがっかりしてる?』
してねぇよバカ!
「腹立ってきた……! もう我慢ならん!」
俺は両腕を竜化させ、拘束を引きちぎり、自分に回復魔法をかけボコボコの顔面を修復する。
「最初からそうすればよいのだ。出来るのにしようとしないのは単なる怠惰だぞ」
「……お前まさかとは思うけど俺が自分でこうするのを待ってたのか?」
「ふん、どうでもいい。余は力がある癖にそれを使おうとしない愚か者が嫌いなだけだ」
こいつ……俺が本気を出せばあの程度の拘束すぐに引きちぎれると分かっていて、俺にそれをやらせるためにわざとイラつかせるような事を言ったのか。
結局のところエクスはどこまでもエクスだった。
『あら、今度は嬉しそうね?』
嬉しくねぇって……。
俺の感情を捏造するのやめてくれる?
『でもエクスが変態じゃなくて良かったって思ってるじゃない』
そ、それは知り合いの男が自分をそんな目で見て来たら嫌だってだけだよ。
違うと分かれば安心するのは当然だろうが。
『へぇ、そういう事にしておいてあげるわ』
そういう事にしておいてあげる、じゃなくてそういう事なんだよ!
「おいエクス、今の俺はかなりイライラしてるから加減は出来ないかもしれないぞ」
「ふん、余計な心配をする暇があったらさっさと修行の成果とやらを余に見せてみろ」
そう言えば……俺がエクスと戦うのって何気に初めてじゃないか?
こいつの街に行った時は魔物と戦っただけだし、英傑祭でも結局対戦する事は無かった。
俺のコンプレックスの塊みたいなこの男をボコボコに出来たらどんなに気持ちいいだろう?
完璧超人みたいな面してるエクスが、さっきまでの俺みたいに顔面腫らして泣きべそかいてたらどうだ?
たまんねぇなぁオイ。
見たくてしょうがないぞそんなの。
『君……人の事言えないんじゃない? 少なくとも好きな子のパンツに興味がある男の子よりよっぽど不健全だと思う……』
いいんだよ。人は人、俺は俺、自分の事なんていくらでも棚に上げてやる!
『うわ……器が小さすぎる……』
じゃかーしい!
俺はごくごく普通の一般小市民なんだよ!
「泣かせてやんよ!」
一気に距離をつめてエクスの顔面に竜化した腕を振り抜く。
が、何故か空振り。
「かわされた!?」
「愚か者め」
いつの間にか俺の側面にいたエクスが腰から剣んを抜き、俺の胴体を切りつける。
かろうじて腹部の竜化を行い、剣を弾く事に成功した。
一瞬遅かったら俺の身体は真っ二つだったかもしれない。
剣を弾かれ仰け反った一瞬の隙をついて俺は片足を竜化させ回し蹴りを放つ。
これなら片足だけでも十分に効果がある。
「ふむ……力に振り回されているな」
エクスはどこからか黄金の盾のような物を取り出し俺の蹴りに斜めに合わせて軌道を逸らし、軸足をコン、と払った。
「ぐえっ!」
それだけで勢いが空回った俺はその場にすっころんでしまった。
「まだまだこんな物か……どうやら余が来て正解だったようだ。力の御し方というやつを徹底的に叩き込んでやろうではないか」
地面に顔面から突っ伏している俺に、エクスはそんな事を言い、更に俺の神経を逆なでするような発言を続ける。
「どうでもいいがこちらに尻を突き出して誘惑でもしているつもりか?」
きっと俺のパンツを凝視しているに違いない。
このド変態め。
「さっさと立て。次だ」
エクスが俺の尻をパシリと叩く。
「ひゃうっ!?」
く、悔しい……! 悔しすぎる。泣いちゃいそうなくらい惨めだ。
「くく、随分と可愛らしい声を出すではないか」
こいつ……! 絶対ボコボコにしてやる!
絶対絶対絶対だ!
もう謝っても許してやらんもんね!
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