第372話:六竜を殺す女。


「とりあえずちょっとお前こっちこい」


 俺は足元にぺたんと女の子座りでふにゃふにゃになってるリリィを引き摺って椅子に座らせ、頭から毛布を被せた。


 ……そう言えばネコの姿が見当たらない。俺がリリィを引っ張ってくる間に自室にでも帰ったのだろうか?

 まぁ話がややこしくなるからシルヴァだけでいいか。


「シルヴァもこっち来てくれ。尋問の時間だ」


「じ、尋問!? わらわどうなっちゃうんですー? もしかして、二人がかりでえっちな尋問を……」


「しねーよボケ」


「死ねよボケは言い過ぎだと思いますーっ!」


 死ねとは言ってねぇよ……ほんと疲れるなんなんだこいつ。

 ネコよりも頭がお花畑な奴なんてこいつくらいのもんだぞ。


『でも初めて会った頃のネコちゃんはこんな感じだった気がするけれど』


 そうだっけ……? もしそれが本当なら最近のネコは大分大人しくなったんだなぁ。


 馬鹿も馬鹿なりに成長するという事か。

 ならばアホならどうだろう? 成長してくれ頼むから。


「……君がジール島に行っていたというのは本当かな?」


 シルヴァは戸惑いながらも着席し、リリィに優しく問いかけた。


「はぁ……素敵」


「とりあえず殴られたくなかったら大人しく質問に答えろよ?」


「ぼ、暴力反対ですーっ! ジールの島なんてしりませーんっ!」


 リリィは頭を両手で庇いながら「ひーん!」とか言ってる。

 ……あれ? 俺の勘も鈍ったか?


「ミナト、これはどういう事かな?」


 急に面倒な奴を連れて来たかと思ったら関係無さそうと分かってシルヴァが俺を睨む。


「待て待て、こいつアホだから多分自分が行った島の名前なんて憶えてねーんだよ」


「失敬なっ! わらわを誰だと心得てます?」


 ガタっと勢いよくリリィが立ち上がり、毛布がバサリと落ちる。

 それに気付いて顔を真っ赤にしながら静かに落ちた毛布を拾い上げ、身体に巻き付け、再びふんぞり返る。


「じゃあお前がバカンスに行ってた島の名前言ってみろよ」


「えっ、えっと……確か……えーっと……そうだ、ジーナの名前に似てたんですよ確か!」


「じゃあジール島で当たりじゃねぇかアホ」


「そう言われてみればそうですねー?」


 殴りたい。ああ殴りたい。殴りたい。


『あっ、知ってるそれ俳句ってやつよね?』

 違う。


『だって五七五は俳句なんじゃないの?』

 ママドラが俺の記憶の何を見たのか知らないが、今のには季語が無いから俳句じゃない。

 もしそれっぽい物にしたいなら川柳が正しい。


『何が違うの? 季語ってなに……?』

 面倒だからそのうち自分で調べてくれ。今話すような事じゃないだろ。


『ケチ!』

 頼むからアホと話してる時にアホにならないでくれ……。


『むかっ! 私がアホだっていうの?』

 少なくともこの状況でそんな話をし出すのは賢いとは言えないドラゴンだなと。


『うぅ……』


 これ以上ママドラに構っている暇は無い。俺は忙しいのだ。


「じゃあさっさとその島の話を……」

「嫌ですーっ! べーっだ!」


 俺が言い終わる前にリリィは舌を出して片目の舌瞼を指で引っ張る。ようするにあっかんべーというやつだ。

 本当にやる奴がいるとは恐れ入った。


「困ったな。出来れば君が訪れたという島の事を詳しく聞かせてほしいのだが」


「はいーっ♪ なんでも話しちゃいますーっ♪」


 ……俺の時とシルヴァの時で対応が違い過ぎないか?


『それは君が彼女に対して冷たいからよ。動物だって自分を虐待する相手には懐きたくないでしょうよ』


 ……反論しようかとも思ったが、それよりもママドラすらこいつの事を動物か何かだと思ってる事にちょっと笑いそうになった。


「えっとー、わらわ達がバカンスの為に国保有の船で辿り着いた島はですねー、なんだかご老人ばっかりの島で、みんな髪の毛が水色でしたねー」


「お前はその島で何してたんだよ」

「バカンスに行ったんだから海水浴に決まってますーっ! ちなみにご飯がとっても美味しかったですーっ!」


 なんで飯が美味かった事までキレ気味に言ってるのかが理解出来ん……。

 とりあえず俺が話しかけると全部こうなるらしい。困ったものだ。


「ジール島はドラゴン信仰が厚い島だったのだが……それらしき雰囲気はあったかな?」


「そうですねーどちらかというと以前はそうだった、みたいな感じでしたー。ドラゴンが彫られた門とか、置物みたいなのとか沢山ありましたけどみんなボロボロで……」


 その言葉を聞いてシルヴァが額に手を当てて首を横に振った。

 思った以上に自分の知っている時代とかけ離れていたのだろう。


「あの島の者達ですら時の流れに変えられてしまうのか……以前は信仰心の塊のような人々だったというのに」


「それで、お前その島で悪さしただろ?」

「悪さなんてしてませーん! わらわとってもいい子なので!? 島の人に迷惑なんて、かけてませんしー!?」


 シルヴァが俺の方へ掌を向ける。

 お前は黙ってろという事だろう。確かに俺が話しかけてもまともな返事が返ってこないもんなぁ。


「むしろお爺ちゃんお婆ちゃんには可愛い可愛いっていっぱい頭撫でられましたしーっ!?」


 ……あぁ、ご老人からしたら多少アホな子の方が可愛く見えるのかもしれないな。こいつの場合多少ではすまないけれど。


「君はその島で……そうだな、何か祠のような物を見なかったかい?」


「祠? あの洞窟の事ですかねー? それならわらわ率いるラヴィアン探検隊がしっかりきっかり探索済みですよー♪」


 シルヴァの表情が曇る。

 いや、曇るというよりなんというか眉間に皺がより、目じりは下がり、口はへの字口。

 この先を聞くのがとても嫌そう。


『やっぱりこの子凄いわよ。シヴァルドにこんな顔させる奴世界中探しても他に居ないわ』


 ……それは、そうだろうなぁ。


「そしてそしてっ! わらわはその最奥にてとんでもないお宝を見つけたのですーっ!」


 おおっ! と俺とシルヴァが同時に声をあげそうになり、その直後に発せられた彼女の言葉を聞いて何も言えなくなる。


「美味しかったーっ!」


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