第371話:大事な話に関わっちゃいけない女。


「おい大丈夫か?」


「大丈夫な訳ないでしょーがっ! わらわの高貴な頭蓋骨が陥没したらどうしてくれるんですかーっ!? この暴力女っ!」


 相変わらず騒がしい女だな……。


 リリィは涙目で頭をさすりながらこちらを睨みつけてくるが、そんな事どうでもいいから早く身体に何か巻き付けてくんないかなぁ。


「早くそれ隠せよ」


「いつまでじろじろ見てるんですー!? わらわのナイスバディが羨ましいからってさすがにちょっとそういうのはいけないとおもいますけどーっ!?」


「やかましい。そう思うならさっさと毛布でも被っとけ」


「ふんっ! だれがあんたの言う通りなんかにするもんですか!」


 意地張る所そこなの?

 リリィはベッドの上に立ち上がり、腰に両手を当ててふんぞり返った。


「一応言っておくが俺はとある事情でこんな姿になっちまってるけど元々男だからな?」


「……は?」


「六竜のイルヴァリースと同化する時にこうなっちまったんだよ。中身は男だ。分かったらさっさと毛布を……」


「きっしょ……!」


 こいつ……今まで誰も踏みこんでこなかった事を平然と言ってのけやがった……!


「女のフリしてわらわに夜這いなんてとんだクズ野郎ですねーっ!」


「ちょっと話があるだけだって言ってるだろうが。もう一度ぶん殴られたいのか?」


「ひっ、わ、わらわそんな脅しにはく、く、くっしませんよ!」


 やべぇ、本当に話が通じない。

 ちょっと聞きたい事があっただけなのにどれだけ時間を浪費させるんだこいつは……。


「いいからおれが聞いた事に答えろ。お前ラヴィアンで俺達と会うまでバカンスに行ってたって言ったよな?」


「それがなんだって言うんです?」


 リリィはベッドに座り込み、やっと身体に毛布を巻きつけて俺を見上げる。


「別に咎めようって話じゃない。お前が行ったのはラヴィアンから陸地を数十キロ、船で二日……大体そのくらいで到着する島だろ」


「うえ、きっしょいですーなんで分かるんです?」


 俺は顔に手を当てて呻いた。

 まさか本当にこいつが関与してるかもしれないとは……。

 つくづく俺の嫌な予感は当たる。


「とりあえず一緒に来い」


 リリィの腕を取り無理矢理ベッドから引きずり下ろす。


「ちょっ、えっ、わらわ拉致られるーっ!」


「やかましい。とりあえずシルヴァの所へ連れてってやるから黙ってろ」


「えっ、シルヴァ様!? ちょ、ちょっと待って下さいーっ! せ、せめて着替えを……いや、逆にこのまま行って悩殺……!?」


「つべこべ抜かすな。シルヴァを待たせてるからさっさと行くぞ」


 問答無用でリリィを引き摺って部屋を出るとすぐ上の天井にジーナが張り付いてこちらを見ていたが、すぐに目を逸らしたのでOKという事だろう。


「毛布は一応離すなよ。俺が誤解されるからな」


「ちょっ、あがががが、かいだだだんををををひきずずずるのはあががががっ」


 まったく、自分から進んで立ち上がり、歩いてくれるだけで俺はこんな面倒な事をしなくて済むのに。


「ミナト……? 何やら騒がしいが……うっ、何故彼女を連れてきた……?」


 リリィがやたらと騒ぐもんだからシルヴァが心配して見にきてしまった。


「ミナト、まさかとは思うがこんな夜更けに婦女子の部屋に侵入したばかりかあられもない姿の彼女を無理矢理ここへ引っ張ってきたのか?」


「おい、俺がヤバい奴みたいな言い方をするな。俺はヤバい奴に対して相応の対応をしただけだ。とにかく、さっきの話の続きにはこいつが必要なんだ」


 シルヴァがそのお耽美が顔を歪めてとて嫌そうな目で足元に転がっているリリィを見下ろす。


「うきゅう……は、ハッ!? ここは……あ、シルヴァ様ーっ! わらわ、こいつに無理矢理……っ」


「そ、そうか……それは災難だったな」


 リリィは毛布がはだけるのも気にせずシルヴァに飛びついた。


「おいアホ姫。お前がシルヴァに絡みつくのは別に止めないからこいつの質問に答えろ」


「いや、僕としてはそこは止めてもらえるとたすかるのだが……」

「シルヴァ様ーっ! わらわ怖かったーっ! 慰めてー?」


 見事に俺達の話を聞いてないなこいつ。

 ここまで来ると自分至上主義が逆に清々しい。


「シルヴァ、こいつな、ラヴィアンがあんなことになってる間呑気にバカンスしてたらしいぜ。どっかの島でな」


「……ふむ、それがどうかしたかね……いや、その島というのはまさか?」


「残念ながらそのまさかなんだよ。こいつが行って遊び惚けていた島ってのはマリウスの核が保管されていた場所だ。あとな、これは俺の勘なんだがこいつ絶対核の件に関わってるぞ」


「いやいや、その島に行った事があるからといってそんな偶然があってたまるか」


 シルヴァは否定するように首を横に振ろうとして、自分に絡みついていたリリィのおでこに自身の顎が触れる。


「ふにゃぁっ!」


 リリィはそれだけで真っ赤になってしまい、その場にぺたんとへたり込む。

 毛布はもう完全に剥がれ落ち下着のみだ。


 この絵面はちょっと嫌だなぁ。俺達がいかがわしい事をしてるように見えてしまうじゃないか。


『君のこの子に対する扱い考えたら仕方ないんじゃないかしら……』


 大事な話の中にこいつが関わってくる事自体おかしいんだよ……。


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