第337話:因縁の相手。


「ししょーっ! どーしたんですかししょーっ! お腹痛たかったんですかーっ!?」


「う、うむ……そんなところじゃよ」


 想定通りと言うべきか、想定外だと言うべきか……リリィはラムに俺が想像した通りの絡み方をしてきた。


「お姉様は今まで何を見ていたんですか? いくらなんでも私お姉様の事を血縁だと思うのが嫌になってきました」


「ひどっ! わらわマァナの事大好きですよー? マァナが生まれた時なんてわらわとーっても嬉しかったんですからねー!」


「マァナ様、もしリリィ様を亡き者にする際には是非私にご用命を」


「……ジーナ? わらわ、何か聞き間違いをしたんですかね? なんだかとっても物騒なお話が聞こえてきたような気が」


「どうします? やっちゃいますか?」


「ちょっとジーナ!?」


 マァナは大きく深いため息をつき、こちらに深く頭を下げた。


「この度はうちの愚かな姉が多大なる迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」


「はは……別にいいさ。俺の目的も達成できた事だしな」


 この国にあった兵器……と思われる物は破壊した。

 ギャルンの配下の黒鎧……俺の知ってるのとは違ったが、結果的に一人撃退する事が出来たのも大きい。


 それがダンゲルだったってのが問題だが……。


 ラムにとっては大問題だろうが俺にとっては大した問題じゃない。

 嫌いな野郎がギャルンの餌食になっていいように使われたというだけだ。


 それなのにどうしてかなこんなに腹が立つのは……。


 いい加減ギャルンとの因縁も終わりにしなきゃこっちの身がもたん。


 身、というよりどちらかと精神的にしんどくなってきたってのが正しい。


「あ、あの……不躾なお願いなのは分かっているのですが、ロゼノリアを元に戻す方法が無いか探すのを協力して頂く事はできませんか?」


「マァナ!? こんな奴に頼んでも無理に決まってますーっ! 結局はただの部外者なんですよ部外者ーっ! やる事やってポイ捨てされるんですそうに決まってまぐえぇぇぇ……」


 途中からジーナがリリィの首に腕を絡ませ締め落としにかかった。


「じ、ジーナ……じぬ、じんでじまう……!」


「お姉様、命が惜しければ黙っていて下さいませ」


「ば、ばがりばじだ……」


 リリィはジーナの腕をぱしぱしとタップしてギブの合図をするがなかなかジーナは離そうとせず、リリィが泡を吹き始めた所でやっと力を緩めた。


「姫様、私は必要とあらば主をもやっちゃう覚悟をしましたので覚えておいてくださいね」


 ジーナは無表情のまま平坦な声でリリィを脅す。


「じ、ジーナ……ジーナだけはわらわの味方だと信じてたのにーっ!」


「私は国に仕える身です。そして現状リリィ様よりマァナ様の方が国のトップに相応しいと考えておりますので命令の優先順位的にマァナ様がやれと言うのであればやります。分かったら少し静かにしていてくれますね?」


「……は、はひ……」


 はひ。ってなんだよ……。

 それにしてもここまで来ると可哀想だなぁ。

 俺にはジーナが本気とは思えないし、リリィを黙らせる為の方便だとは思うけれど、やられた方からしたら結構ショックなのでは?


「よしよし可哀想に……リリィさん、あっちで私とおしゃべりしましょう?」


「うぅ……こんなわらわでもいいの……?」


「勿論ですぅ♪ 仲良くしてくださいね?」


「う、うん! ありがとう……! 貴女、えっと……名前は?」


「私はユイシスですよぅ♪」


 ……ネコがリリィを慰めながら俺達から離れた所まで連れていってくれた。


 なかなかに面倒見がいい。

 純粋に性格が合いそうってのもあるけれど。

 それにしてもネコってリリィと一緒だとまともに見えるな……。


『あら、惚れ直しちゃった?』

 うーん……正直見直した。


 ……でもなんか物足りねぇな。

『君の中でちゃんとネコちゃんは大事な存在って事よ』

 なんでそうなる?


『よく言うじゃない。そのままの君が好き! ってね♪』


 ……まぁネコは普段通りの方が面白いからな。


「こほん、それで……どうでしょう? お願いできませんか?」


「悪いが俺達にはあまり時間が無い。勿論出来る限り協力はしたいと思ってるけど、この状況は十中八九ギャルンっていう野郎が仕組んだ事だ。奴を締め上げて吐かせるしかないかもしれないな」


「勿論今すぐに、とはいいません。力を貸して頂けるのであればそれでいいので……正直私達だけでは出来る事が何も……」


 そりゃそうだろうな。自分以外に生き延びているのがジーナとおバカな姉とその護衛達だけじゃあな。


「分かった。とりあえずあんたらの身柄はこっちで保護させてもらう。現状この国に留まる意味はないだろう? それとも他の街に避難するか?」


「……いえ、お恥ずかしい話なのですが……この国にまともな街はロゼノリアだけです。他にも街が幾つかあったのですが砂漠化が広がり人が住めなくなってしまって……結果的にロゼノリアだけが残ったんです」


 マァナは肩を落とし、言い辛そうに語ってくれた。


「それじゃあもうこの国自体滅んだようなもんじゃないか……」


「残念ながら、そうなります」


「……だったら尚更あんたらは保護させてもらうよ。あと、マァナにもラヴィアン代表として同盟会議に出席してもらうからそのつもりでな」


「分かりました。私では役不足かもしれませんが……」


 なぁに、リリィに比べたらよっぽど安心できるぜ。


「おや? おやおや、おやおやおやおや?」


 突然なんの脈絡もなく、どこからともなく声が降ってきた。


 ……このタイミングで出てくんのかよ。


「ダンゲル君はやられてしまいましたか……見どころがあると思っていたんですがねぇ」


 見上げると、上空からゆっくり、ふわりと見覚えのある黒衣が降りてきた。


「会いたかったぜ……クソ野郎が」



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