第318話:金色降臨。

 

「ラヴィアンまでの経路はミナトの方で確認できるかな?」


「おいおい無茶言うなよ。俺は地理の事なんて……」


「それなら儂が覚えておるのじゃ♪ ニームにもらった地図が相当大きかったからのう」


 さすがうちのお嬢様は万能だぜ。


 車椅子の上でふんぞり返ってるのが生意気可愛い。


『大丈夫そうだな。それなら早速で悪いのだがラヴィアン王国へ向かってくれ。時は一刻を争う。万が一にも兵器が完成しているようなら国を一瞬で落とされる可能性すらある。責任は重大だよ』


 おいおい……。

 確かにラヴィアンの首都が一撃で吹き飛ぶほどの威力だとしたら、そして遠距離攻撃も可能な兵器だとしたら……。


 世界中のどこに居ても安全な場所なんて無い。

 参加国の権力者が集まっている場所なんて狙われでもしたら一巻の終わりだ。


 だからこそシルヴァはこのタイミングで俺にどうにかさせたいんだろう。

 もしかしたら延期の理由さえそれのせいかもしれない。


「……分かった。出来るだけ迅速に対応させてもらおう。それとな、この国にもやっぱり魔物の手が入ってたぞ。一応それ自体は未然に防いだが……」


『大丈夫。ちゃんと見ていたさ。ここから先魔王軍……というよりもギャルンだね。奴がシュマルに手を出してくるかどうかが微妙な所だが……リザイン殿をさらおうとした理由が何か、次第では問題が生じるな……』


「そんな状態で俺がここを離れて大丈夫か?」


『しかし、シュマルの問題も大事だがラヴィアンの調査は何よりも優先すべき事象だ。最悪ミナト単独で、でも行ってもらうぞ』


「そうだな……最低限の護衛は残していった方がいいかもしれない」


 そうなると問題はいろいろ発生するが……。


 まずラムを置いて行く場合、ラヴィアンまでの道中、そして内部での行動が遅れる。


 それだけはまずい。迅速に動くのなら必ず必要だ。


 そしてティアを置いて行く場合、戦力がかなり減ると思っていい。

 今回もかなり助けられたからな……。


 ネコを置いて行く場合は、怪我人が出た時に対処できない。

 今回も俺の回復魔法なんかじゃ手に負えない状況ってのが何回もあった。


「正直、未知の場所へ行くならこのメンバーは誰も置いていく事は出来ないぞ」


『……ふむ、そういう事ならばシュマルの護衛はこちらで人員を確保し早急に送り出そう。一人ならば今すぐにでも転送可能だ』


 一人だけならリリアからここまで飛ばせるってか。やっぱり六竜ってのはどうかしてるな……。


「一人で大丈夫なのかね?」


 リザインは不安そうにシルヴァに問いかけた。


『大丈夫。ミナト、ティアに次ぐ実力者をそちらまで送ろう。後はそちらで説明し対処してくれ。僕は転送準備に取り掛かる。それでは健闘を祈るよ』


「おい待て! ……あの野郎一方的に通信を切りやがって……」


 それにしても俺とティアに次ぐ実力者だと……?


「うあっ」


「ミナトどうしたの? 顔色が悪いんだゾ?」


 ……リリアで俺とティアの次なんて奴しか居ねぇじゃんかよ。


 ピカっと目の前が光り、そこに現れる金ぴか野郎。


「なんだどういう事だ説明しろ! ……ちっ、人を勝手に転送しおって……ん? ミナトではないか。健勝そうでなによりだ」


「やっぱりお前かよ……」


 案の定シルヴァに送られてきたのはエクスだった。


「ん、そこに居るのはティアか。そなたも相変わらず美しいな」


「えっへへ~♪ 褒めても何も出ないんだゾ♪」


「ミナト、この方は?」


 リザインが突然現れた金ぴか男を訝し気に眺める。そりゃ不審者だよなぁ……。


「こいつはエクスって言ってな。俺の前の英傑王だ。実力は折り紙付きだぞ」


「なんと……シルヴァ殿はガリバンを守る為に前英傑王まで派遣してくれたというのか……?」


「待て待て待て。余に分かるように説明せよ。一体何がどうなっている? 余は何も説明を受けておらんのだ」


 エクスに、これから俺達が出立しなければいけない事、そしてこの街の警備として強力な人材が必要だった事を説明すると……。


「なるほどなるほど、せっかくだから余もお前らいついて行きたいところだがそういう事ならば仕方あるまい。この街の平和は余が確実に守ってやろう。ありがたく思うがよい」


 リザインはこの国の代表だっていうのにエクスはいつもの上から目線を一切崩さない。

 さすがブレない鋼の精神力だ。


「よ、よろしお願いします……」


「うむ、よいぞよいぞ。余の仕事に釣り合うほどの待遇を期待しようではないか」


 ……なんかごめんなリザイン。こいつはこういう奴なんだ。勘弁してくれ。


「なぁ、こいつが本当にミナトの代わりになるのか?」


「おい馬鹿やめとけ」


 エクスに喧嘩を売ったのはゲイリー。怖いもの知らずにも程がある。


「……なんだ貴様は。不敬であるぞ?」


「不敬? 余? いったい何時代のどこ人ですかってんだ。そんなに実力に自信があるならちょっと勝負しようぜ」


 やめとけよ馬鹿野郎……と、言おうかと思ったんだが……確かにゲイリーの能力はエクスにも刺さるかもしれない。


 エクスがこてんぱんにやられる姿を想像すると笑いが止まらん。


 これは見守ってもいいかもしれないな。


『君って人は本当に性根が腐ってるわね』


 いいもん。それが俺だもん。


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