第314話:ゲイリーの最期。


「勿論、死んでもらう」


「へへ、良かった……あんたはまともな人間らしい。そうと決めたらさっさと殺してくれ」


 リザインの野郎……あれだけゲイリーの事を理解してやった雰囲気出しておいて平然と死んでもらうとか良く言えるな。


 重罪人だから相応の裁きを与えるのは当然だ。

 それは分かるが……。


「残念ながらそうはいかない」


「お、おい待てよ……まさか俺を大衆の見せしめにする気か? それだけはやめてくれ……殺すなら一思いに殺してくれ……!」


「君は自分の死に方を選べるような立場だと思っているのかね?」


「ぐっ……」


 うわぁ……リザインの野郎、ただのお人好しとか善意の塊ってわけじゃなさそうだ。


「誓い給え。君の生殺与奪の権を私に一任し、その命を私に委ねると」


「誰が、そんな……」


「君がそれを約束さえするのならばあの教会については私が全面的に支援をしよう。教会、及び子供達が住んでいる家の修繕、あるいは建て直し。その後のサポートまでな」


「ほ、本当か……?」


 ゲイリーの奴一瞬で持っていかれてる。

 落とすだけ落としてから甘い餌で釣り上げる質の悪いやり方だ。


 だが、腑に落ちない。


 その条件を呑ませる必要がどこにある?

 重罪人のゲイリーを処罰するのは当然の事だ。

 それを条件に教会の支援を持ち出す意味が分からない。

 リザインにとってメリットがあるとは……。


 いや、もしかしたらゲイリーの死には意味があるのだと思わせてやりたかったという事だろうか?

 なるほどなるほど、それなら納得できる。


「なんだ、いいとこあんじゃねぇか」

「なんの事だか」


 俺が軽くリザインを小突くが、さらりとかわされてしまった。


「いいぜ。その代わりその言葉は本当だろうな? 絶対だ。ミナト、もし、万が一こいつが約束を破ったら……」


「分かった。安心していいぞ。リザインがお前との約束を反故にするようならぶっ殺してやるから」


「おいおい……君は私の目の前でよくもそんな物騒な約束が出来るな」


 それはお互い様だろうが。


「まぁそれで構わない。私は約束を違えたりはしない。口約束だがミナト達が証人だ。これで契約成立という事で構わないかね?」


「ああ、俺の命なら好きに使ってくれ。もう未練も無い」


「ふふ……」


 リザインが突然笑い出すもんだからその場にいた全員が彼に注視した。


「いや、すまない。では君は今ここで死んだ。名前も、戸籍も無い死人だ。いいね?」


 ……は?


「な、なんだよそりゃあ……どういうつもりだ!?」


「君の命を私に委ねる契約をしたはずだが?」


 なんだそれ。まさかとは思うがお咎め無しにするつもりか?

 それはそれで逆にやりすぎだろう。


「どういう事か説明してくれ。俺にも分るようにな」


「ミナトが怒る事ではないだろう」


「別に怒ってねぇ。お前の考えてる事がまったく分からねぇから説明しろって言ってるんだよ」


 リザインはやれやれと肩をすくめて言った。


「彼には今日この場で死んでもらう事にする。しかし、その命は私の為に使ってもらう」


「お、俺に何をさせようっていうんだ。まさか……お前、俺に殺しをさせるつもりか……?」


 ゲイリーは、やっと柵から解放されたと思ったのに再び絡めとられてしまったのかと絶望した。


「そうなのか? 見損なったぞリザイン」


「待ちたまえ。君達はどうしてそう早とちりするんだ。人の話は最後まで聞き給え」


 リザインはそう言いながらゆっくりと自分用のふっかりした椅子に腰かけ、足を組んだ。


 こうしてると完全に悪役に見えてくるから不思議だ。こんなボロ家じゃなきゃ、だけど。


「別に彼に殺しを頼むつもりはないよ。どうしても排除しなければならない完全なる悪が私に対して牙を剥いたりしなければね」


「それはそういう場合にはやらせるって事だろうよ」


「無理をさせるつもりはない。要は私専用の護衛だよ。聞けば彼も特殊な空間を展開できるそうじゃないか。万が一の時の避難場所にもなる。どうやらミナトはこの先もまだまだやる事があるようだからね、保身の為に彼を確保するくらいお互いにとって悪い話では無いと思うが?」


 リザインは満面の笑みで言い放った。


 この男……やっぱりなかなか黒いぞ。


「お前の身を守る為にそいつを使いたいってのは分かった。だけどよ、それでそいつの罪をチャラにするつもりなのか?」


「そうだが?」


 即答かよ……。


「この場に居る皆が黙っていればそれだけで済む話だろう? 隻眼の鷹リーダー、ゲイリー・サイガ・トンプソンは今ここで死んだ。この先の命は私と共に歩んでもらう。この国から不平等と理不尽を消し去る為にね」


「ゲイリー、お前はそれでいいのかよ」


「……良い悪いの問題じゃない。教会の支援をきっちりやってくれると言うのなら、そして不平等と理不尽を消し去るというのが本心ならば、俺は……構わない。俺が本当にこの国の役に立てるのなら……」


 おいおい随分しおらしくなっちまってよう……俺と戦ってる時のギャハハ! ヒヒヒッ! はどこ行っちまったんだよ……。


「お前らがそれでいいなら俺が口挟む事じゃねぇからいいけどよ……なんだかなぁ」


「まぁいいじゃないか。それよりミナト、この件が片付いたら私に話があるのだったな? 是非ともそれを今ここで聞かせてほしい」


 まぁリザインにとっての脅威が去ったのならば本題に入ってもいいだろう。


「分かった。その代わりそれこそゲイリーやルーク、お前らも他言無用だからな?」


「当然だ。俺に他言する相手が居るとでも?」

「わ、私も約束しますよ!」


 ゲイリーとルークは随分対応が違うが、同じく他言無用に納得してくれた。


 どっちみちすぐに国を騒がす事になるだろうけどな。


「分かった。実は俺達は……」


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