第305話:馬鹿ネコ。


「まだか!?」


「急かすんじゃないのじゃっ! ちょっと待っとれ!」


 こういう時に何もできないのは歯痒いが、ラムに任せるのが一番早くて確実だ。


「……」


 ラムが魔力感知を行ないながら眉間に皺を寄せていく。


 まさか反応が無い、なんて言わないでくれよ……?


「この施設内にある反応はユイシスだけじゃ」


 逃げられたのか? ネコとシャイナがついていながらどうして……。


 いや、もしゲイリーが精神支配系の魔法を使えるのだとしたらシャイナは操られている可能性がある。


 だとして、ネコは何をやっていたんだ!


「馬鹿ネコの場所まで案内してくれ!」


「うむ、では廊下をまっすぐ、一つ目の曲がり角を右、そしてそのあと二つ目の曲がり角を左じゃっ!」


 嫌な予感は違う意味で的中した。

 その場所は……。


「ゆ、ユイシス、まだ食べるのかい?」


「まだまだでひゅっ! おばひゃん! もっと持ってきてくりゃはい!」


 ……。


「み、ミナト、ここは抑えるのじゃっ」

「あはは、ネコちゃんらしいんだゾ」


 笑い事じゃねぇ!


「この……馬鹿ネコがぁぁぁっ!」


 俺は食堂で馬鹿みたいに大量の料理を平らげている最中のネコの背後に近寄り、そのまま熱々のラーメンみたいな食べ物の中にネコの顔面を叩き込んだ。


「ぶみゃーっ!!」


 ネコは余程熱かったのか毛を逆立てて飛び上がり、顔面を押さえて床を転げ回った。


「ミナト、何をするんだ……さすがに今のは酷いんじゃないか?」


「うるせぇジンバは黙ってろ。そんな事よりゲイリーはどうした? ネコにも見張りを頼んだはずだが?」


「ゲイリーという男の見張りは今シャイナがやってるよ。ユイシスがあまりにお腹を鳴らしていたのでね、それなら食事でもと思って私が連れ出したんだ。彼女は悪くないよ」


 なるほどな。こいつの腹の蟲はうるせぇからこういう流れになるのも仕方ないだろう。だが今はそれが完全に裏目に出ている。


「ひーっ、ひーっ、あ、あぢゅーい! ふみゃーっ!!」


 ごろごろ転げまわるネコが俺の足にぶつかったのでそのまま後頭部を踏みつける。


「やかましい黙れ」


「ぎみゃっ!! この声はごしゅじん……? な、何をするんですか酷いですよぅ……」


「うるさい。それよりシャイナが危ない。もうこの施設には二人の反応が無いんだ」


「なんだって!?」


 ガタッと立ち上がったのはジンバ。

 みるみるうちに顔面蒼白になっていく。


「な、なんてことだ。縛り上げていたし、ただの隻眼の鷹メンバーの一人と油断した……!」


 バン! とジンバが食堂のテーブルを叩く。

 追加の料理を持ってくる最中だった食堂のおばちゃんが驚いて料理を床に落としてしまった。


「おばちゃんごめんな! 誰か腹減ってる隊員にでも食わせてやってくれ」


 俺の足の下で「むぐーっ! むごーっ!」とネコがもがいててうるさいので頭をひっつかんで顔を上げさせる。


「お前がちゃんと見てねぇからシャイナが危険な目にあってるかもしれないんだ。ふざけてねぇでしっかり働けよ」


「ひっ、ごしゅじんが怖いですぅ……でも、分かりました。私、頑張りますっ!」


「でもさ、もうここには二人とも居ないんだゾ? あのゲイリーって奴とシャイナをどうやって探すの?」


 ティアの言う事はもっともだ。


「……ラムちゃん、いつも負担ばっかりかけて申し訳ないんだが……」


「今更何を言っとるんじゃ。儂はミナトの手足じゃ。好きなように使えばよかろう。少しばかり集中の時間をくれ。そうすれば感知範囲をこのガリバン全体へと伸ばしてみせようぞ」


 ラムはそう言ってにっかりと笑った。


 俺の手足……か。

 その足を奪ったのは俺みたいなもんなのにな。

 本当に彼女の働きには頭が下がるばかりだ。


 今回ラムを連れて来なければ何もかもが後手に回っていただろうし移動にも更に何日もかかっていたはずだ。


 ラムはその後「ちょっと一人になりたいのじゃ」と言って休憩室へ閉じこもってしまった。


 そして俺達は何もできずにただ待ち続ける。

 と言ってもほんの三十分くらいでラムは出てきたのだが、こういう時の三十分っていうのは三時間くらいの体感だった。


「ラムちゃん、どうだった?」


「うむ……二人の居場所は分かったのじゃが……」


 なんだか不思議そうにラムが首を傾げる。


「どうした? 何か問題があったのか? まさかシャイナの反応だけ無いなんて事は……」


「いや、ちゃんと二人とも反応があったのじゃ。しかし場所がなぁ」


 そんなに不思議な場所なのか?

 そもそも俺達はガリバンの中で知っている場所なんてそう多くない。


「二人の反応があった場所は、何度確認してもリザインの家なんじゃよなぁ」


「なんだって??」


 リザインの家に潜んでリザインが帰ってくるのを待ち構えているのか?


 それとも何か意図があっての事だろうか?


 ……むしろ俺達を待っている?

 何のために?


 予め準備をして待ち構える事が出来れば俺達が相手でも倒せる、と?

 そう言いたいんだろうか?


「随分と舐めた真似してくれるじゃねぇか……」


 こうなったら即リザインの家に押し掛けて八つ裂きにしてやる。


 今度は手加減なんかしねぇ。

 目的だのなんだのはどうでもいい。


 あいつは俺を騙した。

 俺をおちょくってやがったんだ。


 その上シャイナまでさらっていきやがって……。


 もう絶対に許さん。


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