第298話:講演会襲撃。


「まったくテメェらは! 遊びじゃねぇんだぞ!!」


「もーそんなに怒らないでくださいよぅ」


 結局俺はフリフリロリータ状態で参加する事になってしまった。もうどうにでもなーれ状態である。

 開き直るというよりも諦めに近い。


「まぁまぁそんなに怒らなくてもいいだろう。可愛らしい恰好をするのがそんなに嫌なのか? とても似合っていると思うが」


 リザインまで適当な事言いやがって……。


「お褒めにあずかり光栄だよ畜生。まぁいい、とにかく今日が勝負だからあんたも気合入れろよ」


 今日の講演会は避ける事が出来ない。

 だが逆に相手を釣り出すチャンスでもある。

 念の為にルークは一日ストレージの中で待機してもらう事にした。


「ふふ、私を守るのが君達の仕事だろう? 私などがいくら気をつけようが死ぬ時は死ぬさ。君等に私の命を預けるよ」


「無駄に肝が据わってやがるな」


「無駄、とは酷いじゃないか。肝が据わっていなければわざわざ国の代表になろうとなんて思わないよ」


 そんなもんかねぇ。

 リザインはスーツのようなきっちりした服をっ着こみ、準備万端と言った様子で「今日はよろしく頼む」と呟いた。


「ラムちゃん、まずは俺達を会場に散らしてくれ。リザインは最後にラムちゃんが直接壇上に頼む」


「わかったのじゃ。ではお主等を纏めて飛ばすぞ」


 まとめて? 会場中に散らしてくれと頼んだはずだが……。


 それを訂正しようと思ったら口を開く前に飛ばされてしまった。


「うおっ……ここは……会場の裏手か」


 周りには誰もいない。

 本当にリザイン以外を纏めて飛ばしたのか?

 だとしたら同時に複数人をそれぞれ別の場所に転移させるとかどんだけ器用なんだ……?


 ともかく、会場の表にはもう沢山の人が集まっているだろう。

 隻眼の鷹はその中に紛れているのか、どこか物陰からチャンスを狙っているのか……或いはそのどちらも、か。


 会場の方からどっと歓声があがった。

 どうやらリザインも到着したらしいな。


 俺は周辺の気配を探りつつ表へと回る。

 裏手には潜んでいる刺客はいないようだ。


 このままこの周囲を見張っていてもいいんだが……ここに潜んでいないのは分かったし、表の方が危険度は高いよなぁ。


 よし、俺も民衆に混ざってリザインの演説を見に行くか。


『そんな呑気にしてて平気なの?』


 当然俺は警護の為に表に行くんだよ。

 リザイン自体はラムが障壁で守ってくれるから俺達はどこに敵が潜んでいるかを突き止めてとっ捕まえる役だな。


 会場はオープン形式のライブ会場のようになっていて、表に回るとスタンディングオベーションの民衆が山ほど集まっていた。


 リザインが壇上でマイクのような拡声器を片手にこの国のあり方、そして今後について熱く語っている。


 この民衆に紛れているとしたらどうやってリザインを狙う?


 銃のような道具、或いは魔法で狙い撃ちするとしたら少し高くなっている場所……。

 直接壇上に乗り込んで始末するのなら最前列近辺。

 そして演説が終わった後を狙うのならば会場の周りなどなど……。


 しかし、リザインが外を出歩くところが一切目撃されていないのはあいつらも分っているだろうから、転移ですぐに帰宅されるのを警戒して終わった後、というのは無しだろう。


 という事は……最前か、最後列か……。

 前の方、左右に分かれてティアとネコの姿が見えた。後方中央あたりにシャイナが控えている。


 ラムは舞台袖に控えているだろうから……俺はシャイナと共に後ろを警戒する事にしようか。



 そのまま特に何事もなく演説が進み、もう少しで終わろうという所で、何者かが壇上のリザインに飛び掛かった。


 俺は動かない。

 前にはティアが居る。この程度ならティア一人で十分だろう。


 案の定飛び掛かった男は空中でティアに足を掴まれ床に叩きつけられる。

 捕まれた靴を脱ぎ棄て即座にその場から逃げ出す男を追いかけてティアが離脱。


「皆さん落ち着いて。特に問題はありません。彼女は私の護衛です。私の身を狙う者が居るとの情報を受け護衛をお願いしていたのです」


 リザインはどよめく来場者に冷静な声で「大丈夫ですから」と繰り返す。


 しかしこの状況で隻眼の鷹が一人しか用意していない筈がない。

 本番はここからだろう。


 護衛を壇上から引き離して……。


『違う。引き離す事が目的じゃなくて視線を下に向けさせる事が目的よ! 上を見なさい!』


 頭に響くママドラの声に頭上を見上げると、そこには光り輝く太陽……が二つ。


「なっ、アレを隻眼の鷹が!?」


 見るからにかなりの高威力魔法だ。

 太陽と見紛う程の輝きと質量。

 アレをリザインに落として周囲ごと消し飛ばす気だ。


「くそっ、一体どこから!?」


『会場中に散っている魔導士が協力して発動させているのよ! 集中すれば魔力の線が見えるわ!』


 オーケー!


『上の魔法は任せるのじゃ! ミナト達は出所を潰せ!』


 ラムも上空の魔法に気付いたようだ。彼女が任せろというのならあの魔法の対処はラムに託そう。


 ならば……俺はその魔力の先を。


 既に先ほどの暗殺者をのして帰ってきたティアが宙を舞う。


 アルマが協力してくれているのか、ネコも別の場所を目指して動き出した。


 魔法球から伸びた魔力の線は四本。

 ティアとネコがそれぞれ向かったのを抜かすとあと二本だが、近くにシャイナが居るのを確認したので俺は消去法で残った場所へ向かった。


 民衆の右端最後列の男!


 俺がくるりと民衆の頭上を越えて、その男の背後に降り立ったのと同時に、頭上の巨大な光の玉がリザイン目掛けて急降下し、炸裂した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る