第295話:シュマルの英雄。


「ど、どどどどういう事か説明してくださいーっ!」


「仮にこの者が暗殺者だったとして、何もここまでしなくともいいのでは……?」


 やっぱりルークとリザインはこの死体を俺がやったと思ったらしい。


「ミナトさん! いくらなんでもこんな惨たらしい殺し方をしなくても!」


「あのなぁ。こいつはリザインを殺しに来たんだぞ? それに俺が殺したわけじゃねぇよ」


 俺の言葉を聞いてもルークは「酷い、酷すぎる……」とか言って全く聞いてくれなかったけれど、さすがリザイン、落ち着いて状況を分析できる男だった。


「ミナトさんがやったのでないとすると……まさか自害でも?」


「ああ、俺に勝てないとみるやいきなり自分の頭をボン、だよ。こいつら相当筋金入りだぞ。自分らの事を革命家か何かだと思ってるんじゃないか?」


 リザインは「ふむ……」と言って何か考え込んでしまった。


「ほ、本当にミナトさんがやったんじゃないんですね?」


「ルークは疑い深いな……俺は生け捕りにしようとしたんだよ。そしたらコレだ。情報を漏らすくらいなら死ぬって選択ができるくらいにはイカれた野郎どもだぜ」


「うっ、それにしても……これでは身元が分かりませんね……」


 ルークは気持ち悪いのを我慢しながらも何故か遺体のあちこちを観察し始めた。


 興味本位かと思ったが、真剣に身元に繋がる何かを探そうとしているようだ。


「む……これは? どこかで見た事があるような……」


 ルークは男の持っていたダガーの柄部分に掘られたエンブレムを指さしてこちらに見せてきた。


「俺は知らんな」


「私も……いや、確かにどこかで見た事がある気がするぞ」


 代表とルークが見た事がある気がするって事は……。


「この国の歴史とかに何か関係あったりするか?」


「それだっ!!」


 突然ルークが大声をあげたのでリザインは一瞬ビクっと身体を震わせた。


「何か分かったのかね?」


「覚えておりませんか!? ミナトさんの言っていた革命家、という言葉がどうにも引っかかっていたんですよ。これは隻眼の鷹です!」


「隻眼の鷹……だと?」


 二人の驚きようを見る限り、歴史上なかなか問題のあるような連中なのだろうか?


「俺にも分るようにその隻眼の鷹ってやつの事を教えてくれないか?」


 ルークは妙にテンションが高くなっていろいろ教えてくれたんだが……。


「隻眼の鷹というのはですね! まだシュマルが王政だった頃に圧政に耐えかねた民衆の中から立ち上がった者達が居たんです!」


「あー、なんとなくわかったからもういいぞ」


「いいえ、ここからが良い所なんです! 民衆の中から国に対して強い反発を持つ者達は国中から同じ想いの同志たちを集め、リーダーが隻眼だった事から隻眼の鷹と呼ばれるようになったんです!」


 あぁ……うん、大体そんな感じだろうとは思ってたけれどそのまんまだなぁ。


「聞いてますかミナトさん!」


「うわっ、聞いてるよ顔近付けんな!」


 まったく……こいつ国の歴史とかそういうのにやたら興味があるらしくリン・イザヨイの話になった時もこんな調子だった。


「そして集った隻眼の鷹メンバーは国民全員の想いを背に王に戦いを挑んだのです!」


「へぇ、正面切って騎士団ぶっ潰して国を落としたのか?」


「え、いや……その……」


 そこでルークは妙に言い淀んでから、続けた。


「まず水源に下剤を流し込み騎士団を行動不能にさせた上で暗殺者を送り込み王を始末しつつ全員でなだれ込み王族とそれに与する者達を排除した、と……」


「……」


 ああそうだそれが正解だよ。民衆が国相手に本気で喧嘩売ろうとしたらそれが大正解のやり方だ。

 でもさぁ……なんていうのかなぁ。

 隻眼の鷹、とかいう大層な名前が泣くぞ?


「そ、その顔はなんですか! 確かにやり方は少々卑怯という人も居ますが、それでも悪名高き二十三代目シュマル王を倒した英雄たちなんですよ!?」


「……へぇ。とりあえずその隻眼の鷹とやらが居たおかげで今のシュマル共和国があるんだって事は分かった。でもそこの暗殺者はかなりの手練れだったぞ」


 あの実力とあの覚悟はただの民衆とは思えない。

 それこそ本当に命がけで革命をと願う戦士だった。


『当時の隻眼の鷹って人達だって本気だったから卑怯な手も使ったんじゃないの?』


 ……それもそうか。

 どちらにせよ今回の敵はそいつらって事になるのか……?


「でもその王政をぶっ壊した隻眼の鷹がなんだって今になって民主主義を壊しかねない動きをしてるんだ……?」


「それは……分かりません」


「どっちにせよ、だ。もし本当に隻眼の鷹が動いてるんだとしたら、その英雄に命を狙われてるんだぞ? 喜べよルーク」


 やっと事態の深刻さに気付いたらしくルークの顔が青くなっていく。


「し、しかし……隻眼の鷹はもう存在していないはず……それに私達を狙う理由がありません。きっと隻眼の鷹の名を騙る狼藉者に違いありません!」


 よくもまぁそこまで断言できるな……。

 それだけ後ろめたい事が無いという事なのか、逆に何かやらかしてるからこその焦りなのか。


「ど、どどどどうしましょう! もしですよ、隻眼の鷹が本物だったとしたらある意味狙われるのってレアな経験ですよね!?」


 ……いや、こいつに悪さが出来るようには思えねぇな。



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