第290話:建築技師タチバナ。


 目覚めた護衛の連中は一瞬の出来事だったのでジンバが首謀者だった事は気付かなかったようだ。


 むしろ、「隊長が助けに来て下さったんですね!」だそうだ。

 当のジンバはとても複雑そうな表情をしていたが、そこは堪えてもらうしかない。

 罪悪感を抱えて生きていくというのもこいつにとっての罰の一つだ。


 んで、代表はといえば。


「おおジンバ! 君が助けてくれたんだな……馬車が魔物の大群に囲まれた時はさすがに死を覚悟したぞ」


 同じだった。

 ジンバはまず魔物に馬車を取り囲ませて、応戦しようとした防衛隊員を即座に襲撃、意識を奪い、馬車の中に眠り薬的な物を撒いて代表を眠らせたところだったらしい。


 つまり、誰もジンバの姿を見ていなかった。


 ティアあたりは「そんな事あるぅ?」と訝しんでいたけれど、おそらくジンバは最初からこの命令をサクっと終わらせてすぐに防衛隊の隊長に戻るつもりだったんだろう。


 ジンバが自分の立場を守りたがったせい、というかおかげで結果的にうまく話がまとまったように思う。


「リザイン様、魔物の群れを倒し貴方を救い出したのは私ではありませんよ」


 シュマル代表はリザインという名前らしい。


「……そうなのか? では……この女性達が?」


「女性と侮るなかれ、彼女ら一人一人が我等防衛隊全体以上、と考えて頂いて問題ありません」


「はは、強いのは分かったがさすがにそれは言い過ぎであろうよ」


「……」


 リザインは苦笑いしていたが、ジンバはその顔を真っ直ぐに、真顔で見つめ返していた。


「……まさか、本当に……?」


 無言で頷くジンバに、リザインの苦笑いがどんどん引きつっていく。


「彼女らはこの国で……いや、世界中まで範囲を広げても最高峰の実力者ですよ。私が保証します」


「そ、そうか……冗談では、ないのだな……」


「はい。防衛隊隊長、ジンバの名にかけて。つきましては彼女らをリザイン様の護衛に推薦させて頂きたいのですが」


 ジンバの奴……ルークから何か聞いていたのか?

 それとも純粋に代表の身を案じての事か、どちらにせよ俺達にとってはありがたい話だ。


「う、うむ……それは願っても無い。ただ、とにかくまずはガリバンへ戻ろう。詳しい話は私の家でしようじゃないか」



 馬車は壊れてしまったが馬をそのまま放置するのは忍びないので一緒に転移する事になった。

 さすがに人数が多いので、途中で一度休憩をとる形式で頼もうかと思ったがラムの提案により別の方法を取る事になった。


 まず防衛隊員と馬をガリバンへ。

 俺達はラムが帰ってくるのを待って、残り全員を纏めてガリバンへ。


 ラム的にはこっちの方が楽らしい。

 何が違うのかよく分からないけれど。


 一気に大人数を運ぶより少ない人数を運ぶ方が楽って事なんだろう。



「本当に一瞬でガリバンまで……この少女はとてつもない魔法の才があるのだな」


「ええ、私も彼女たちの力には驚くばかりです」


 首都ガリバンの入り口まで到着すると、先に到着した防衛隊員から聞いたのかルークが出迎えてくれた。


「良かった、皆さんご無事でしたか!」


「おう、とりあえずはな」


 そんな事よりも俺はルークの隣に立っているガラの悪そうな男が気になってしょうがなかった。


 めちゃくちゃ背が高くて、天然パーマの長髪を頭の上でひとまとめにしている。

 それだけでも特徴的なのにサングラスをして、袴を履き、新選組によく似た羽織りを見に纏っていた。


「ああ、こちらの方はですね……」


「紹介の必要はねぇよ。そいつだろ? タチバナって奴は」


 建築技師タチバナ。

 ガリバンに来た時にルークが言ってた奴だろう。


「あらー? 俺っちの事知ってるのかい? ちょっとルーちん話が違うじゃんよ~」


「そのルーちんっていうのやめてくれませんかねぇ……」


 チャラい……こんな奴だったのか。


「お前新選組好きなのか?」


「おーよく分かってんねー君! 世間じゃ沖田、土方人気が凄いけどやっぱり新選組って言ったら近藤勇よな!」


「俺は斎藤一派だよ」


「そっちかーっ!」


 俺のわき腹をラムがちょんちょんと突いた。


「お主等はいったい何の話をしとるんじゃ……?」


「あぁ、ごめんごめん。こっちの話だよ」


「いやー、君ほんと面白いねこんな話出来たのは初めてだよ! ……って、あっれれー?」


 やっと気付いたか。


「えっ、あっれー? 君、もしかして……」


「おうよ。お前も日本人だろ? ……うわっ、なにすんだてめーっ!! ぎゃーっ!!」


 突然タチバナが俺に飛びついてきて押し倒されてしまった。


「俺っち以外の転生者に初めて、初めて会えたんだこんなに嬉しい事は無いっ!」


「分かったから離れろこの野郎! 死んでもしらねーぞ!」


「はは、男勝りだな君は……うへっ?」


 俺が言ったのは冗談でもなんでもなかったとすぐに気が付いたようだ。


 死んでも知らねぇぞ。


 俺に抱き着いたまま顔を上げたタチバナにはダンテヴィエルが付きつけられ、シャイナの魔法剣はむしろちょっと刺さってる。


 ラムは魔法をぶっぱなしそうになってるしネコは目からビーム発射準備してる。


「もう一度言うぞ? 死にたくなかったら離れろ」


「……ハイ」


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