第284話:猛追。


「わ、私はジンバ隊長が魔物と繋がっているなんて信じないぞ!」


「信じようと信じまいとどっちだっていいんだよ。実際確認すればいいだけだ」


「ならば私はジンバ隊長の無実を証明する為に真実を知らなければ……」


 シャイナは完全にジンバを信用している。ジンバがいつから隊長をやっているのかは知らないが、ずっと共に仕事をしてきたんだろうから信用して当然、疑いたくはないだろう。


 だからこそ俺が疑わなきゃいけない。

 もし本当に関係ないならそれでいい。だけど、シャイナではジンバを疑う事が出来ない。


「シャイナ、仮に……仮にだ。ジンバが魔物と繋がっていて、今回の件を仕掛けたとした場合、この程度の魔物俺達にとって相手にならないのは理解しているはずだ」


「……そう、だろうな。あの試験を見れば誰だって分る。こんな魔物がいくら束になった所でミナトには敵わない」


 ……だからこそだ。


「繰り返すがこれはジンバが魔物と繋がっていた場合、の話だぞ? 朝からティアとラムが討伐依頼で出ていた時を狙ったのか、それが偶然だったかはともかく、足止めが狙いだと思うんだ」


「足止め……?」


「今日この街で何かあるんじゃないか?」


 特別な催し、あるいは要人が集まる会合など……。


「……いや、特になかったと思うが……」


 シャイナは眉間に指を当て必死に記憶を探っている。


 ……ハズレか? てっきりそちらから目を逸らさせるのが目的だと思ったんだが……。


「待てよ? 今日は確か……そうか、もしかしたら……」


「何でもいい。思い出した事があるなら言ってくれ」


 俺達はこの街について何も知らないのでシャイナの情報に頼るしかない。


「今日は代表が視察から帰ってくる日だったはずだ。防衛隊からも腕利きを五人ほど護衛に付けているから余程の事が無い限り大丈夫だと思うが……」


「さっきの襲撃を見ても同じ事が言えるのか!?」


 いくら腕利きだったとしても普通の人間、ここの防衛隊員の中で強い方というだけだ。

 陽動にこれだけの魔物を投入するなら本隊はこんなもんじゃ済まない。

 十分過ぎるほど余程の事だ。


「し、しかし……そんなのはただの推論じゃないか。ジンバ隊長が代表を襲うだなんて……」


「そんなのは代表一行と合流してから考えりゃいいんだよ! 急ぐぞ!」


「ま、待ってくれ。代表達が今どこに居るのかまでは分らないぞ」


「ラムちゃん、特定人物の位置を感知したりは出来るか?」


 ラムはノータイムで首を横に振る。


「どこの誰とも分らぬ相手を探せ、と言われてもどうしようも無いのじゃ」


「まぁそうだろうな……。それなら、シャイナ。代表はどこからこちらに向かってるんだ?」


「えっと……シャールの街の視察帰りだから……街の南側の街道から帰ってくるはずだ」


「よし、それならその街道を突っ走ればいいだけだ! 代表と話をつけるのにお前も来い!」


 俺は頭にはてなマークを浮かべているシャイナを担ぎ上げ、ダッシュ。

 あれこれ話している時間すら惜しい。とにかく代表の元まで突っ走るのが一番手っ取り早い!


「う、うわっ、ミナト……? 急にこんなっ……って、うわーっ!!」


 俺の肩の上でシャイナが悲鳴を上げる。その悲鳴は風に乗って既に遠くに行ってしまった。


「シャイナ、この道でいいのか!?」


「ひ、ひぃっ! せめて、前を……前を……!」


 適当に担いで走りだしちまったからシャイナは今後ろ向きの状態だった。


「確かにこれじゃ分かりにくいよな。ほいっと」


 走りながらシャイナを軽く放り投げ空中で一回転させ、今度は背負う形に受け止める。


「ぎゃぁぁぁっ!!」


「怖がってるところ悪いがこの道で良いのかどうか早めに返事をくれ」


「合ってるよ……くすん」


「オーケー、じゃあもっと飛ばすぞ!」


「ひっ、これ以上、早く……!? い、痛い痛い風が痛いっ!」


 シャイナが風圧を顔面に受けて騒いでいるがもうちょっと我慢して頂こう。

 こいつが居ないと代表に会った時にうまく話が進められないと思うしどう考えても不審者になっちまうからな。


「ちょっとミナトーっ! 私を置いて行くなんて酷いよ私おこだゾ!」


「うわびっくりした!」


 突然俺の隣にティアが現れた。

 完全に俺に並走する形で……。


 スキルフル稼働で走ってる俺についてくるとかこいつも大概だな……。


「なんでついて来たんだ?」


「こっちの方が楽しそうだからだゾ♪」


 こいつは頭の中どうなってるんだ? やっぱりママドラとちょっと似てるんじゃないか? 楽しければそれでいいって思考回路がそっくりだ。


 ティアの場合楽しむために無茶苦茶やるだけの実力があるから質が悪い。


「おっ、ほらこっち来て正解♪ 見て見てミナト! 魔物がかなり群れてるゾ!」


 まだ視界に微かに入った程度だが、確かに魔物が群れを成している。

 こんな大きな街道沿いにあれだけの魔物が固まってるのは不自然だ。


 ジンバの関与はともかく、代表を狙って俺達を足止めする為の襲撃だったのは間違いないな……。


「ティア、奴等頼んでもいいか!?」


「もっちろん! 任されたーっ!!」


 ティアが一気に加速し、ダンテヴィエルを振り回しながら俺が進む先に居る魔物を蹴散らしていく。


 本当に頼もしい勇者様だよ。

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